魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
3.空の旅に
 魔獣研究所は、王城から少しだけ距離がある。万が一のことを考え、二重の外壁を持つ建物だ。敷地は広く、飼い慣らす魔獣の数は多いが、専任の魔獣鑑定士は1人しかいない。そして、魔獣たちの面倒を見る者を10人ほど雇っている。

 魔獣の中には知能が高く、攻撃魔法を使うものもいる。それらは捕らえることも難しいし、研究をしようにも魔法を防ぐことが必要で、現在研究所には運ばれていない。同じく、炎のブレスを吐くようなものなど、野生動物にはない、魔獣だからこそ発生する飛び道具的なものを持つ者は、いまだに収容が叶わない。

 だが、それ以外の魔獣はかなりの数収容されており、ナターリエは「本当に魔獣研究所で働けるようになっても良い」と思っていた。

(なんにせよ、試験に合格はしなければ)

 ついに、今日は実地試験の日だ。何があるかわからないので、ナターリエは乗馬用のパンツスタイルでやって来て気合十分だ。
 魔獣研究所に到着すると、がらんとした一室に通される。それから、一人の係員に説明を受けた後、試験に同行する担当者一人と、更にもう一人の男性が部屋に入ってきた。

「失礼する」
「ええっ!?」

 驚きの声をあげるナターリエ。何故ならば、そこにヒースが現れたからだ。

「はは、まさか魔獣鑑定士の認定を受けるとは」
「ど、どうしてヒース様が?」
「事情があって」

 と、今度は彼の方が話を濁す。

「ナターリエ様、それではこちらに」

 ヒースと共にやってきた「担当者」がナターリエを呼んで、3人で通路を歩いていく。やがて、多くの檻が並んでいる部屋に入る。何種類もの唸り声が響いて、若干うるさい。

「これから10匹の魔獣を見ていただきます。名前とスキルなど鑑定で見えたものすべてを記入をしてください。1匹に対して時間は2分です」
「はい」

 紙とペンを与えられ、試験が始まった。ナターリエは対象の魔獣に対して指を指す。それが、彼女のスキルの発動条件だ。

「ん~」

(一角猫。雄。3才。スキルは突撃。尻尾の付け根に怪我をしている)

 すらすらとペンを走らせていくナターリエ。ヒースは壁に背をつけて、黙ってその様子を見ている。

「2分。次」

(それから、フォレストホーン。雌。1才。スキルは現在はなし。潜在スキルに隠密。まだ体が森の色になりきっていないから、潜在スキルなのね)

 次々にナターリエは鑑定をして書き込んでいく。が、それも8匹目までだった。

「えぇ?」

 驚きで目を見開く。

(これは『古代種』の1つ、アクリース? 3才。スキルはなし。弱っているわ……どうしたらいいのかしら……)

 見るからに弱っているその古代種は、膝から下が「ない」と言われている鹿の一種だ。単に膝から下が白いだけなのだが。手を止めて、ナターリエはじっと見る。

「食べてるの?」

 と、不意に声を出してしまって「あっ」と口を覆う。それと、担当者が「次」と言うのが同時だった。

「んんん」

 そして、最後の10匹目。

(これも『古代種』だわ。赤獣ランスレー。12才。スキルは……わあ、炎のブレスに、体当たり。大きな手足でとんでもなく飛ぶのね……そういえば、炎のブレスがスキルにあるというのに、こんなに穏やかでいるなんて……一体何をどうしたら、大丈夫なのかしら? そもそも、わたしがこうやって見ている間にブレスを……あら、あら、欠伸をしたわ……よーく慣れているのね?)

「わあぁ~」

 真剣に見ると、口から間が抜けた声が出る。ヒースはそれを後ろで笑わないように堪えていたが、ついに「あっはは!」と耐え切れなかったようだ。

「ふぁっ!?」

 驚いてヒースを振り返るナターリエ。担当がまた同時に「終了です」と告げる。

「す、すまない……その……間が、その、少々、抜けている声を出すので……」
「まあ! そ、それは、本当かもしれませんが、失礼ですわ……! 本当かもしれませんけれど!」

 恥ずかしさに頬を染めてナターリエがそう言えば、担当が彼女の手から紙とペンをさっと取り上げる。

「時間です。先程の部屋でお待ちください」

 ドアを開けて、ぽい、と部屋の外に出されるナターリエ。

「ちょっと、雑じゃないかしらね?」

 少しばかり不満に思いつつ、最初にいた部屋にナターリエは戻っていった。
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