クズとブスの恋愛事情。
ミキがやらかしたと頭を抱えている頃、体調不良で寝込んでいるショウは、高熱のせいでうつらうつらとぼんやりした表情でライガを見てきた。
熱と呼吸も苦しいせいで、顔を真っ赤にして冷や汗をかきながら目も涙目になっているショウを心苦しい気持ちで隣に座り、早く症状が和らいでほしいと祈るように手を握り続けるライガは
「どうした?喉がかわいたか?寒いのか?」
心配で心配で、少しでもショウの助けになれる事はないかと喋るのすら辛いであろうショウの為に、ショウがして欲しそうな事を予想して口に出して聞いてみた。
だが、そのどれも違うらしく弱々しく首を横に振ると
ライガに向かって、必死に口をパクパクさせて何かを伝えようとしているが声を出す事すら困難でただ息が漏れ出すだけで苦しいだけになっている。
それでも、必死に何か伝えようとして声が出ず伝えたいのに伝えられないのが悔しくてショウはたくさんの涙を溢し始めた。
泣くという行為も疲れるというのに、一刻も早くショウに泣き止んでもらわなければショウの体に大きく負担が掛かるだけだ。
思わず、ライガはショウの冷や汗を拭いたり排泄物のお世話など付きっきりでショウの看病をし続ける桔梗を見た。
それに桔梗は、困ったような表情を見せるとライガに向かい小さくうなづいた。
そして、ショウの看病をしつつテレパシーを使い、脳内だけでショウとライガが会話できるようにした。
『テレパシーでライガパパと話せるようにしたから、伝えたい事があるなら喋って大丈夫だよ。体力には影響ないと思うから。でも、体を休める事はできないから、できるだけ会話は早く終わらせてね?』
と、桔梗は優しくテレパシーでショウに伝えた。
『…ありがと、桔梗!』
ショウは凄く嬉しそうに桔梗にお礼を伝えると
『…どういたしまして。』
桔梗は少し複雑そうに柔らかくショウに笑いかけショウの額の髪をすくようにひと撫でした。
その優しい手を心地良く感じ、目を細め桔梗を見ているショウ。それから、ゆっくりとライガを振り向くと
『あのね、ライガパパ。』
『どうした?』
『うん、ミキくんの事なんだけどね。“見えちゃった”の。』
と、いうショウの言葉に、桔梗とライガはゾクリと体に冷たいものが走り凍りついてしまった。
まさか、予言かと思い桔梗はテレパシーを解除しようとしたしライガも同様の事を考え慌てて桔梗に声を掛けようとした。
だが
『ミキくんの前世は“雷呼”って女の人だったんだね。』
と、いう言葉に、予言じゃなかったと二人は緊張のおが切れたかのように体から力が抜けたのを感じた。
しかし、ショウの言葉にライガは驚きを隠せずいた。
『ミキくんは、“今が楽しければ後はどうでもいい”“自分さえ良ければそれでいい”が、自分にとっての当たり前だったんだけど。
そのせいで、周りを不幸にしていってドン底にまで突き落としても自分には関係ないって無責任だったんだね。
それを罪として、刑罰がくだって…数え切れないくらいの拷問を体験して“生まれ変わっても全部の記憶を持っている”から……。
序盤あたりから身も心もボロ雑巾みたいになった。
とても耐えられるものなんかじゃなくて拷問も中盤に差し掛かった頃から、精神異常者になっちゃったみたい。
刑罰が終わった時には廃人になってて……。
刑罰を終えると“新しく生まれ変わるにあたって、全ての記憶を消される”ようになってるみたい。
拷問の記憶があると、正常ではいられなくなるだろうからって理由らしいよ。』
…ドクン…
まさか、ライコがそんな事になっていて、生まれ変わって自分と出会った。
ある意味で運命としか思えないライガだったし、数え切れない拷問を体験したライコの事を考えると可哀想も過ぎて正気でいられなくなりそうな気持ちだった。
『それに、拷問内容のせいでとても悪い人としか関わる事もなかったせいか、相手を憎み恨んで呪って決して信じない。人が怖い恐ろしい残酷な悪魔だ!信じられるのは自分しかいない。
それが、記憶にはないけど魂に刻み込まれちゃったみたい。それに、生まれた所もミキくんにとって最低最悪な家族で、それで今のミキくんが完成しちゃった。
だけどね、今ミキくんは初めて人を好きになって、その人の為に変われそうなの。
けど、今までが今までだから
自分の気持ちに戸惑ってるし、どうしたらいいのか分からない。今まで知らなかった、体験することも無かった新しい自分を恐れているよ。
気がつけば、もう自分は色々と後悔する事ばかりしちゃった後で後戻りできない所まできちゃった。
もう、どうあがいても綺麗な体には戻れないって、すごくすごく後悔してるよ。
でも、終わった事はどうやったって元には戻らない。もう、遅いの。
だけど、ミキくんは手遅れになってからだけど、ようやく自分のしてきた愚かさに気付く事ができた。
今さら、気付いた所で遅いって思って泣いてるミキくんの姿が見える。
だけどね。とってもとっても大変だと思うけど、ミキくんの努力次第で変われる。運命さえも変えられる。
…きっと…!
