クズとブスの恋愛事情。
そして、ショウはクリシュナの前に立ち、クリシュナの両手を自分の胸近くまで持っていくとクリシュナの両手をショウの小さな手で優しく包むと、後ろを振り返り
「桔梗、浄化お願いね?」
ショウの直ぐ後ろで待機していた桔梗は
「じゃあ、始めるよ?」
「うん!」
と、丁寧にショウのいいタイミングを見計らい、優しく声掛けしていた。そんな桔梗をライガは
「……いつ見ても桔梗の豹変ぶりにはドン引きするぜ。あいつ、ショウ様に見せる優しさと思いやりの1/10,000でいいから、周りの奴らにも分けてられねーのか?ショウ様とその他じゃ、180℃違い過ぎて同一人物に見えね〜。」
なんて、呆れ笑いしながら呟いていた。
そこまでショウと桔梗とは面識のないミキはライガの呟きと呆れた表情を見て、桔梗はショウ様とその他の人達とでは態度がそんなに違うのか?なんて
若干心配性で超が付くほどの過保護ではあるが、とても紳士的で優しさと思いやりの塊のような桔梗を見てとても信じられない気持ちでいた。
そして、まずは桔梗の解術魔道が始まったのだが。
桔梗は何の構えも無く詠唱も無いのに、クリシュナはバリアーと思われるシャボン玉の様なものの中に閉じ込められ、大小の何か見た事もない文字のついた大小様々な鎖がバリアーの中いっぱいに飛び出してきたかと思うとあっという間に跡形もなく粉砕してしまった。
あっという間の出来事であったが解術大成功である。これは、桔梗にとってなんて事ない本当に簡単も過ぎる内容だったらしい。
「……マジっすか?もう、終わり?あんな特殊魔道を最も簡単にやちゃうんだ。自分で最強の魔道士って名乗るくらいはあるよねー。
え〜、とんでもないもの見ちゃったかもぉ〜。凄すぎて何も言葉が出てこないや。」
「…あー、桔梗だもんなぁ。こんなの朝飯前だよなぁ。クソ生意気でムカつく息子だけど、さすが俺の息子って感じだよな!」
驚き過ぎて、呆気に取られるミキと何故か自慢げに桔梗を見ているライガである。
問題は、ここからだ。
何かよく分からない事をショウがするらしく、それが不安で怖くて仕方ないライガだ。どうか、何事もありませんようにと願うしかない。
クリシュナをどうにか助けてやりたいが、大事な娘の事も気が気じゃなくて…
「じゃあ、邪気を私の中に一気に入れて!」
と、合図するショウに桔梗は驚いた表情をし
「…え!?ちょっとづつ流し込むんじゃないの?それじゃ、ショウの体が壊れちゃうよ?やめよ?」
なんて弱気な事を言い出し
「バリアーの中で邪気に覆われてるクリシュナさんの方がマズイよ!私は全然大丈夫だよ?だって、私にとっては大したことない邪気だもん。大丈夫!」
と、ガッツポーズをとってやる気満々の意思を見せてきた。
…きゅぅぅ〜〜〜んっっっ!!!
ここで、桔梗とライガはショウのあまりの可愛さに悶えていた。
「…信じるよ?」
不安気な桔梗に対して
「いつでも、バッチこーいだよ!」
ショウは、みんなの心配を知ってか知らずか無邪気に笑って両手を広げていた。
桔梗は泣きたい気持ちで渋々、様々な最悪のパターンを想定しそれにどう対象するか考えながら嫌々ながらにバリアーの中で邪気を一まとめにしバリアーを外した。
そして、一まとまりになった邪気を優しくそっとショウの中へ入れた。
…不安過ぎる…怖い…どうなるんだろう?
…バックン、バックン、バックン!!
