極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
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五月も終わる頃には、樹くんと私は何度も肌を重ねるようになっていた。
お互いの休みが重なるときはほとんどないけれど、翌朝ゆっくり家を出られる日の前日や休みの前日には彼のベッドで眠ることもあった。
明らかに、私たちの距離は近くなっている。
ただ、体を重ねる回数が増えていくたび、心には戸惑いが募っていった。
これでいいはずがない。いくらなんでも、なし崩しのように抱き合うなんて、きっとよくない。
そう思う反面、樹くんに熱っぽい瞳で見つめられると抗えなくて……。彼との甘やかな情事に、確実に溺れてしまっている。
けれど、これは愛のない関係。
決して勘違いしないように自分自身に言い聞かせる私の胸の奥は、ときおり複雑な苦しさを感じるようになっていた。
「……大森?」
そんな中でも笑顔を崩さずに業務をこなしていると、レジに並んでいた作業着姿の男性に名前を呼ばれた。
白いツナギの胸元には、JSAのロゴが入っている。