だから、諦めないで?
自分の愚かさに気付いて後悔できるようになったんだもん。もう、今のミキくんは過去を繰り返さない。
もう、大丈夫。
怖がらないで、いっぱいいっぱい悩んで考えて考えて…逃げちゃダメ。
新しい自分の道に飛び込んで!
それが、ミキくんが幸せになれる唯一。
そこを間違えちゃうと、また永遠と同じ事を繰り返ししちゃう…それだけは絶対ダメなの!』
そこまで言って、ショウは相当疲れたのか段々と脳内に響くショウの声が小さくなっていき
『…だけど、ミキくんに似た考え方や生き方が間違えてるとも言い切る事もできない。だって、そんな風に生きている人達が大勢いるから。
ミキくんのセフレさん達だって、そう。似たもの同士集まってきちゃうの。
それでも、個々それぞれ色んな事情があって細かいところや大きな所で違いは出てくるから全く同じ人なんて存在しない。
大きく分類して似てるってだけ。
みんな、それぞれでそうなった経緯は違うんだけど。
ミキくんの場合は、容姿や能力、力、才能に頭脳ってずば抜けた天才だから、みんなにチヤホヤされて調子に乗って生きてきた。
ミキくんの明るくて元気で憎めない性格もあって、まるでみんなを明るく照らし出してくれる太陽の様な眩しい明るい子。
だから、みんなもそんなミキくんが可愛いな、一瞬にいるだけで自分まで明るく元気になれるって感じちゃうから、ミキくんの曇った顔なんて見たくなくて、ミキくんのご機嫌取りする事ばかり考えて良い悪いを教える事もなかったの。
ミキくんの両親でさえ。
ミキくんが何をやっても怒らなかったし悪い事をしても“仕方ないやつだなぁ”って、みんなは笑って許してくれたの。
その内、ミキくんは自分の事しか考えられない人に育っていった。犯罪さえ起こさないのであれば、面白おかしくやりたい放題してもいい。今を楽しまなきゃ損でしょ!
って、調子に乗りすぎて
他の子の気持ちも考えないし後先の事さえ考えないから、自分の知らない所で大惨事を起こして色んな人達を不幸のドン底に突き落としちゃってたんだね。
そこまできて、ようやく周りの人達もミキくんの異常さに気がついて注意するけど、そういう風に育っちゃったからみんなが注意してくる内容がよく分からなかったし今まではみんな笑って許してくれたのに急にどうしたんだろ?
なんて、考えて分からなくて。
いくら注意されても泣かれても、何とも思えなかったの。それの何が悪いの?って。
その内、ミキくんは“頭がおかしい“狂ってる”って周りから嫌悪されて突き放される様になって、親にまで邪険にされて今までのミキくんの生活は一変したの。
そこで、ミキくんはみんなに“裏切られた”って、かなりのショックを受けて悲しくて苦しくて…どうして?って、絶望して毎日一人で泣いてた。
いつもなら、誰かかしらミキくんと一緒に居たから急にひとりぼっちになって寂しくて寂しくて…どうしたらいいの?って、心の行き場を失ってや時に男性に声を掛けられて優しくされて……エッチしちゃった。
エッチしたら、みんな優しくしてくれるしお金までくれた。ミキくんは、色んな才能や力があるから自分が望めば、どんな凄い職業のだって就けるのにね。
けど、エッチしたら、あんなに優しくしてくれた男性はお金と連絡先を置いてさっさと居なくなってしまったの。
…さっきまでの温かさはどこ行ったの?エッチし終わるまで優しくしてくれたじゃん。
終わったら、冷たい雰囲気になって自分を置いて行ってしまったと、ミキくんはやるせない気持ちになった。気持ちがどんどん冷たくなっていった。
…人は、みんな裏切る…
そこから、ミキくんは人間不信になってどんどん自我主義に拍車が掛かってしまったの。
だから、自分以外の他人がミキくんのせいでどんな事になっても
それを知った所で、自分には関係ないって責任放棄してそんな大変事も自分じゃないから簡単に忘れちゃってたみたい。
[もう、雷呼は根本的にそんな奴なんだろう。
今回の拷問の刑が終了して、少しも改善の兆しが見えなかったら手助けするのはやめよう。永遠と不幸のドン底を繰り返してればいい]
って、雷帝さんはミキくんを見捨てようと思ってたみたい。
だけど、こうも言ってたの。
[仮に少しでも改善の兆しが見られたなら、申し訳ないが雷呼を見守り導いてほしい。
おそらく、雷呼の生まれ育った環境での事や、恐ろしいくらい数の拷問を過去世の記憶を全て持ちながら受けるのだからそのトラウマも魂に刻まれるだろう。