桔梗とライガは、もう生きた心地などしなくショウは無事でありますようにと桔梗なんて泣きながらショウの様子を見ていたしライガの体も震えていた。
邪気を取り込んだショウは、少しの間何かを呟いていてカッと目を開いた瞬間
ショウの全身が黒い色に変色し、稲妻の様な様々な色と模様が浮かび上がった。
ショウはそのまま、クリシュナの元へ行きクリシュナに抱きつくと
「…もう、大丈夫だよ。クリシュナさんの呪いは完全に消えたよ。」
そう声を掛けたと同時にショウは元の姿へと戻り、驚く事にクリシュナは女性になっていたのである。
「クリシュナさんはね。女の子なんだけど、性別を変える呪いに掛かってたみたい。だけど、解術と浄化だけじゃ女の子に戻ることができないって、クリシュナさんに呪いを掛けた人が教えてくれたの。だから、その人の言う通りにやってみたんだけど大成功だったね!」
なんて、陽気にピースサインするショウにライガは、危なかったかもしれないんだぞ?と、説教しつつも無事で良かったと抱き締め
「…クシュを救ってくれてありがとう…本当に、ありがとう!心から感謝してる!」
と、大泣きしていた。
桔梗は、ショウが無事でホッとして腰が抜けた様で床にペタンと女の子座りして呆然としていた。
「……よ、良かった。本当に…ショウに何かあったらって…俺…俺……っっっ!」
と、涙が出ていた。それに気がついたショウは、ハッとして「パパ!桔梗の所に行かなきゃ!」と、言って
勢いよく桔梗を抱き締めて
「ほらね?大丈夫だったでしょ?私は全然大丈夫だから、泣かないで?桔梗が泣いたら、私も泣いちゃう…。心配かけて、ごめんね?大好きだよ、桔梗。」
泣いている桔梗の額にキスするショウに、桔梗は思わずギュッと抱き締め返して無事で良かったと大泣きしていた。そんな二人をライガは
「…二人とも、本当にありがとう。」
二人を包み込むようにソッと抱き締めお礼を言うと、直ぐにクリシュナの元へ駆け寄り強く抱きしめた。
「…クシュッ!クシュが無事で良かった!本当に良かった。ありがと、ありがと!クシュ!!」
何が起きたかさほど理解できてなく、ただただ呆然としているクリシュナにライガは何度も無事で良かったとクリシュナが無事だった事にひたすら感謝し安堵した。
そうして、みんながようやく落ち着いた頃。
何が起きたのか、さほど理解できていないクリシュナに
・クリシュナには性別を変える呪いが掛けられていた事。
・何の呪いか分からないが、クリシュナに何か得体の知れない呪いが掛かっていた事に気がついたライガだったが、呪いを解くのは自分の専門外だったので自分ではどうしようもなかった事。
・家族に相談した結果、その程度の弱い呪いなら魔道のエキスパートである桔梗に任せれば簡単だという結果になり、桔梗に頼み呪いを解いてもらう運びになった事。
などを、丁寧に説明した。
その話を聞いて、クリシュナは腰を抜かすほど驚いたがみんなに感謝とお礼を言って何度も何度も頭を下げた。
だが、ここにきて問題が…
「…あのさ。昔、アンジェラから聞いた話なんだけど、クリシュナってそこの一人息子なんだろ?家を継ぐ立場なのに、そこんとこはどうするつもりなの?
今や、クリシュナはれっきとした女の子だしぃ、いきなり一人息子が一人娘に変わっちゃったら家族も混乱しちゃうんじゃなない?」
と、ミキはごもっともで重要な話をぶっ込んできた。
そこでクリシュナは、ハッとしてどうしようと青ざめた。
「それは大丈夫だよ。今までの“歪み”が治ったおかげで軌道修正し始めてるよ。それに、クリシュナさんの気持ち次第でここで選択肢が生まれたよ。」
そう話始めるショウに、何か未知なる得体の知れない何かを感じミキとクリシュナはショウを不気味に思い少し怖いと感じてしまった。
「まず、一つは軌道修正が終わったらお家に帰っても大丈夫だよ。そしたら、何から何までクリシュナさんが生まれた時から女の子で女の子として育てられたって事になってる筈だから。
そうすると、自然とクリシュナさんの記憶も塗り替えられて、女の子として普通に生活できるよ。
もう一つは、私のパパの一人であるライガのお嫁さんになる事。そしたら、今までの記憶が残ったまま“人ではなくなる”けど、私の家族の一人として生きる事。
そうなると、クリシュナさんの家には“本来そこに生まれる筈だった子供”が居る筈だよ。」
と、意味が分かるようで分からない話をして、ミキとクリシュナは首を傾げていた。
「…つまりさ。本来、クリシュナはそこの家に生まれる筈のない人間だった。だけど、呪いを掛けた相手がクリシュナをまさに母体の中に命が宿ろうとしている
より、ベストタイミングな母体の中にクリシュナの魂をぶち込んでその体を乗っ取って今までを暮らしてきた事になる。」
