クズとブスの恋愛事情。

…ドックン!ドキドキ…



まさかと思い、自分の手を見てみると生まれて間もないであろう小さな小さな手が目に映った。


…ドッキドッキドッキ!


…ま、まじぃ〜?

嘘でしょ?ほんとの本当に、こんな事ってあり得る?


と、驚くとともに


…ああ…

大切な家族を失ったんだという悲しみと、あんなに温かくも優しい家族を捨てたんだという罪悪感で自分はなんて愚かな事しかできないんだと自分を責めに責めた。

そして、ひとしきり泣いて

その度にクソみたいなメイドに、頬や腹を叩かれ暴言を吐かれたが

ミキは、そこでようやく決心した。

いや、ここまできたらやらない訳にはいかなくなったというだけだが。

どうにか、生き抜いて…とにかく力と知識だ!死ぬほど努力して、この家の奴らじゃ到底敵わない程までに力をつけたら

絶対にこの家から逃げて、ひーちゃん見つけて……あれ?

逃げるって事は、追っ手が来るわけで…ひーちゃんと仲良くしてたらひーちゃんにも被害が及んじゃうじゃーん!

それ、絶対ダメ!

…ええっ!?

これから、オレってば!どうすればいいのぉ〜〜〜!?誰か、教えてぇぇ〜〜〜!!


と、絶望的この状況にミキは頭を抱えた。だけど、とってもとってもいい事がある。

あの残酷な状況から、ひーちゃんを助ける事ができた。…それだけでも良かった。

ミキは陽毬を助けられた事にとても喜びを感じ、その為に逆行したんじゃないか。

願いが叶って良かった。


そう、心から思ったのだった。


…もう無い話だけど。俺のせいで、あの時ひーちゃん守れなくてごめんね?

もう、大丈夫だからね。


あんな未来には絶対させないから!

と、ミキは強く心に誓うのだった。


…けど、自分が選んだ事とはいえ…


ライガとカイラ…ミキの大切で温かな家族を失ってしまった。それだけが惜しくて、良くしてもらった二人にとても申し訳なく心苦しい。

もう、二度と手に入らないだろう…夢にまで見た優しく温かな自分の帰る場所。

自ら手放したとはいえ…帰りたい。叶わない夢になってしまったが、家族ってこんなに温かで何の見返りもない無性の愛の溢れる場所なんだって初めて知った。

…こんな自分が一瞬でも、そんな体験ができたって事を心の宝物にして生きていこう。

なんて、毎日毎秒と考え未練タラタラなミキは毎日静かに泣いていた。大声で泣いちゃうとミキを育てる為、たった一人あてがわれたメイドに暴力を振るわれるから。痛いのは嫌だ。


「…それにしても、お前は不義の子とはいえ大樹様の血を分けた“弟”だってのに“何一つ容姿が似てない”ね。」


と、忌々しそうにミキを見下ろすDVクソメイドの言葉に疑問。


…は?

不義の子ってのは前と同じだけど、オレが大樹の“弟”???

あれ?

前はオレと大樹は同い年だったはずなのに、今なんて言った?このクソメイド。

大樹がオレより2才年上だって?


……え???


メイドの話にキョトーンとしていると、メイドはブツクサと話を続けた。


「大樹様は2才だというのに、容姿から何から王族としての品性を感じられる。
…けど、お前のその容姿はなんだい?」

…なんだい?って、言われても

大樹そっくりの容姿でも、大樹の肌が白いのにオレの肌が浅黒いから汚物みたいだって言いたいんだろ?

毎日のように、このメイドに言われ続けていた事なので耳にタコである。


「紫がかった肌。腕やふくらはぎ、背中に円を描くような様々な色の雷模様の痣。薄紫の髪と目。目の瞳孔なんて体にある雷の形をしていて異色過ぎて気持ち悪いんだよ!
こんな奇形の赤ん坊の面倒みるなんて何て最悪なんだろう。本当に気持ち悪い。
将来素晴らしい方になるだろう大樹様とは大違いだよ。」


……え?

肌や髪、目まで紫?

体や目の瞳孔に稲妻模様??