そのせいもあり、何百回生まれ変わってからようやく人並みの感情を持てるようになるか分からないが、根気よく長い目で見てやってほしい。]
そんな風にお願いされて、私ね、雷帝さんの気迫に押されてつい、うんって言っちゃったの。
……けど、“恋”って、凄いね。
まだまだ時間がかかるって思ってたのに、ミキくんの心や精神が急速に成長してるんだもん。
多分、今のミキくんのように、人の気持ちを考えられない、思いやれない人なんていっぱいいっぱいいるから。
だからね。ミキくんは、いま自分の中の色んな気持ちや考え、意思と戦ってる最中だと思う。とってもとっても苦しいし辛い、悲しい事たくさん。いっぱい、いっぱい……
……でも、もし…それを乗り越えられたら………ライガパパ……カイ…ラさ…んと、強力しあって…他のみんなにも手伝ってもらっ……て、ミキく…ん、助け…て……あげ………て………』
そこまで、言うとちょっとやそっとじゃ起きないくらいショウは深い眠りについていた。
すかさず、桔梗はショウの脈拍など何か異変がないか検診して、異常がなかったようなのでホッと一安心して近くにある水を一気に飲み干していた。
相当、緊張していたらしい。そして、疲れ切った顔でグッタリと熟睡しているショウの横に気絶したように寝落ちていた。…寝落ちたというより、寝ずに看病し続けていたので過労で気絶したのであろう。
そんな桔梗をライガはショウと一緒の布団に寝かせると、二人の頭を撫でて深いため息の後脱力して二人が寝てるベットに突っ伏し
「……お前らは、まだまだ子供なんだからよ〜。
ショウもそんな、おっかね〜能力に振り回されてくれるなよ。…って、言っても勝手に見えちまうのはどうしようもねーが。難儀な能力持っちまって可哀想すぎんだろぉ〜。
そのせいで、可哀想なくらい体調崩して桔梗も死にそうなくらい心配して使っても無意味な事分かってるくせに魔道の無駄遣いしながらの寝ずの看病……可哀想過ぎて心苦しくて見てらんねーよ。
親として、子供のこんな姿見せられたらたまったもんじゃね〜。生きた心地しね〜よ。」
と、疲れ切ってしゃがれた声で嘆きの声を出していた。
…しかし…
「……まさか、ミキが刑期を終えた雷呼の生まれ変わりだったなんてな。そんで、そういう因果か俺と出会い、俺の弟になった。運命としか考えられねーよなぁ。」
と、二人が眠るベットに突っ伏した顔を上げると、ショウを壊れものでも触れるかのように大切に包み込んで眠る桔梗の姿。
そんな桔梗の顔に甘えた子犬の様に擦り寄るショウがいて、何とも可愛らしくも微笑ましい子ども達で見ていてホッコリする。
いつまでも見ていられそうな天使二人の寝顔を見ながら
ライガは前世でのライコを思い出していた。
前世と言っていいのか…
刑罰の拷問の一つでライガもライコも、自分が妊娠させた或いは妊娠した命を奪った人数分だけ自分も生まれ変わっては母親の腹の中、もしくは生まれたての赤ん坊のうちに様々な方法で殺された。
だから、拷問の為に転生した数々を転生、生まれ変わったと言っていいものか分からないが。これを転生、生まれ変わったなど考えたくも思いたくもないので刑期を終え転生できた今をようやく転生、生まれ変わったと思いたい。
それを踏まえて、前世
ライガの家族は子供に興味はなかったが、世間体や親がお子供を作れとうるさかったので仕方なくライガを産んだ。
だが、やはりというか子供に興味のない親は育児放棄をされライガは他の子より様々に置いて、同年代の子供より何もかもが劣っていた。
当たり前だ。本来、家で学ぶべき事を両親は教える事もなく放置し、言葉を教える事すらしなかったのだから。
食事だってまともに食べさせてもらえなかった。空腹に耐えかねて親の目を盗んでは食料を漁っていた。
しかも、ライガの姿を見る度に両親は、忌々しそうに見て“本当は産みたくなかった”“やっぱり、お前なんて生まなきゃよかった”“お前の顔も見たくもない”など、物心つく前から罵られる毎日。
そんなライガに転機が訪れたのは、いつだったか?今ではもう忘れてしまったが、結構幼い頃のように記憶している。
そこで、性に奔放の頭のネジがぶっ飛んでる異常者とみんなから忌み嫌われているライコと出会ったのだ。
ライコは、ライガのガリガリで薄汚れた姿を見て汚いと笑ったが
“お前、アタシ好みのいい男になりそう!親に見捨てられてんならアタシに着いてくる?”