なんて、衝撃的な内容を桔梗はしてきた。
「だから、ショウが言いたいのは
・元々その家族の元に生まれる筈だった人の肉体と命を返してあげるのか。
・本当はそこに生まれる筈だった人の体を乗っ取ったまま、女として今まで通りそこで家族として暮らすのか。
って、話。あと、あなた達には難しい話かもしれないけど、“時間の流れ”も修正によって、向こうの時間だけこっちからしたら早送りになって
今現在の時間まで辿りついたら、周りの時の流れと一緒になるよ。
ただ心配しなくていい所は、こっちからは向こう家族や関わった人達の時間がいくら早送りだと思っても
そこの修正しなければならない早送りの時間は、その中で暮らしてる人達には通常の時間の流れになってるから時間の問題に関しては何ら問題ないよ。」
クリシュナは、時間の流れについて少々付いていけてない所はあったものの桔梗の話でショウの言いたい事がだいぶ分かった気がした。
だったら、クリシュナはこの選択以外考えられなかった。
「僕の“呪い”のせいで、本来生まれてくる筈だった子を押し退けて僕は間違えて生まれてしまったというなら、僕の答えは一つだよ。
本来、その両親の元へ生まれてくる筈だった子供に、命と肉体や両親、家族達を返してあげてほしい。
信じがたい話だけど、知らなかったとはいえ僕はその子の居場所を奪ってしまってとても申し訳ないし悲しい…」
そう言った所で、クリシュナの進むべき道は一つ途絶えてしまった。
クリシュナの答えに、桔梗抜かしたみんなが悲痛な面持ちでクリシュナを見る中
「うん、分かった。あのね、クリシュナさんに呪いを掛けた人なんだけど、その人にとってクリシュナさんはとても大切な友人だって言ってたよ。」
なんて話してくるショウに、クリシュナをはじめみんな
…え!?
と、ショウに注目した。
「クリシュナさんの呪いを消す前に、クリシュナさんの“呪いに残った記憶と想い”と会話してたんだけどね。
クリシュナさんは、“ここじゃない別の世界”からきた人間じゃない人みたい。
【雷を守護する一族なんだって。雷使いのライガと一緒だね】。」
その言葉に、ライガとミキは驚いた。ショウは呪いと会話をしてそこまで理解していたのか。そして、ライガの伝えられない言葉もクリシュナにしっかり伝わっているようだ。
つまりは、ショウはクリシュナに呪いを掛けた雷帝よりも圧倒的な力や能力、地位の圧倒的な差があるという事。驚くしかない。
「だけど、そこでクリシュナさんは一族のみんなを怒らせちゃった。だって、尊い命に酷い事をした大罪人を庇ったから。だから、みんなから顰蹙を買って収集がつかなくなったの。
だから、大切なお友達のクリシュナさんを助ける為に、みんなの納得のいくように罰として性別を変えたんだって。そして、この世界の記憶は辛いだけになってしまったから記憶を消そう。
ここでは生きにくいだろうからって別の世界に転生させたんだって。
表向きは、罪人でもないのに大罪人を庇った責任を負って、性別を変えられて別の世界へ永久追放って事にしてるけど。
本当は、そこに残ってほしくて色々対策したけどダメで。結局、こうする事でしかクリシュナさんを救う事ができなかった。すまないって、いっぱいいっぱい泣いてた。」
そこでショウの話は終わった。
その話を聞いてクリシュナは
「僕に呪いを掛けた方に、とても感謝しなければならないね。僕はなんて、いい方と知り合えたんだろう。
その方との記憶がないのは残念に思うけど、その方の気持ちを考えると感謝の気持ちしか出てこないよ。
その世界で僕はとてもいい友人に恵まれてたんだね。それだけ知る事ができただけでも、とても幸せな気持ちになるよ。ありがとう。」
と、とっても優しい笑顔でショウにお礼を言った。
「…え!?…えへっ…!私は何にもしてないし…ただ“その人”の気持ちを伝えただけなんだけど、それでクリシュナさんが喜んでくれたなら良かった!」
まさか、お礼を言われるなんて思ってもなかったショウはビックリして慌てたものの、お礼を言われて嬉しくない訳もなく恥ずかしそうにテレテレ、モジモジしながら桔梗の後ろに隠れてしまった。
そんなショウに、もちろん桔梗もライガもデレデレである。…が、直ぐにハッと気がついたようにショウは桔梗の後ろからヒョッコリ顔を出してきて
「…あっ!…い、急がなきゃ!…えっと、それいいとして。クリシュナさんは、これからどうしたいの?なりたい職業とかある?」
なんてなにやら慌てた様子のショウに聞かれたが、色々あり過ぎたし今後どうしたいかなんて考える事ができなかった。
「行く所ないんだったら、ライガと一緒のお家に住むといいと思うよ?あと、まだ高校生なんでしょ?