それって、まるでライガやカイラの特徴と一緒じゃん!

確か、二人は異世界から来た雷の国の住人だっけ?…雷神族。


また二人に会えるか分からないけど、二人の種族雷神族の特徴持って生まれる事ができるなんて…!

それだけでも二人と繋がりがあるって思える。

…それだけで、凄く嬉しい。


と、ミキは心の底から自分の容姿の特徴に喜んだ。メイドはその容姿を何かの病気持ちなんじゃないかって気味悪がっていたが。

しかし、自分がこんな特徴の容姿で生まれたって事は、オレの父親が手を出したメイドも雷神族って事?つまり、何か悪さして異世界追放されたか、時空の歪みでこの世界に迷い込んできたか…

なんて、考えていると


「お前は、旦那様にも旦那様の愛人の一人であるお前の母親とも全然容姿が違うね。あまりに見てなさ過ぎてDNA鑑定したらしいが、おかしな事にお前のDNAが特殊過ぎて判断できなかったそうだよ。」

DNA鑑定しても判定できないとか、何がどうなってんの?


「しかも、お前は本当に運がいいね。」


……え?

まだ、何かあるの?


「お前が生まれた瞬間、そこに居る誰もが気味悪がって死産した事にして殺そうとしたんだがね。」


……ゾォ〜……!

…え?

オレってば、肌の色とか違って気持ち悪いからって殺されそうになってたの?

…マジでぇ〜?

ひど過ぎなーい?…本当に命をなんだと思ってる訳ぇ〜?

残虐非道ってやつじゃぁ〜ん。

マジで、コイツら…悪魔としか思えないんだけどぉ〜!怖すぎじゃぁ〜ん!


「そこに突然、帝王様直属の騎士様達がいらっしゃったらしいんだよ。
“今、生まれた赤ん坊は特別な力を持っている。だから、帝王様の忠実なる良き部下とする為貰い受けたい。”
ってね。だから、お前を帝国城に渡す為の身着たくしてるんだよ。」


…ん?

って、事はオレは今生まれたてホヤホヤで、お着替え中って事?

じゃあ、なんでお城のお迎えの人達がいない訳?

メイドがたった一人コイツな訳?

と、考えていると


「誰も気持ち悪いお前を風呂にも入れたがらないし、着替えもさせたくない。触れるのも目にするのも嫌だって事で一番下っ端の私に、こんな嫌な仕事を押し付けてきやがったのさ。…チッ!」


…えぇっ!!?

オレって、そんな気持ち悪い見た目しちゃってんの?

超絶ブサイクってヤツぅ〜?

……前のオレへの罰かな?

それくらい、女の子達に酷い事して泣かせてきちゃったからねぇ〜。

そこは受け入れるしかないよねぇ〜。

…でも、ブサイクかぁ〜…ブサイク…


…ずぅ〜ん…


と、自分に言い聞かせるも

以前、大樹そっくりの容姿は反吐が出る程嫌で嫌で仕方なかったが、それでも誰もが振り返る程のイケメンだったミキには、メイドの話や態度を見て今現在ブサイクになったであろう自分に相当なまでにショックを受けていた。


そして、ぶつぶつ文句を言っているメイドの話を聞いていて分かった事が幾つかあった。


帝王騎士団数名がミキが産まれた瞬間直ぐと言っていいほどに、いきなり分娩室にワープしてきたらしい事。

鷹司家で、まさか産まれた赤ん坊を殺そうとしていた事を悟られないよう、大切な鷹司家の赤ん坊だとアピールする為に生まれたままミキを騎士団に渡さず

“せめて、この子を綺麗にして親子との別れを惜しむ時間がほしい”だの思ってもない言葉をつらつらと述べ

騎士団の皆様は応客室で慎重かつ丁寧に接待し、鷹司家当主と右腕である執事と騎士団とでミキを巡っての色々と取り引きをして居るようだった。

そこで、ミキはおかしく思った。


“親子の別れを惜しむ時間がほしい”って、自分で言っといて息子であるオレを放って置いて騎士団と取り引きの話をするって矛盾し過ぎてない?