そう言ってきたライコは、今のライガにとって救世主のように思えた。そして、ライガはライコに育てられた。
以外にもライコは面倒見が良く、お風呂や綺麗な服など与えられ学校にも通わせてくれた。そこで、ライコの知る限り有りとあらゆる事を教えてくれた。もちろん、エッチ込みで。
ライガにとってライコは育ての親であり先生でもあり自分を救ってくれた救世主でもあった。
だから、ライコの常識がライガにとっての常識でもあったので、何故周りがあんなにもライコの事を非難するのか謎過ぎた。
こんなに、面倒見のいい優しい人なのに。
俺が苦しんで辛い思いしてる時も、みんな何かをヒソヒソ言ってるだけで何もしてくれなかった。そんな中、どんな不純な理由であろうが、ライコだけが手を差し伸べてライガを救い出してくれたのだ。
なので、周りからどんなに言われようが何だろうが、ライガにとってライコは聖母であり色んな事を教えてくれる師匠で感謝してもしきれない程恩義を感じていた。
「俺とライコはマジの腐れ縁ってやつで、切っても切れねー運命なのかもな。
それに、最後までは見る事はなかったがライコの残酷非道なまでの残虐極まりない悍ましい拷問の数々を見せ続けられた俺だ。あんなの見せられて、俺だって正気でいられる訳ねー。」
そんな大切な存在のライコの拷問される姿……唯一自分に手を差し伸べてを救ってくれたライコの…
「そんぐらいに言葉では言い表せねーくらい永遠とも思える生き地獄をライコは味わい続けてきた。…だから…っ!
もう、幸せになったって許されるだろ?」
と、全てではないが、ライガもまた刑罰の一つとして、敬愛するライコの拷問を見せられ続けた。見てられなかった。聞いてられなかった。
…だが、どんなに現実逃避しようと見ないように目を瞑ろうと絶対に見えるようになっていて逃れようがなかった。
最初のあたりで、気が狂うのではないかという程ライコが拷問される姿を見せられ続け絶叫し続け、自分が転生するその時には……もう、気狂いしていてその時の記憶がない。
「…なのに、幸せになる為には試練が多いって?ショウの言い方じゃあ、まるで今世はミキは幸せになれねーみたいな事言ってたか?…させねーよ?
昔からのミキを知る俺がいる限り、絶対何が何でもミキを幸せにしてやる!
俺がカイラと出会い、幸せを掴んだように!!」
無意識にショウの顔にキスをしている桔梗に、ショウの事どんだけ好き過ぎんだよ。いいよな、そういうの!
俺もこれから、お前らに負けねーくらいカイラとラブラブだぜ!
でもって、過去世で“あのライコ”に育てあげた愚かな大人達。そして、自分達がライコに教え込み育てたら常識はずれのネジがぶっ飛んだ様な価値観に育ち、手がつけられないからと急に手のひら返しでライコを見捨てた大人達
自分達が、そういう風にライコを育てたくせに無責任にも、ライコを投げ捨て蔑む様になった人達
ようやく、刑期を終えせっかく転生してまともに生きる権利を得たってのに、生まれた環境がクソで刑期中のトラウマも魂に刻まれ人間不信になっちまったミキ
だけど、ミキは学生の身でまだまだ若い
なら、俺がやるべき事は決まってる!
オレの場合は、運良く宝来家に拾われスパルタだったが、オレの事を否定もしねーで少しずつ丁寧に色んな一般常識を教えてもらった。
ライコから教えてもらった事とは、あまりに違い過ぎて戸惑ったし受け入れがたかったが、ここに居る奴らは根気よく俺に教えてくれた。
そして、俺がここに居る奴らの教えをすんなり飲み込める様になったのは
やっぱり、ショウ様の育ての親になってショウ様の子育てをしてからだ。そこで、ようやく過去世自分のしてきた愚かさや、一般常識の大切さについてすんなり理解できるようになった。
今じゃ、宝来家には前世のライコ同様に感謝してもしきれねー。
だから、前世で俺がライコに救われたように、今度は俺がライコを救う番だな。ようやく、ここでライコに恩が返せる。
それには、まず
ミキの再教育だ!!