だったら、高校に通って大学行きたかったら大学行ってもいいし。もっと勉強したかったらその先の学校に通って。その間に、自分がやりたい事とかなりたい職業とかゆっくり考えてもいいと思う!ね?そうしよ?」
なんてショウが提案してきて、クリシュナはそこまでお世話になれないと恐縮したものの
今の自分は、ライガ以外誰も居ない孤独で何も身動きできない状態だった。ショウとライガの強い説得により、クリシュナは申し訳なさそうにうなづきショウの言葉に甘える事になった。
「決定だね!じゃあ、もうその借りた人間の体は元の持ち主に返して、クリシュナって名前もその人に返してあげようね?あの呪いさんは、あなたの事を“海雷(カイラ)”って、呼んでたから。これからは、カイラさんって呼んでもいい?それとも、クリシュナって名前のままの方がいい?」
と、いうショウの問いかけに
「…海雷(カイラ)で、お願い。…クリシュナだと、未練が残って悲しくなってしまうから。新しく生まれ変わったつもりで、色々と断ち切らなきゃいけないから…!」
今までそこまで大切にされてはこなかったが、それでもそれなりに家族として仲良く過ごしてきた。小さい頃からの家族との思い出が一気に頭の中に溢れてきて
これから、家族はみんな僕の事を忘れて生きていくのかという寂しさ
これから大切な家族と自分が生まれ育った家を断ち切らなければならない辛さと不安に耐えかねて、思わずクリシュナ…改めカイラは“どうして?なんで?”と、大泣きした。
その痛々しい姿に、桔梗以外みんな大泣きした。
そして、カイラがライガの胸の中でようやく落ち着いた時、ショウは
「…色々、辛いよね?苦しいよね?だけど、もう安心していいよ?それは時間は掛かるかもしれないけど時間が解決してくれるよ?何より、パパはもちろん、私や私の家族達みんなカイラさんの味方だから。
そろそろ、その体を元の持ち主さんに返していいかな?」
と、カイラが傷つかないように、いっぱいいっぱい言葉を選びながら話しかけた。
「…あ、ありがとう。この体を元の持ち主さんに返してあげてください。」
カイラが涙ながらにそう言って、頭を下げた所で
カイラの姿は一気に変わり
褐色の肌に、薄紫の髪と目。瞳孔は少し濃い目の紫で稲妻の形をしている平凡な容姿の女性に変わった。
その姿を見て、ライガは大きく目を見開き
「…カイラだ…」
と、声を震わせ呟くと
思わず、全てを劣化させる魔具を取り投げ捨てた。
そこには、濃い青色の髪色と目、爪。目の瞳孔部分は幾つもの稲妻が激しく走ってるかのような様々な雷色をしている。そして、健康的な肌に浮かび上がるタトゥーの様な青色の紋様が浮かび上がっている。
何より、涼しげな顔立ちのこの世の者とは思えない程の美人がそこにいた。ライガの性格とは真逆の容姿をしていた。
元の姿を見せたライガのあまりの美貌に、カイラはビックリし過ぎて腰を抜かしてしまったがライガがそれを受け止め抱き締めた。そして
「……本当に、カイラだ…!カイラ、カイラ…!
