魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
「そして、外側に反っていれば、裏の付け根の色が見やすい。これは、火竜由来の色だ。この辺が反っているので、見るものが見れば近づかなくともレンガ色が確認出来て一目でわかる。が、竜のその時の態勢や角度によるし、きっと幼体の頃は見えなかっただろうし、気づかなくてもおかしくはない」
ビッケルは驚いて、ナターリエに確認をした。
「もしかして、ナターリエ様は、これをご存じだったのではないのですか……? 違うのですか?」
「えっ、あ、あの……」
「ご存じではないのに、火竜の血を引いているとおっしゃっていたのですか?」
「えーと、えーと……なんとなく、なんとなく、火の匂いがするなって……思いましたの……!」
苦し紛れにしても雑すぎる言い訳だ。その会話に、今度はヒースが目を丸くする。
「ナターリエ嬢はこの竜が火竜の血を引くとご存じだったのか?」
「い、いえ、あの」
しどろもどろのナターリエ。だが、困ったことにビッケルがそれにはっきりと答える。
「はい。先ほど、火竜の血を引いているとご指摘いただいて……」
「なんと。しかも、それが火の匂いがする、なんて理由だとは……もしや、ナターリエ嬢は、魔獣使いのスキルがあるのでは……」
そんなスキルはありません! と大声で否定をしたかったが、否定したところでどうにもならないことをナターリエはわかっている。仕方なく「ほほ、そ、そうかもしれませんわね……」と、毒にも薬にもならない相槌を打って、ささっと柵から出た。
「で、では、汚れた靴では戻れませんので、このまま帰らせていただきますわ。ビッケル様、ありがとうございます。くれぐれも子爵によろしくお伝えくださいませ。それから、ヒース様、ご挨拶出来て光栄でした。またお会いした時は、竜のことを色々教えてくださいましね。では!」
美しい形の挨拶とは裏腹に、ナターリエは全速力でその場から駆け出した。やばい。やばいやばい。いや、あれ以上特に追及される場もないだろうし、ヒースなら、きっと竜舎の改善なども子爵に提案してくれるに違いない。とにかく一刻も早く馬車に飛び乗ってここから去ろう、そうしよう、ところで、ここから馬車までどう行けば……と、脇目もふらずに走っていると、使用人の待機所にいたはずのユッテが何を嗅ぎつけたのか、前方に現れて馬車まで誘導をするという、ナイスアシストをする。
「お嬢様~! 馬車はいつでも出せる状態でございます!」
「有能にもほどがあるわ……! どこから見ていたの?」
「お嬢様なら竜舎に忍び込んで問題を起こしてお逃げになる可能性があると思いまして、ずっと竜舎方面をうかがっておりましたら、案の定お嬢様が走って来られる姿が見えて……」
ユッテの推測が酷すぎる。自分はそんな無茶をするタイプではないのに、とナターリエは思うが、どうやら自分付きの女中からの評価は違うようだ。
「わたしもわたしなら、ユッテもユッテよ……!?」
「わたしをこのようにしたのは、お嬢様ですよ!」
二人がひいひい言いながら馬車に辿り着くと、ハーバー家に長く勤めている御者がナターリエを半ばボックスに押し込み、何も聞かずにすぐさま御者台に座って手綱を握る。何故かはわからないが、走って来る姿を見て、急がなければいけないと勝手に判断をしたようだ。ハーバー家の御者もこれまた、ナイスアシストと言える。
そんなこんなで、素晴らしい使用人たちの連携でナターリエはなんとなく一命を(?)とりとめた。
その走りっぷりを見送ったヒースが
「なるほど。あれが、ナターリエ嬢か……」
と、何やら含みがあるつぶやきを残したことなぞ、まったく知らずに。
ビッケルは驚いて、ナターリエに確認をした。
「もしかして、ナターリエ様は、これをご存じだったのではないのですか……? 違うのですか?」
「えっ、あ、あの……」
「ご存じではないのに、火竜の血を引いているとおっしゃっていたのですか?」
「えーと、えーと……なんとなく、なんとなく、火の匂いがするなって……思いましたの……!」
苦し紛れにしても雑すぎる言い訳だ。その会話に、今度はヒースが目を丸くする。
「ナターリエ嬢はこの竜が火竜の血を引くとご存じだったのか?」
「い、いえ、あの」
しどろもどろのナターリエ。だが、困ったことにビッケルがそれにはっきりと答える。
「はい。先ほど、火竜の血を引いているとご指摘いただいて……」
「なんと。しかも、それが火の匂いがする、なんて理由だとは……もしや、ナターリエ嬢は、魔獣使いのスキルがあるのでは……」
そんなスキルはありません! と大声で否定をしたかったが、否定したところでどうにもならないことをナターリエはわかっている。仕方なく「ほほ、そ、そうかもしれませんわね……」と、毒にも薬にもならない相槌を打って、ささっと柵から出た。
「で、では、汚れた靴では戻れませんので、このまま帰らせていただきますわ。ビッケル様、ありがとうございます。くれぐれも子爵によろしくお伝えくださいませ。それから、ヒース様、ご挨拶出来て光栄でした。またお会いした時は、竜のことを色々教えてくださいましね。では!」
美しい形の挨拶とは裏腹に、ナターリエは全速力でその場から駆け出した。やばい。やばいやばい。いや、あれ以上特に追及される場もないだろうし、ヒースなら、きっと竜舎の改善なども子爵に提案してくれるに違いない。とにかく一刻も早く馬車に飛び乗ってここから去ろう、そうしよう、ところで、ここから馬車までどう行けば……と、脇目もふらずに走っていると、使用人の待機所にいたはずのユッテが何を嗅ぎつけたのか、前方に現れて馬車まで誘導をするという、ナイスアシストをする。
「お嬢様~! 馬車はいつでも出せる状態でございます!」
「有能にもほどがあるわ……! どこから見ていたの?」
「お嬢様なら竜舎に忍び込んで問題を起こしてお逃げになる可能性があると思いまして、ずっと竜舎方面をうかがっておりましたら、案の定お嬢様が走って来られる姿が見えて……」
ユッテの推測が酷すぎる。自分はそんな無茶をするタイプではないのに、とナターリエは思うが、どうやら自分付きの女中からの評価は違うようだ。
「わたしもわたしなら、ユッテもユッテよ……!?」
「わたしをこのようにしたのは、お嬢様ですよ!」
二人がひいひい言いながら馬車に辿り着くと、ハーバー家に長く勤めている御者がナターリエを半ばボックスに押し込み、何も聞かずにすぐさま御者台に座って手綱を握る。何故かはわからないが、走って来る姿を見て、急がなければいけないと勝手に判断をしたようだ。ハーバー家の御者もこれまた、ナイスアシストと言える。
そんなこんなで、素晴らしい使用人たちの連携でナターリエはなんとなく一命を(?)とりとめた。
その走りっぷりを見送ったヒースが
「なるほど。あれが、ナターリエ嬢か……」
と、何やら含みがあるつぶやきを残したことなぞ、まったく知らずに。