と、意気込むライガだった。
「…はぁ〜。しかし、かわいいなぁ、俺のショウ様は。オマケで桔梗もかわいいぞ。…二人とも、早く元気になれ。」
ライガは時折ショウの汗を拭いたり二人の頭を撫でたりして、大切な自分の子ども達を愛おしそうにそして心配そうに眺めていた。
熱と呼吸も苦しいせいで、顔を真っ赤にして冷や汗をかきながら目も涙目になっているショウを心苦しい気持ちで隣に座り、早く症状が和らいでほしいと祈るように手を握り続けるライガは
「どうした?喉がかわいたか?寒いのか?」
心配で心配で、少しでもショウの助けになれる事はないかと喋るのすら辛いであろうショウの為に、ショウがして欲しそうな事を予想して口に出して聞いてみた。
だが、そのどれも違うらしく弱々しく首を横に振ると
ライガに向かって、必死に口をパクパクさせて何かを伝えようとしているが声を出す事すら困難でただ息が漏れ出すだけで苦しいだけになっている。
それでも、必死に何か伝えようとして声が出ず伝えたいのに伝えられないのが悔しくてショウはたくさんの涙を溢し始めた。
泣くという行為も疲れるというのに、一刻も早くショウに泣き止んでもらわなければショウの体に大きく負担が掛かるだけだ。
思わず、ライガはショウの冷や汗を拭いたり排泄物のお世話など付きっきりでショウの看病をし続ける桔梗を見た。
それに桔梗は、困ったような表情を見せるとライガに向かい小さくうなづいた。
そして、ショウの看病をしつつテレパシーを使い、脳内だけでショウとライガが会話できるようにした。
『テレパシーでライガパパと話せるようにしたから、伝えたい事があるなら喋って大丈夫だよ。体力には影響ないと思うから。でも、体を休める事はできないから、できるだけ会話は早く終わらせてね?』
と、桔梗は優しくテレパシーでショウに伝えた。
『…ありがと、桔梗!』
ショウは凄く嬉しそうに桔梗にお礼を伝えると
『…どういたしまして。』
桔梗は少し複雑そうに柔らかくショウに笑いかけショウの額の髪をすくようにひと撫でした。
その優しい手を心地良く感じ、目を細め桔梗を見ているショウ。それから、ゆっくりとライガを振り向くと
『あのね、ライガパパ。』
『どうした?』
『うん、ミキくんの事なんだけどね。“見えちゃった”の。』
と、いうショウの言葉に、桔梗とライガはゾクリと体に冷たいものが走り凍りついてしまった。
まさか、予言かと思い桔梗はテレパシーを解除しようとしたしライガも同様の事を考え慌てて桔梗に声を掛けようとした。
だが
『ミキくんの前世は“雷呼”って女の人だったんだね。』
と、いう言葉に、予言じゃなかったと二人は緊張のおが切れたかのように体から力が抜けたのを感じた。
しかし、ショウの言葉にライガは驚きを隠せずいた。
『ミキくんは、“今が楽しければ後はどうでもいい”“自分さえ良ければそれでいい”が、自分にとっての当たり前だったんだけど。
そのせいで、周りを不幸にしていってドン底にまで突き落としても自分には関係ないって無責任だったんだね。
それを罪として、刑罰がくだって…数え切れないくらいの拷問を体験して“生まれ変わっても全部の記憶を持っている”から……。
序盤あたりから身も心もボロ雑巾みたいになった。
とても耐えられるものなんかじゃなくて拷問も中盤に差し掛かった頃から、精神異常者になっちゃったみたい。
刑罰が終わった時には廃人になってて……。
刑罰を終えると“新しく生まれ変わるにあたって、全ての記憶を消される”ようになってるみたい。
拷問の記憶があると、正常ではいられなくなるだろうからって理由らしいよ。』
…ドクン…
まさか、ライコがそんな事になっていて、生まれ変わって自分と出会った。
ある意味で運命としか思えないライガだったし、数え切れない拷問を体験したライコの事を考えると可哀想も過ぎて正気でいられなくなりそうな気持ちだった。
『それに、拷問内容のせいでとても悪い人としか関わる事もなかったせいか、相手を憎み恨んで呪って決して信じない。人が怖い恐ろしい残酷な悪魔だ!信じられるのは自分しかいない。
それが、記憶にはないけど魂に刻み込まれちゃったみたい。それに、生まれた所もミキくんにとって最低最悪な家族で、それで今のミキくんが完成しちゃった。
だけどね、今ミキくんは初めて人を好きになって、その人の為に変われそうなの。
けど、今までが今までだから
自分の気持ちに戸惑ってるし、どうしたらいいのか分からない。今まで知らなかった、体験することも無かった新しい自分を恐れているよ。
気がつけば、もう自分は色々と後悔する事ばかりしちゃった後で後戻りできない所まできちゃった。
もう、どうあがいても綺麗な体には戻れないって、すごくすごく後悔してるよ。
でも、終わった事はどうやったって元には戻らない。もう、遅いの。
だけど、ミキくんは手遅れになってからだけど、ようやく自分のしてきた愚かさに気付く事ができた。
今さら、気付いた所で遅いって思って泣いてるミキくんの姿が見える。
だけどね。とってもとっても大変だと思うけど、ミキくんの努力次第で変われる。運命さえも変えられる。
…きっと…!