…ごめん、ずっとずっとお前に謝りたかった。
そして、伝えたい。…好きだ、愛してる!それだけじゃ、言葉が足んねーくらい好きなんだ!!結婚してくれっ!!!」
嗚咽混じりに泣きながら、カイラの名前を呼び続け、謝り続け、最後にはプロポーズまでしていた。
ライガのあまりの必死さと、カイラ自身色々あり過ぎて頭が混乱していた事もありカイラはライガの勢いに負け
「…は、はいっ!!!?」
と、プロポーズの返事をしてしまったのだった。
それに、ショウとライガは大喜びしてはしゃぎ、
桔梗は、何だ?この茶番と呆れつつも、ショウがとても嬉しそうにしてたので自分も嬉しくなった。
ミキは、一気に色々あり過ぎてまだまだ頭では追いつけない部分があり、少しボー…っと、みんなの様子を傍観して
なんか、物凄い体験しちゃった
なんて、考えながら苦笑いするしかなかった。
「桔梗、浄化お願いね?」
ショウの直ぐ後ろで待機していた桔梗は
「じゃあ、始めるよ?」
「うん!」
と、丁寧にショウのいいタイミングを見計らい、優しく声掛けしていた。そんな桔梗をライガは
「……いつ見ても桔梗の豹変ぶりにはドン引きするぜ。あいつ、ショウ様に見せる優しさと思いやりの1/10,000でいいから、周りの奴らにも分けてられねーのか?ショウ様とその他じゃ、180℃違い過ぎて同一人物に見えね〜。」
なんて、呆れ笑いしながら呟いていた。
そこまでショウと桔梗とは面識のないミキはライガの呟きと呆れた表情を見て、桔梗はショウ様とその他の人達とでは態度がそんなに違うのか?なんて
若干心配性で超が付くほどの過保護ではあるが、とても紳士的で優しさと思いやりの塊のような桔梗を見てとても信じられない気持ちでいた。
そして、まずは桔梗の解術魔道が始まったのだが。
桔梗は何の構えも無く詠唱も無いのに、クリシュナはバリアーと思われるシャボン玉の様なものの中に閉じ込められ、大小の何か見た事もない文字のついた大小様々な鎖がバリアーの中いっぱいに飛び出してきたかと思うとあっという間に跡形もなく粉砕してしまった。
あっという間の出来事であったが解術大成功である。これは、桔梗にとってなんて事ない本当に簡単も過ぎる内容だったらしい。
「……マジっすか?もう、終わり?あんな特殊魔道を最も簡単にやちゃうんだ。自分で最強の魔道士って名乗るくらいはあるよねー。
え〜、とんでもないもの見ちゃったかもぉ〜。凄すぎて何も言葉が出てこないや。」
「…あー、桔梗だもんなぁ。こんなの朝飯前だよなぁ。クソ生意気でムカつく息子だけど、さすが俺の息子って感じだよな!」
驚き過ぎて、呆気に取られるミキと何故か自慢げに桔梗を見ているライガである。
問題は、ここからだ。
何かよく分からない事をショウがするらしく、それが不安で怖くて仕方ないライガだ。どうか、何事もありませんようにと願うしかない。
クリシュナをどうにか助けてやりたいが、大事な娘の事も気が気じゃなくて…
「じゃあ、邪気を私の中に一気に入れて!」
と、合図するショウに桔梗は驚いた表情をし
「…え!?ちょっとづつ流し込むんじゃないの?それじゃ、ショウの体が壊れちゃうよ?やめよ?」
なんて弱気な事を言い出し
「バリアーの中で邪気に覆われてるクリシュナさんの方がマズイよ!私は全然大丈夫だよ?だって、私にとっては大したことない邪気だもん。大丈夫!」
と、ガッツポーズをとってやる気満々の意思を見せてきた。
…きゅぅぅ〜〜〜んっっっ!!!
ここで、桔梗とライガはショウのあまりの可愛さに悶えていた。
「…信じるよ?」
不安気な桔梗に対して
「いつでも、バッチこーいだよ!」
ショウは、みんなの心配を知ってか知らずか無邪気に笑って両手を広げていた。
桔梗は泣きたい気持ちで渋々、様々な最悪のパターンを想定しそれにどう対象するか考えながら嫌々ながらにバリアーの中で邪気を一まとめにしバリアーを外した。
そして、一まとまりになった邪気を優しくそっとショウの中へ入れた。
…不安過ぎる…怖い…どうなるんだろう?
…バックン、バックン、バックン!!
