ロミオとジュリエットにはほど遠い
第1章 ラ・ノビア
◯チャペル・結婚式場(午後)

  牧師の前で腕を組んでいる花嫁と花婿

  花嫁の池田 鞠絵(いけだ まりえ)はうつむき、暗い表情をしている。


鞠絵(怪獣が出てきて、私ごと式場を踏み潰せばいいのに)


  花婿の竹前 幸樹(たけまえ こうき)は真っ直ぐ無表情に前を見ている。

  花婿側の参列者はお通夜のように静まり返っている。

  花嫁側の参列者は花婿側の参列者を見て嘲笑を浮かべている。

  両家の参列者はだれもこの結婚を祝っていない。

  粛々と結婚式は進み、誓いの言葉を牧師から投げかけられる。


牧師「病めるときも、健やかなるときも、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」

幸樹「誓います」


  幸樹は無表情のまま答える。


鞠絵「誓います」


  鞠絵は緊張した表情で答える。


鞠絵(こんな結婚、絶対に間違ってるのに……)


  幸樹の顔が見られないまま指輪の交換をする。


◯新居・洋風の豪邸(夕方)

  立派だがどこか寒々しくよそよそしい家。

  車から降りた鞠絵は、ドレスからコートに着替えて小さめのバッグを持っている。

  門はひとりでに開き、足早に家の中に入る鞠絵。

  そのまま1人で玄関ホールにやってくる。

  使用人たちが勢ぞろいしており、一斉に深くお辞儀をする。

  その中でも一番偉い初老の家令・今野が一歩踏み出る。


今野「お帰りなさいませ、お嬢様」

鞠絵「今野、幸樹さんは?」

今野「離れでお休みになられております」

鞠絵「そう、じゃあ荷物を片付けたら向かうと伝えておいて」

今野「申し訳ございません、旦那様からそれは禁じられております」


  鞠絵は眉間にシワを寄せる。


鞠絵「私と幸樹さんは今日から夫婦になったのよ?」

今野「存じ上げております」

鞠絵「それなのに同じ部屋にいてはいけないの?」

今野「旦那様からそう言いつけられております」


  鞠絵は鼻を鳴らし、皮肉な笑いを浮かべる。


鞠絵「夫婦だというのに夫はせまい離れに押し込められて、妻とは部屋も別々」

鞠絵「お祖父様もいい趣味をしてらっしゃる!」


  今野は眉ひとつ動かさない。


今野「さようで」


  鞠絵はイライラとコートやバッグを使用人に預けながら、今野には目も向けずにつげる。


鞠絵「今日はもう寝るわね、明日は学校があるし」

今野「承知いたしました」


  鞠絵は足音高く自分の部屋へと向かう。
  
  その後ろを使用人の女性が静かに付き従う。

◯学校の庭園(お昼休み)

  次の日。

  セレブ向けの女子校らしく、お淑やかなお嬢様たちが談笑しながら昼食をとっている。

  鞠絵は友人の大西 千紘(おおにし ちひろ)清水 充香(しみず みか)とともに庭園の東屋でお昼を食べている。

  千紘がふと箸をとめて鞠絵に話しかける。


千紘「鞠絵さん、遅くなったけど結婚おめでとう」


  充香もフォークを置いて鞠絵に顔を向ける。


充香「お相手の方は、元華族の竹前様でしたよね?」


  鞠絵は水筒を手にしたままにっこりと微笑む。


鞠絵「ええ。あの方、私の元義兄ですの」


  びっくりして顔を見合わせる千紘と充香。

  鞠絵はすまし顔で水筒からお茶を飲む。


充香「あの……どういったわけで、結婚になったんです?」


  充香が恐る恐る尋ねる。千紘も興味津々の態度。


鞠絵「──あれは、8年前のことです」


  鞠絵は淡々と幸樹との過去を語りはじめる。
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