だから、諦めないで?
自分の愚かさに気付いて後悔できるようになったんだもん。もう、今のミキくんは過去を繰り返さない。
もう、大丈夫。
怖がらないで、いっぱいいっぱい悩んで考えて考えて…逃げちゃダメ。
新しい自分の道に飛び込んで!
それが、ミキくんが幸せになれる唯一。
そこを間違えちゃうと、また永遠と同じ事を繰り返ししちゃう…それだけは絶対ダメなの!』
そこまで言って、ショウは相当疲れたのか段々と脳内に響くショウの声が小さくなっていき
『…だけど、ミキくんに似た考え方や生き方が間違えてるとも言い切る事もできない。だって、そんな風に生きている人達が大勢いるから。
ミキくんのセフレさん達だって、そう。似たもの同士集まってきちゃうの。
それでも、個々それぞれ色んな事情があって細かいところや大きな所で違いは出てくるから全く同じ人なんて存在しない。
大きく分類して似てるってだけ。
みんな、それぞれでそうなった経緯は違うんだけど。
ミキくんの場合は、容姿や能力、力、才能に頭脳ってずば抜けた天才だから、みんなにチヤホヤされて調子に乗って生きてきた。
ミキくんの明るくて元気で憎めない性格もあって、まるでみんなを明るく照らし出してくれる太陽の様な眩しい明るい子。
だから、みんなもそんなミキくんが可愛いな、一瞬にいるだけで自分まで明るく元気になれるって感じちゃうから、ミキくんの曇った顔なんて見たくなくて、ミキくんのご機嫌取りする事ばかり考えて良い悪いを教える事もなかったの。
ミキくんの両親でさえ。
ミキくんが何をやっても怒らなかったし悪い事をしても“仕方ないやつだなぁ”って、みんなは笑って許してくれたの。
その内、ミキくんは自分の事しか考えられない人に育っていった。犯罪さえ起こさないのであれば、面白おかしくやりたい放題してもいい。今を楽しまなきゃ損でしょ!
って、調子に乗りすぎて
他の子の気持ちも考えないし後先の事さえ考えないから、自分の知らない所で大惨事を起こして色んな人達を不幸のドン底に突き落としちゃってたんだね。
そこまできて、ようやく周りの人達もミキくんの異常さに気がついて注意するけど、そういう風に育っちゃったからみんなが注意してくる内容がよく分からなかったし今まではみんな笑って許してくれたのに急にどうしたんだろ?
なんて、考えて分からなくて。
いくら注意されても泣かれても、何とも思えなかったの。それの何が悪いの?って。
その内、ミキくんは“頭がおかしい“狂ってる”って周りから嫌悪されて突き放される様になって、親にまで邪険にされて今までのミキくんの生活は一変したの。
そこで、ミキくんはみんなに“裏切られた”って、かなりのショックを受けて悲しくて苦しくて…どうして?って、絶望して毎日一人で泣いてた。
いつもなら、誰かかしらミキくんと一緒に居たから急にひとりぼっちになって寂しくて寂しくて…どうしたらいいの?って、心の行き場を失ってや時に男性に声を掛けられて優しくされて……エッチしちゃった。
エッチしたら、みんな優しくしてくれるしお金までくれた。ミキくんは、色んな才能や力があるから自分が望めば、どんな凄い職業のだって就けるのにね。
けど、エッチしたら、あんなに優しくしてくれた男性はお金と連絡先を置いてさっさと居なくなってしまったの。
…さっきまでの温かさはどこ行ったの?エッチし終わるまで優しくしてくれたじゃん。
終わったら、冷たい雰囲気になって自分を置いて行ってしまったと、ミキくんはやるせない気持ちになった。気持ちがどんどん冷たくなっていった。
…人は、みんな裏切る…
そこから、ミキくんは人間不信になってどんどん自我主義に拍車が掛かってしまったの。
だから、自分以外の他人がミキくんのせいでどんな事になっても
それを知った所で、自分には関係ないって責任放棄してそんな大変事も自分じゃないから簡単に忘れちゃってたみたい。
[もう、雷呼は根本的にそんな奴なんだろう。
今回の拷問の刑が終了して、少しも改善の兆しが見えなかったら手助けするのはやめよう。永遠と不幸のドン底を繰り返してればいい]
って、雷帝さんはミキくんを見捨てようと思ってたみたい。
だけど、こうも言ってたの。
[仮に少しでも改善の兆しが見られたなら、申し訳ないが雷呼を見守り導いてほしい。
おそらく、雷呼の生まれ育った環境での事や、恐ろしいくらい数の拷問を過去世の記憶を全て持ちながら受けるのだからそのトラウマも魂に刻まれるだろう。
