充電したい
なんか微妙な空気のまま、残りの仕事をこなし、何事もなかったかのようにこの日は帰った。
きっとあれは吊り橋効果って奴だったんだと思う。
苦手な真っ暗闇のあとで、課長にときめいただけ。
そもそも、あんなイケメンにときめかない方がおかしいんだし。



しかしながらその日から、課長に充電と称して関係を迫られるようになった。
断ればいいんだろうけれど、あの香りに包まれてレンズの奥から艶を帯びた瞳で見つめられたら、催眠術にでもかかっているかのように承知してしまう。
さすがに、課長曰く〝充電コード〟とやらを会社で挿させてやったのは、あの一回きりだが。

手軽に充電ができるようになった課長といえば、お肌つやつや、髪もさらさらと、その美しさに磨きをかけているというわけだ。



「神代。
充電させろ」

今日も商談から帰ってきて電池を大量消費した課長は、私を人気のない物陰に引きずり込んだ。

――しかしながら。

「課長にとって私は、ただの充電バッテリーですか?」

もう一方的に課長から、関係を求められるのは嫌なのだ。
私はものではない、人間だから。

「は?」

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