魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
20.第二王子からの告白
 翌日、朝からヒースの飛竜で王城に向かった。鞍をつけてくれたのはフロレンツで、ナターリエがそれに「ありがとう」と言えば、彼は「頑張ってください」と一言だけ返した。なるほど、ヒースから王城での顛末を聞いているのか……それに対しては、悪い気はしなかった。彼が、自分のことをそうやって話してフロレンツに相談をしたのだと思えば、少し照れ臭いがなんとなく安心をする。

 ヒースから話を聞いたことを、フロレンツは言う必要はないのだ。黙っていればいい。だが、それでも「頑張ってください」と言葉にするなんて、彼も自分のことを考えてくれているのだろう。そのことは素直に嬉しかった。

 飛竜に乗って王城に向かう。もしかしたら、ハーバー伯爵家に戻れと言われてしまうかもしれない。もう、リントナー領に戻るなと言われるかもしれない。ナターリエは飛竜から景色を見下ろして

「素敵ですね。いつ見ても、気持ちが良いです!」

 と、ヒースに言った。ヒースは小さく笑って「ああ、そうだな」と返す。それから、思いついたように続けた。

「もしかしたら、ナターリエ嬢は飛竜に一人で乗れるかもしれないな」
「えっ、わたしが、ですか?」
「ああ。馬にも乗れるのだし。飛竜の騎乗の訓練は、戦いさえしなければそう大変ではない」
「まあ。そうなのですね! それは……」

 嬉しい。乗ってみたい。そう思うものの、ナターリエの声は曇った。

「……まあ、そういう機会はないのかもしれないがな……」

 これが、飛竜に乗る最後かもしれない。彼女が言葉を濁したのがそういう意味だろうとヒースは思って、苦々しく言った。だが、ナターリエの返事はそうではなかった。

「いえ。あの……こうやって、ご一緒に乗れなくなってしまうかと……いえ、その、確かに、そういう機会は……」
「!……いや、今の話はなしだ、なし!」
「でも、そのう、一人でも乗ってみたいかなって……」
「なしだ!」

 ヒースは大声で繰り返した。ナターリエは、彼のその言葉に笑った。



「リントナー辺境伯令息、ハーバー伯爵令嬢、王がお呼びです」

 王の謁見に呼び出された二人は、顔を見合わせて頷き合う。
 謁見の間に入って、各々挨拶をする。すると、どうも国王と王妃の表情が芳しくない。

「先日は失礼いたしました」
「うむ。で、リューカーンは大丈夫だったのか」
「はい。リューカーンの子供を保護し、親竜の元へと返しました。その礼として、こちらの鱗を預かっております」

 そう言ってヒースは、リューカーンの鱗を包んでいた柔らかい布を広げた。

「お前たちが先日持っていたものより大きいが」
「国王陛下に献上をする旨を伝えましたら、大きな鱗をいただくことが出来ました」

 壁に沿って立っている臣下に国王は命じて、その布ごとヒースから受け取らせる。そして、玉座への段をあがらせ、その鱗を手にした。

「ああ、まさしく、これは宝物庫にあるリューカーンの鱗の盾と同じ色をしている。こんなに厚手ではなかったが、軽く、だが、硬い。きっと本物なのだろうな」
「リューカーンが住んでいる巣には、高度飛行のスキルを持つ飛竜でなければ入れないため、子供の竜を運び出すことももう出来ませんが……」
「うむ。古代種すべてを魔獣研究所に置く必要はない。これは、鱗を仲介して会話が出来るのか?」

「はい。しかし、それは持ち主だったリューカーン側からの語り掛けからしか」
「であれば、話は別だ。双方簡単に会話が出来るのであれば、色々と調べることも必要だと思うが、リューカーン側からしか出来ないとなると、本体からの力が不可欠だろうしな。それに、こうやって鱗をくれるということは、互いに不可侵であることを守ろうと言うことだろう。あいわかった」

 国王のその言葉にナターリエはほっと胸を撫でおろした。リューカーンは言葉にはしなかったが、確かにあの「住処」を出ようと思えば出られるし、やろうと思えば大量の魔獣を眠らせられるし、そして、実に他にもスキルはある。あの体で体当たりをして、岩を崩して。あの住処を出ることだって可能だ。だが、それを彼らはしない。だからこそ、ヒースやナターリエを頼ったのだし。

「ヒース・リントナーよ。ご苦労だった。引き続き、責務に励むが良い」
「はっ。ありがたきお言葉」

 ヒースがそう答えると、そこでリューカーンについての報告が終わったことになる。国王は「ナターリエ」と声をかける。
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