そのせいもあり、何百回生まれ変わってからようやく人並みの感情を持てるようになるか分からないが、根気よく長い目で見てやってほしい。]
そんな風にお願いされて、私ね、雷帝さんの気迫に押されてつい、うんって言っちゃったの。
……けど、“恋”って、凄いね。
まだまだ時間がかかるって思ってたのに、ミキくんの心や精神が急速に成長してるんだもん。
多分、今のミキくんのように、人の気持ちを考えられない、思いやれない人なんていっぱいいっぱいいるから。
だからね。ミキくんは、いま自分の中の色んな気持ちや考え、意思と戦ってる最中だと思う。とってもとっても苦しいし辛い、悲しい事たくさん。いっぱい、いっぱい……
……でも、もし…それを乗り越えられたら………ライガパパ……カイ…ラさ…んと、強力しあって…他のみんなにも手伝ってもらっ……て、ミキく…ん、助け…て……あげ………て………』
そこまで、言うとちょっとやそっとじゃ起きないくらいショウは深い眠りについていた。
すかさず、桔梗はショウの脈拍など何か異変がないか検診して、異常がなかったようなのでホッと一安心して近くにある水を一気に飲み干していた。
相当、緊張していたらしい。そして、疲れ切った顔でグッタリと熟睡しているショウの横に気絶したように寝落ちていた。…寝落ちたというより、寝ずに看病し続けていたので過労で気絶したのであろう。
そんな桔梗をライガはショウと一緒の布団に寝かせると、二人の頭を撫でて深いため息の後脱力して二人が寝てるベットに突っ伏し
「……お前らは、まだまだ子供なんだからよ〜。
ショウもそんな、おっかね〜能力に振り回されてくれるなよ。…って、言っても勝手に見えちまうのはどうしようもねーが。難儀な能力持っちまって可哀想すぎんだろぉ〜。
そのせいで、可哀想なくらい体調崩して桔梗も死にそうなくらい心配して使っても無意味な事分かってるくせに魔道の無駄遣いしながらの寝ずの看病……可哀想過ぎて心苦しくて見てらんねーよ。
親として、子供のこんな姿見せられたらたまったもんじゃね〜。生きた心地しね〜よ。」
と、疲れ切ってしゃがれた声で嘆きの声を出していた。
…しかし…
「……まさか、ミキが刑期を終えた雷呼の生まれ変わりだったなんてな。そんで、そういう因果か俺と出会い、俺の弟になった。運命としか考えられねーよなぁ。」
と、二人が眠るベットに突っ伏した顔を上げると、ショウを壊れものでも触れるかのように大切に包み込んで眠る桔梗の姿。
そんな桔梗の顔に甘えた子犬の様に擦り寄るショウがいて、何とも可愛らしくも微笑ましい子ども達で見ていてホッコリする。
いつまでも見ていられそうな天使二人の寝顔を見ながら
ライガは前世でのライコを思い出していた。
前世と言っていいのか…
刑罰の拷問の一つでライガもライコも、自分が妊娠させた或いは妊娠した命を奪った人数分だけ自分も生まれ変わっては母親の腹の中、もしくは生まれたての赤ん坊のうちに様々な方法で殺された。
だから、拷問の為に転生した数々を転生、生まれ変わったと言っていいものか分からないが。これを転生、生まれ変わったなど考えたくも思いたくもないので刑期を終え転生できた今をようやく転生、生まれ変わったと思いたい。
それを踏まえて、前世
ライガの家族は子供に興味はなかったが、世間体や親がお子供を作れとうるさかったので仕方なくライガを産んだ。
だが、やはりというか子供に興味のない親は育児放棄をされライガは他の子より様々に置いて、同年代の子供より何もかもが劣っていた。
当たり前だ。本来、家で学ぶべき事を両親は教える事もなく放置し、言葉を教える事すらしなかったのだから。
食事だってまともに食べさせてもらえなかった。空腹に耐えかねて親の目を盗んでは食料を漁っていた。
しかも、ライガの姿を見る度に両親は、忌々しそうに見て“本当は産みたくなかった”“やっぱり、お前なんて生まなきゃよかった”“お前の顔も見たくもない”など、物心つく前から罵られる毎日。
そんなライガに転機が訪れたのは、いつだったか?今ではもう忘れてしまったが、結構幼い頃のように記憶している。
そこで、性に奔放の頭のネジがぶっ飛んでる異常者とみんなから忌み嫌われているライコと出会ったのだ。
ライコは、ライガのガリガリで薄汚れた姿を見て汚いと笑ったが
“お前、アタシ好みのいい男になりそう!親に見捨てられてんならアタシに着いてくる?”
