名前のない星座
よかった、久しぶり土いじりしなくて済む。最近の放課後はバイトか園芸部かのどちらかだったから。
「雨美、1年女子が呼んでる」
男女問わずすっかり呼び捨てされるくらいの仲になった渋木雨美。いくらもともと話す機会があったやつらばかりでも、人との距離感、おかしいだろ。
「1年生の女の子?」
廊下からこっちを覗いている。反応的に面識はないらしい。
「雨美姉、なんかの部に勧誘してたりするの?」
「しないしない。あ、中入ってきてぜんぜんいいよー!」
いや、上級生の教室とか気まずいだろ。気遣いのかけらもない。
「椅子はこれね。あ、ちょっと待ってね。紅茶飲める?」
「あ、は、はい」
その返事を満足そうに聞き届けると、教室の後方に置いた紙コップにティーパックを入れて、ポットからお湯を出しはじめた。
あれはたぶん渋木雨美の私物。カフェ気取り。
「3年生の教室にはポットがあるんですか?」
「あれは渋木雨美が勝手に持ち込んでるやつ。なんだかんだ毎日ちゃんと洗ってるから衛生的には問題ないよ」
おれも最初の頃は戸惑った。私立の進学校だ。それなりに厳しい。
だけどなぜかこの学園の先生たちはあの女に甘いし弱い。
「はいどーぞ」
「急に来たのに、ありがとうございます」
「いいのいいの。お名前は?」
「津雲ゆいです」
「つくゆいちゃん、深刻な顔してどうしたの?なんか悩みごと?お勉強なら教えられるよ」
いいから黙って聞いてやれよ。せっかちだな。