桔梗とライガは、もう生きた心地などしなくショウは無事でありますようにと桔梗なんて泣きながらショウの様子を見ていたしライガの体も震えていた。
邪気を取り込んだショウは、少しの間何かを呟いていてカッと目を開いた瞬間
ショウの全身が黒い色に変色し、稲妻の様な様々な色と模様が浮かび上がった。
ショウはそのまま、クリシュナの元へ行きクリシュナに抱きつくと
「…もう、大丈夫だよ。クリシュナさんの呪いは完全に消えたよ。」
そう声を掛けたと同時にショウは元の姿へと戻り、驚く事にクリシュナは女性になっていたのである。
「クリシュナさんはね。女の子なんだけど、性別を変える呪いに掛かってたみたい。だけど、解術と浄化だけじゃ女の子に戻ることができないって、クリシュナさんに呪いを掛けた人が教えてくれたの。だから、その人の言う通りにやってみたんだけど大成功だったね!」
なんて、陽気にピースサインするショウにライガは、危なかったかもしれないんだぞ?と、説教しつつも無事で良かったと抱き締め
「…クシュを救ってくれてありがとう…本当に、ありがとう!心から感謝してる!」
と、大泣きしていた。
桔梗は、ショウが無事でホッとして腰が抜けた様で床にペタンと女の子座りして呆然としていた。
「……よ、良かった。本当に…ショウに何かあったらって…俺…俺……っっっ!」
と、涙が出ていた。それに気がついたショウは、ハッとして「パパ!桔梗の所に行かなきゃ!」と、言って
勢いよく桔梗を抱き締めて
「ほらね?大丈夫だったでしょ?私は全然大丈夫だから、泣かないで?桔梗が泣いたら、私も泣いちゃう…。心配かけて、ごめんね?大好きだよ、桔梗。」
泣いている桔梗の額にキスするショウに、桔梗は思わずギュッと抱き締め返して無事で良かったと大泣きしていた。そんな二人をライガは
「…二人とも、本当にありがとう。」
二人を包み込むようにソッと抱き締めお礼を言うと、直ぐにクリシュナの元へ駆け寄り強く抱きしめた。
「…クシュッ!クシュが無事で良かった!本当に良かった。ありがと、ありがと!クシュ!!」
何が起きたかさほど理解できてなく、ただただ呆然としているクリシュナにライガは何度も無事で良かったとクリシュナが無事だった事にひたすら感謝し安堵した。
そうして、みんながようやく落ち着いた頃。
何が起きたのか、さほど理解できていないクリシュナに
・クリシュナには性別を変える呪いが掛けられていた事。
・何の呪いか分からないが、クリシュナに何か得体の知れない呪いが掛かっていた事に気がついたライガだったが、呪いを解くのは自分の専門外だったので自分ではどうしようもなかった事。
・家族に相談した結果、その程度の弱い呪いなら魔道のエキスパートである桔梗に任せれば簡単だという結果になり、桔梗に頼み呪いを解いてもらう運びになった事。
などを、丁寧に説明した。
その話を聞いて、クリシュナは腰を抜かすほど驚いたがみんなに感謝とお礼を言って何度も何度も頭を下げた。
だが、ここにきて問題が…
「…あのさ。昔、アンジェラから聞いた話なんだけど、クリシュナってそこの一人息子なんだろ?家を継ぐ立場なのに、そこんとこはどうするつもりなの?
今や、クリシュナはれっきとした女の子だしぃ、いきなり一人息子が一人娘に変わっちゃったら家族も混乱しちゃうんじゃなない?」
と、ミキはごもっともで重要な話をぶっ込んできた。
そこでクリシュナは、ハッとしてどうしようと青ざめた。
「それは大丈夫だよ。今までの“歪み”が治ったおかげで軌道修正し始めてるよ。それに、クリシュナさんの気持ち次第でここで選択肢が生まれたよ。」
そう話始めるショウに、何か未知なる得体の知れない何かを感じミキとクリシュナはショウを不気味に思い少し怖いと感じてしまった。
「まず、一つは軌道修正が終わったらお家に帰っても大丈夫だよ。そしたら、何から何までクリシュナさんが生まれた時から女の子で女の子として育てられたって事になってる筈だから。
そうすると、自然とクリシュナさんの記憶も塗り替えられて、女の子として普通に生活できるよ。
もう一つは、私のパパの一人であるライガのお嫁さんになる事。そしたら、今までの記憶が残ったまま“人ではなくなる”けど、私の家族の一人として生きる事。
そうなると、クリシュナさんの家には“本来そこに生まれる筈だった子供”が居る筈だよ。」
と、意味が分かるようで分からない話をして、ミキとクリシュナは首を傾げていた。
「…つまりさ。本来、クリシュナはそこの家に生まれる筈のない人間だった。だけど、呪いを掛けた相手がクリシュナをまさに母体の中に命が宿ろうとしている
より、ベストタイミングな母体の中にクリシュナの魂をぶち込んでその体を乗っ取って今までを暮らしてきた事になる。」
