魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
(ああ~! 一刻も早く魔獣鑑定士になって、スキル鑑定のスキルを封印したいわ……!)

 と、心の中で願ったが、願えばかなうわけでもないので、ナターリエはもじもじとする。

「ですから、まるで知った顔をして話の腰を折って申し訳なかったと思い、謝罪に来たのだ」
「あっ、あのっ、あのですね……ヒース様」
「うん」
「……えーーーーーーーーっと」

 声をかけたが、それ以上の言葉が出ない。ヒースからの視線が痛い、と思う。

「わ、わたし、そう、竜の心が読めますの!」
「……?」

 自分でも突飛なことを言い出したな? と思ったが、ナターリエの暴走は止まらない。

「ですから、ですから、えっと、ヒース様の謝罪は受けられませんわ! その、たまたまです。たまたま、えーっと、心を読めると言っても、本当にたまにのことですので、ええ、そのたまたまが今回でしたの!」
「竜に、会ったことがあると?」
「う」

 ない。というか、魔獣に会ったことがまず、ない。微笑みを顔にはりつけて、ナターリエの言葉は止まった。が、その彼女を見て、ヒースは堪らず笑い出す。

「……ふふ、ふ、はは」
「ほ、ほ、ほ……」

 仕方なくそれに合わせて無理矢理笑うナターリエ。

「わかった。いや、全然わからんが、俺の謝罪を受けないということはわかった」
「は、はい。そうしていただけますと、とても、とても助かります……」

 ナターリエは頬を紅潮させて俯く。よくわからないが、一応話はそれで終わったようだった。

「あの、グローレン子爵に、竜のことは……あの柵では……」
「ああ、そうだ。あのままではよろしくなかったので、話をした。なるほど。あの環境ではよろしくないともあなたはわかっていたんだな」
「んん……」

 攻めて来るな……と思いながら、ナターリエは仕方なく笑う。

「はい。えーっと、その、魔獣について勉強しているものですから……」
「そのようだな。子爵は、竜舎を建て直すと言っていた」
「ああ、それはよかったですね。いつブレスを吐くかわかりませんものね」

 そういって微笑むナターリエを、じっとヒースは見た。その視線が痛い、と思う。

(何かしら。わたし、何かまたやらかしてしまったのでしょうか……)

 それはそうだ。竜舎を立て直すと言っただけ。その時点で意味がわかってしまう辺りが既に普通の令嬢とは違うのだが、それにナターリエは気付いていない。

 だが、ヒースはそれへ特にそれ以上問わず、退出を申し出た。

「それでは、俺はこれで。謝罪に来ただけだったので……」
「はい。わざわざ足を運んでいただき、申し訳ありませんでした」
「ああ、ナターリエ嬢」
「はい?」
「その……すまない。俺は、どうにも辺境でずっと過ごしていたせいか、言葉遣いが粗くてな。もし、上から言っているように聞こえていたら申し訳ないが、それは許していただけないだろうか」
「いいえ、全然大丈夫ですよ」

 ナターリエがそう言って笑うと、ヒースは「そうか」とはにかんだ微笑みを浮かべた。それを見たナターリエは、あのパーティーでのしかめっ面はなんだったのかと思う。

 応接室を出て、2人は竜について少し会話をしながら歩いた。ナターリエは

(そうか、地竜と火竜では食べるものが違うから、火竜が食べるものを食べていなかったので、スキルが覚醒しなかったのね……)

と驚く。

 エントランスから外に出て、馬車に乗ってヒースが去るまでの間、ナターリエは「これでは魔獣鑑定士の実地試験本当に受かるのかしら……?」と、そちらにも気がとられた。おかげで、綺麗に着飾った状態で、午後には王城の図書館に足を運ぶことになる。
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