魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
「そうだったのですね」
「俺が、魔獣研究所に魔獣を運んだ後の話だがな」
「あら……それは、わたしが言うのもおかしな話ですが、お手数をおかけいたしました」
「いや、そいつは確かにおかしな話だ」

 苦笑い。それへ、ナターリエも苦笑いで返す。

「それで、俺たちがこちらに戻って来るまで、リントナー家で軟禁というか、そのう」
「えっ」
「なんだ、身柄をお預かりしていてな。馬車で王城に戻すには時間がかかるし、飛竜の使用は俺の許可が必要なので、俺が戻ってきて翌日王城にとお送りした」
「……あ! 飛竜が、3体いなかったのって」
「そうだ。王子を、お送りして」

 そして、こちらに来た翌日にヒースが仕事で一日空けていたのは、リントナー家に行って第二王子を王城に送る話をしていたのだとヒースは言った。

「そうだったのですね。まあ」
「第二王子は、あなたのことをそんなにはよく知らないようだった」

 そのヒースの言葉で、ナターリエの唇は引き結ばれた。確かにそうなのだろう。知るも知らないもなく、拒絶をされた記憶しかない。ただ、きっと第二王子もそれなりに考えがあっただろうし、歩み寄ろうとしなかった自分の責任もないわけではないとも。

「婚約者になると言って顔合わせをした日に、王子ご自身から、自分は認めない、とおっしゃられて……とはいえ、それもまあ気持ちがわかりますので」
「しかし」
「ヒース様、政略結婚というものの多くは、どちらも折れるか、あるいはどちらかが仕方なく折れることになるか、ではないでしょうか」

それはそうか……と唸るヒース。

「第二王子は、ご自分は何もメリットがないのに、仕方なくわたしと婚約を結ばされたので……勿論、それはわたしのスキルのせいでしたし、国としてはメリットが大きいのですが、当時の王子には、スキル鑑定のスキルがどれほど大切なのかをご存知なかったので、仕方がないのかと」
「スキル鑑定のスキルとなれば、どの国でも引く手あまただし、国の人材育成のためには欠かせないものだし、あまりこういうことは言いたくないが……戦でも重宝されるだろう」

 そのヒースの言葉に、ナターリエは少しばかり悲し気に「はい」と言ってうなずいた。

「まず、おっしゃるように、国の人材育成や臣下の適材適所の配置にも適しています。それから、潜在スキルがある者を探して囲うことも」
「そんなこともしているのか」
「はい。それから、戦では、これはわたしがそうであるうちに戦がなかったので良かったのですが……前線に出て、敵のスキル持ちを探すこともします。スキル持ちを中心に陣が組まれていることが多いですし、それが将となっていなくても、重要な役割を持っているだろうと思われます」

ナターリエの表情は強張っている。そうか、彼女は自分が戦に出るときのことも考えていたのか……とヒースは眉を潜めた。

「また、スキルを使っての戦術を組まれている可能性もありますので、それを看過できます。ただ、それは逆に……スキル鑑定スキルを持つ者を探して、まず倒そうという話になってしまうので、なかなかリスクが高いのですが」
「……」
「とにかくですね……それほどのスキルなので、その、魔獣鑑定士になると言った時、めちゃくちゃ陛下と喧嘩をしました」

 へらりとナターリエがそう言うと、ヒースも、ほう、と息をついて「そりゃそうだろうな……」と呆れ顔だ。

「ですが、我が国は戦を当面する予定はありませんし、隣国とうまくいっていますし、何より、今からわたしを更に国に囲い込もうとすれば、第三王子、あるいは第四王子と縁を結ぶしかありませんし……」
「第三王子はともかく、第四王子は9歳だろう」
「はい」

 そりゃあ無理だ、とヒースは苦々しい表情になる。

「陛下は、その、戦が起きたら例外的にわたしが封じているスキル鑑定のスキルを解除するおつもりで……なので、第二王子との婚約もそのまま継続をして欲しいとおっしゃっていました。本当に万が一の話だったので、その万が一のために婚姻を結ばなければいけないのは、わたしも不本意でした。第二王子はもっと不本意でしたでしょうし、ですから、婚約破棄は、そのう、そう、悪くはなかったのです」
< 37 / 82 >

この作品をシェア

pagetop