なんて、衝撃的な内容を桔梗はしてきた。
「だから、ショウが言いたいのは
・元々その家族の元に生まれる筈だった人の肉体と命を返してあげるのか。
・本当はそこに生まれる筈だった人の体を乗っ取ったまま、女として今まで通りそこで家族として暮らすのか。
って、話。あと、あなた達には難しい話かもしれないけど、“時間の流れ”も修正によって、向こうの時間だけこっちからしたら早送りになって
今現在の時間まで辿りついたら、周りの時の流れと一緒になるよ。
ただ心配しなくていい所は、こっちからは向こう家族や関わった人達の時間がいくら早送りだと思っても
そこの修正しなければならない早送りの時間は、その中で暮らしてる人達には通常の時間の流れになってるから時間の問題に関しては何ら問題ないよ。」
クリシュナは、時間の流れについて少々付いていけてない所はあったものの桔梗の話でショウの言いたい事がだいぶ分かった気がした。
だったら、クリシュナはこの選択以外考えられなかった。
「僕の“呪い”のせいで、本来生まれてくる筈だった子を押し退けて僕は間違えて生まれてしまったというなら、僕の答えは一つだよ。
本来、その両親の元へ生まれてくる筈だった子供に、命と肉体や両親、家族達を返してあげてほしい。
信じがたい話だけど、知らなかったとはいえ僕はその子の居場所を奪ってしまってとても申し訳ないし悲しい…」
そう言った所で、クリシュナの進むべき道は一つ途絶えてしまった。
クリシュナの答えに、桔梗抜かしたみんなが悲痛な面持ちでクリシュナを見る中
「うん、分かった。あのね、クリシュナさんに呪いを掛けた人なんだけど、その人にとってクリシュナさんはとても大切な友人だって言ってたよ。」
なんて話してくるショウに、クリシュナをはじめみんな
…え!?
と、ショウに注目した。
「クリシュナさんの呪いを消す前に、クリシュナさんの“呪いに残った記憶と想い”と会話してたんだけどね。
クリシュナさんは、“ここじゃない別の世界”からきた人間じゃない人みたい。
【雷を守護する一族なんだって。雷使いのライガと一緒だね】。」
その言葉に、ライガとミキは驚いた。ショウは呪いと会話をしてそこまで理解していたのか。そして、ライガの伝えられない言葉もクリシュナにしっかり伝わっているようだ。
つまりは、ショウはクリシュナに呪いを掛けた雷帝よりも圧倒的な力や能力、地位の圧倒的な差があるという事。驚くしかない。
「だけど、そこでクリシュナさんは一族のみんなを怒らせちゃった。だって、尊い命に酷い事をした大罪人を庇ったから。だから、みんなから顰蹙を買って収集がつかなくなったの。
だから、大切なお友達のクリシュナさんを助ける為に、みんなの納得のいくように罰として性別を変えたんだって。そして、この世界の記憶は辛いだけになってしまったから記憶を消そう。
ここでは生きにくいだろうからって別の世界に転生させたんだって。
表向きは、罪人でもないのに大罪人を庇った責任を負って、性別を変えられて別の世界へ永久追放って事にしてるけど。
本当は、そこに残ってほしくて色々対策したけどダメで。結局、こうする事でしかクリシュナさんを救う事ができなかった。すまないって、いっぱいいっぱい泣いてた。」
そこでショウの話は終わった。
その話を聞いてクリシュナは
「僕に呪いを掛けた方に、とても感謝しなければならないね。僕はなんて、いい方と知り合えたんだろう。
その方との記憶がないのは残念に思うけど、その方の気持ちを考えると感謝の気持ちしか出てこないよ。
その世界で僕はとてもいい友人に恵まれてたんだね。それだけ知る事ができただけでも、とても幸せな気持ちになるよ。ありがとう。」
と、とっても優しい笑顔でショウにお礼を言った。
「…え!?…えへっ…!私は何にもしてないし…ただ“その人”の気持ちを伝えただけなんだけど、それでクリシュナさんが喜んでくれたなら良かった!」
まさか、お礼を言われるなんて思ってもなかったショウはビックリして慌てたものの、お礼を言われて嬉しくない訳もなく恥ずかしそうにテレテレ、モジモジしながら桔梗の後ろに隠れてしまった。
そんなショウに、もちろん桔梗もライガもデレデレである。…が、直ぐにハッと気がついたようにショウは桔梗の後ろからヒョッコリ顔を出してきて
「…あっ!…い、急がなきゃ!…えっと、それいいとして。クリシュナさんは、これからどうしたいの?なりたい職業とかある?」
なんてなにやら慌てた様子のショウに聞かれたが、色々あり過ぎたし今後どうしたいかなんて考える事ができなかった。
「行く所ないんだったら、ライガと一緒のお家に住むといいと思うよ?あと、まだ高校生なんでしょ?