その疑問は、当然ながら騎士団達もおかしいと感じ鷹司家当主に強い不信感を持ちつつ取り引きの話をしていた。

この事について、これは美味しい話ができたとほくそ笑んでいる騎士団達とはつゆ知らず、鷹司家当主達みんな、厄介者を追い払えるうえに何かにつけてミキを引き出しに帝王をいいように使えると喜んでいた。


そして、取り引きの決着がついたのであろう。

ミキのいる部屋に急ぎ足でくる数名の力強い足音が聞こえてきたと思ったら



「…待ってください!あの子は、自分達が騎士様達の元まで連れて行きますので!!」

「…ば、場所もわからないでしょう!騎士様達は応接間で待っていただければ……!」

と、騎士団のみなさんを引き止めようとする鷹司家当主や執事達。

だが


「“親子の別れを惜しむ”など、赤ん坊に愛情ある親のふりをして、赤ん坊ほったらかしにして赤ん坊を商品のように扱い。更には、何かにつけ我が帝王様に取り入ろうという魂胆丸見えなお前達には失望しかない。」


「……そ、そんな……ッッッ!!!?」


「そんな信用ならぬお前達が、あの赤ん坊をまともに扱うとは到底思えん!
だから、赤ん坊の“気”“魔力”を探り我らが直々に迎えに行く事にした!何をされてるか分かったもんじゃない!!」


「…あ、あの子はどんな皮膚の病気であれ、大切な我が子に違いありません!大切な我が子に酷い扱いなどする愚かな親が、どこの世界にいましょうか?」


「…そうか。ならばだ。もし、この短時間で赤ん坊が酷い扱いを受けていたと分かった瞬間、この鷹司家の爵位を無くし平民に落ちても構わないという事でいいか?」


「…そ、それは、やり過ぎではないでしょうか?あんまり過ぎます!」


「或いは、あの赤ん坊の事はこの家で生まれなかった事にし、赤ん坊とは一切縁もゆかりもない真っ赤な他人とするか。どちらか選べ。それ以外、選択肢は許さないとの帝王様からのお達しが届いた。」


と、しっかり話が聞こえ、ミキを乱暴かつ適当に冷たい濡れタオルであちこち拭き着替えをさせていたメイドの表情は青ざめ体は強張っていた。

そして、いよいよドアが開かれ


みんなが、部屋の状況を見るなり

騎士団の表情は怒りに満ち、鷹司家当主や執事、妻、メイド長達は青ざめ体をガタガタと震わせていた。


「…ゲホッ!なんだ、この“階段下の物置小屋”は!窓もない、掃除もしてなく蜘蛛の巣や埃だらけ。
赤ん坊を寝かせるベットも、カビや埃まみれで赤ダニまでいるじゃないか!あまりに不衛生過ぎる!」

「…そ、それは……あ、あ……!こ、このメイドが部屋を間違えてしまったのでは?これは、我々は全く知らなかった事です。まさか、こんな場所に我が愛しい子を閉じ込めるとは!不届き者め!」

