魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
「まあ、ようございましたね!」

 ユッテに報告をすれば、たった一晩で何がどうなったのか、と驚いたものの、心から祝福をしてくれた。国王との謁見の話、第二王子との話、ハーバー伯爵邸での話などを、ざっとユッテにすると、彼女は目を輝かせてそれらを一通り聞いて

「お嬢様、本当にお疲れ様でしたねぇ……何にせよ、本当に良かったです! ええ、ええ、第二王子もそのう、造作はとても良い感じではありましたし、なんといいますか権力的にも大きかったですけれど、ええ、ええ、ヒース様でしたら、申し分ございませんよ!」

 権力的に大きい。なんという適当な、そして不遜な言葉を口にするか。ナターリエは苦笑いを見せる。

「ユッテがたまーに本音を言うの、ほんと好きなのよねぇ~……」
「あらあら、そう言っていただけますと」

 すると、ノックの音がして、ヒースが「失礼する」とドアを開けた。どうやら、彼はとっくに「平常運転」に戻っているようで、その表情は飛竜騎士団長のものだった。

「ナターリエ嬢、ようやく古代種トルルークを捕獲した。早速だが、鑑定を頼めるか?」
「はい、勿論です!」

 ナターリエは満面の笑みで返事をする。それから、慌てつつも紙と黒鉛も持って、部屋を飛び出る。ヒースと共に通路を歩いて、心が弾む様子を隠さない。

「トルルーク、ようやくですね」
「ああ、結構時間がかかったな……最初にリューカーンに会った時から、手を変え品を変え……ってやつだ」
「とても楽しみです!」

 ヒースはナターリエが手に紙と黒鉛を持っていることに気付いて尋ねた。

「描くのか?」
「はい!」
「そういえば、今度ハーバー伯爵邸に行ったら、ナターリエ嬢が昔描いていたという、魔獣の絵を見せてもらいたいな……」
「ええ~……きっと笑われますよ……」

と言えば、ヒースは既に笑いながら答える。

「そうだな、きっと、笑うだろうなぁ……でも、ナターリエ嬢が描いたと思えば、それもまた愛しいものだ」
「……もう!」

 そう言わてしまえば、怒ることも出来ない。ナターリエは唇を軽く尖らせてヒースを見たが、すぐにその表情は朗らかになる。勿論、そんな彼女を見るヒースも嬉しそうだ。

 目線があえば、彼らはどちらともなく軽いキスを交わして、騎士団員の元へと向かうのだった。



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