だったら、高校に通って大学行きたかったら大学行ってもいいし。もっと勉強したかったらその先の学校に通って。その間に、自分がやりたい事とかなりたい職業とかゆっくり考えてもいいと思う!ね?そうしよ?」
なんてショウが提案してきて、クリシュナはそこまでお世話になれないと恐縮したものの
今の自分は、ライガ以外誰も居ない孤独で何も身動きできない状態だった。ショウとライガの強い説得により、クリシュナは申し訳なさそうにうなづきショウの言葉に甘える事になった。
「決定だね!じゃあ、もうその借りた人間の体は元の持ち主に返して、クリシュナって名前もその人に返してあげようね?あの呪いさんは、あなたの事を“海雷(カイラ)”って、呼んでたから。これからは、カイラさんって呼んでもいい?それとも、クリシュナって名前のままの方がいい?」
と、いうショウの問いかけに
「…海雷(カイラ)で、お願い。…クリシュナだと、未練が残って悲しくなってしまうから。新しく生まれ変わったつもりで、色々と断ち切らなきゃいけないから…!」
今までそこまで大切にされてはこなかったが、それでもそれなりに家族として仲良く過ごしてきた。小さい頃からの家族との思い出が一気に頭の中に溢れてきて
これから、家族はみんな僕の事を忘れて生きていくのかという寂しさ
これから大切な家族と自分が生まれ育った家を断ち切らなければならない辛さと不安に耐えかねて、思わずクリシュナ…改めカイラは“どうして?なんで?”と、大泣きした。
その痛々しい姿に、桔梗以外みんな大泣きした。
そして、カイラがライガの胸の中でようやく落ち着いた時、ショウは
「…色々、辛いよね?苦しいよね?だけど、もう安心していいよ?それは時間は掛かるかもしれないけど時間が解決してくれるよ?何より、パパはもちろん、私や私の家族達みんなカイラさんの味方だから。
そろそろ、その体を元の持ち主さんに返していいかな?」
と、カイラが傷つかないように、いっぱいいっぱい言葉を選びながら話しかけた。
「…あ、ありがとう。この体を元の持ち主さんに返してあげてください。」
カイラが涙ながらにそう言って、頭を下げた所で
カイラの姿は一気に変わり
褐色の肌に、薄紫の髪と目。瞳孔は少し濃い目の紫で稲妻の形をしている平凡な容姿の女性に変わった。
その姿を見て、ライガは大きく目を見開き
「…カイラだ…」
と、声を震わせ呟くと
思わず、全てを劣化させる魔具を取り投げ捨てた。
そこには、濃い青色の髪色と目、爪。目の瞳孔部分は幾つもの稲妻が激しく走ってるかのような様々な雷色をしている。そして、健康的な肌に浮かび上がるタトゥーの様な青色の紋様が浮かび上がっている。
何より、涼しげな顔立ちのこの世の者とは思えない程の美人がそこにいた。ライガの性格とは真逆の容姿をしていた。
元の姿を見せたライガのあまりの美貌に、カイラはビックリし過ぎて腰を抜かしてしまったがライガがそれを受け止め抱き締めた。そして
「……本当に、カイラだ…!カイラ、カイラ…!
…ごめん、ずっとずっとお前に謝りたかった。
そして、伝えたい。…好きだ、愛してる!それだけじゃ、言葉が足んねーくらい好きなんだ!!結婚してくれっ!!!」
嗚咽混じりに泣きながら、カイラの名前を呼び続け、謝り続け、最後にはプロポーズまでしていた。
ライガのあまりの必死さと、カイラ自身色々あり過ぎて頭が混乱していた事もありカイラはライガの勢いに負け
「…は、はいっ!!!?」
と、プロポーズの返事をしてしまったのだった。
それに、ショウとライガは大喜びしてはしゃぎ、
桔梗は、何だ?この茶番と呆れつつも、ショウがとても嬉しそうにしてたので自分も嬉しくなった。
ミキは、一気に色々あり過ぎてまだまだ頭では追いつけない部分があり、少しボー…っと、みんなの様子を傍観して
なんか、物凄い体験しちゃった
なんて、考えながら苦笑いするしかなかった。