騎士団の一人に部屋の事を指摘されると、鷹司家当主達はこぞって知らなかった。このメイドが勝手にやった事だと、ミキの面倒を押しつけられたメイドは責めに責められた。

メイドは、そんな状況に恐怖し青ざめ体を震わせながら


「…そ、それは旦那様方が、こんな汚物は誰の目にもつかない使わない部屋に放り込んでおけばいいと、この部屋を指名してきたので私はそれに従っただけで…!」


「…だ、だまれっ!この外道めが!」


「…そっ…そんなっ…!だって、私……」


と、互いに罪を擦りあっている間にも、別の騎士はミキの側へ行き顔を望みこむと


「……なんて事だ!赤ん坊の頬が赤く腫れているぞ!」

なんて驚きの声を上げると、そこにいた騎士団全員…5名がミキの所へ駆けつけた。

「これは、自然にできた腫れではないな。物にぶつかってできた腫れでもない。人に打たれなければできない腫れだ!」

と、言ってミキの服を全て脱がせると


「…なんという酷い事を…。信じられない。生まれたばかりの赤ん坊の腹や太もも尻まで痛々しい痣ができている。」

「…それに、臭いが…!まだ、血生臭いなんておかしくないか?
本当に風呂に入れ丁寧に洗ったのか?」

そう言って、周りを見渡すと

そこには薄汚れた小さな洗面器と赤ん坊の体を洗う時は適さない、ゴワゴワの汚い雑巾があった。

洗面器の中に手を入れてお湯の状態を確かめれば冷水で、話し合いがあって時間が経つにしろここまでお湯が冷たくなるなんてあり得ない。

抱いた赤ん坊の肌を見れば、赤ん坊の弱くも柔い肌がゴワゴワの固い雑巾で乱雑に拭かれたからだろう。
痛々しくも赤ん坊の肌は細かな傷だらけでヒリヒリ痛みそうに赤く爛れている。

あまりの痛々しい姿に騎士団達は絶句だ。


それを扉の向こうから人に見つからないように隠れ眺めている幼い幼児は、今にもなきだしそうに怯えながらその光景を見ていた。

赤ん坊を抱いた騎士はすぐさま、高等魔導である回復魔導を発動させ赤ん坊の傷を治した。そして、騎士は優しく微笑みながら


「…痛かっただという。苦しかっただろう。だが、もう大丈夫だ。安心してくれ。」

と、ミキに話しかけたのだった。


「…さて。どういった経緯で産まれたばかりの赤ん坊が、ここまで酷い扱いを受けたのか知る必要性が出てきた。」

騎士の一人がそう言い、別の騎士に合図すると

その騎士は、空間にある映像を映し出していた。

それは、ミキが生まれた瞬間から今に至るまでのミキの映像だった。

だから、出るわ出る!

鷹司家のミキへの酷い扱い。挙げ句は肌の色や身体中にある稲妻模様の痣が気持ち悪いという理由で、死産だったと偽り殺そうとしていた事。

気味が悪いからと、一番下っ端のメイドに直ぐゴミに捨てていいような雑巾や洗面器を渡し、誰も使わない階段下の汚物置き専用の物置き小屋で赤ん坊をどうにかしろと押し付けた事。

厄介なものを押しつけられた腹いせに、下っ端のメイドは無力で何の罪もない純粋無垢な赤ん坊に暴言と暴力を振るっていた事。

などなど、出る出る。


その映像を顰めっ面しながら見る騎士団達と怯え声を押し殺し泣いている幼児。

「なお、この映像は帝王様もご覧になっている。」


と、言った所で、鷹司家当主は慌てふためき自分は悪くない!悪いのは、下っ端のメイドだと必死になって主張していた。それに続き、当主の妻や執事、メイド長までも当主と一緒になって下っ端のメイド一人に全ての罪をなすり付けようとしていた。

あまりの醜い人間模様に、騎士団達は呆れ果て


「お前達とは到底話も合わなそうだ。そこで、帝王様は決断なされた。
この赤ん坊は、赤ん坊を大切に育ててくれる里親に出す。だから、この赤ん坊とお前達とは一切合切縁もゆかりもない真っ赤な他人、無関係とする。」

と、王命を下した。王命は絶対である。口を出すことすら許されない。

なので、そこにいる鷹司家全ての者達は床に膝をつき最上級の礼儀で頭を下げ


「謹んでお受けいたします。」

と、鷹司家当主が絶対的契約を結んだ事でミキは、鷹司家から救い出されたのだった。

何がどうなっているのか、ミキは今起きている出来事にただただポカーンとしているだけだった。


……え?

過去と展開が全然違うんだけど!

どうなってるの?


なんてミキが混乱していると


『テメーみてぇな“特殊なケース”は稀だ。刑罰が終了して刑罰の術”が解除されたはずなのに、テメーはあまりに長く“刑罰という名の呪い”を受け続けた。』

ミキに誰かが突拍子もない話を話してきて驚いた。

今、帝王直族の騎士団と鷹司家でミキの事で色々と話し合われている最中……いや、鷹司家の断罪中である。

しかも、声がとても幼い。一才位の声だが、口調はハッキリしていてヤクザ紛いな大人の様な喋り方だ。

幼児の声をした大人の荒くれだろうか?姿こそ見えないが柄が悪すぎる。
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