そう言ってきたライコは、今のライガにとって救世主のように思えた。そして、ライガはライコに育てられた。
以外にもライコは面倒見が良く、お風呂や綺麗な服など与えられ学校にも通わせてくれた。そこで、ライコの知る限り有りとあらゆる事を教えてくれた。もちろん、エッチ込みで。
ライガにとってライコは育ての親であり先生でもあり自分を救ってくれた救世主でもあった。
だから、ライコの常識がライガにとっての常識でもあったので、何故周りがあんなにもライコの事を非難するのか謎過ぎた。
こんなに、面倒見のいい優しい人なのに。
俺が苦しんで辛い思いしてる時も、みんな何かをヒソヒソ言ってるだけで何もしてくれなかった。そんな中、どんな不純な理由であろうが、ライコだけが手を差し伸べてライガを救い出してくれたのだ。
なので、周りからどんなに言われようが何だろうが、ライガにとってライコは聖母であり色んな事を教えてくれる師匠で感謝してもしきれない程恩義を感じていた。
「俺とライコはマジの腐れ縁ってやつで、切っても切れねー運命なのかもな。
それに、最後までは見る事はなかったがライコの残酷非道なまでの残虐極まりない悍ましい拷問の数々を見せ続けられた俺だ。あんなの見せられて、俺だって正気でいられる訳ねー。」
そんな大切な存在のライコの拷問される姿……唯一自分に手を差し伸べてを救ってくれたライコの…
「そんぐらいに言葉では言い表せねーくらい永遠とも思える生き地獄をライコは味わい続けてきた。…だから…っ!
もう、幸せになったって許されるだろ?」
と、全てではないが、ライガもまた刑罰の一つとして、敬愛するライコの拷問を見せられ続けた。見てられなかった。聞いてられなかった。
…だが、どんなに現実逃避しようと見ないように目を瞑ろうと絶対に見えるようになっていて逃れようがなかった。
最初のあたりで、気が狂うのではないかという程ライコが拷問される姿を見せられ続け絶叫し続け、自分が転生するその時には……もう、気狂いしていてその時の記憶がない。
「…なのに、幸せになる為には試練が多いって?ショウの言い方じゃあ、まるで今世はミキは幸せになれねーみたいな事言ってたか?…させねーよ?
昔からのミキを知る俺がいる限り、絶対何が何でもミキを幸せにしてやる!
俺がカイラと出会い、幸せを掴んだように!!」
無意識にショウの顔にキスをしている桔梗に、ショウの事どんだけ好き過ぎんだよ。いいよな、そういうの!
俺もこれから、お前らに負けねーくらいカイラとラブラブだぜ!
でもって、過去世で“あのライコ”に育てあげた愚かな大人達。そして、自分達がライコに教え込み育てたら常識はずれのネジがぶっ飛んだ様な価値観に育ち、手がつけられないからと急に手のひら返しでライコを見捨てた大人達
自分達が、そういう風にライコを育てたくせに無責任にも、ライコを投げ捨て蔑む様になった人達
ようやく、刑期を終えせっかく転生してまともに生きる権利を得たってのに、生まれた環境がクソで刑期中のトラウマも魂に刻まれ人間不信になっちまったミキ
だけど、ミキは学生の身でまだまだ若い
なら、俺がやるべき事は決まってる!
オレの場合は、運良く宝来家に拾われスパルタだったが、オレの事を否定もしねーで少しずつ丁寧に色んな一般常識を教えてもらった。
ライコから教えてもらった事とは、あまりに違い過ぎて戸惑ったし受け入れがたかったが、ここに居る奴らは根気よく俺に教えてくれた。
そして、俺がここに居る奴らの教えをすんなり飲み込める様になったのは
やっぱり、ショウ様の育ての親になってショウ様の子育てをしてからだ。そこで、ようやく過去世自分のしてきた愚かさや、一般常識の大切さについてすんなり理解できるようになった。
今じゃ、宝来家には前世のライコ同様に感謝してもしきれねー。
だから、前世で俺がライコに救われたように、今度は俺がライコを救う番だな。ようやく、ここでライコに恩が返せる。
それには、まず
ミキの再教育だ!!
と、意気込むライガだった。
「…はぁ〜。しかし、かわいいなぁ、俺のショウ様は。オマケで桔梗もかわいいぞ。…二人とも、早く元気になれ。」
ライガは時折ショウの汗を拭いたり二人の頭を撫でたりして、大切な自分の子ども達を愛おしそうにそして心配そうに眺めていた。