極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
昼間の樹くんの言葉が頭から消えなくて、家に近づくにつれて緊張感が増した。


本気とも冗談ともつかない言い方だったけれど、たぶん冗談じゃなかった。それをわかっていると、鼓動は勝手に落ち着きを失くしていった。


ところが、家に着いてリビングに入ると、彼はソファで眠っていた。
ホッとしたような、なんだか拍子抜けしたような。複雑な気持ちになってしまう。


けれど、綺麗な寝顔から目を逸らせなくて、つい見入ってしまった。


ふと、樹くんが目を開ける。
その直後には視線が交わり、一瞬声が出てこなかった。


「えっと……ただいま。寝るなら、ベッドの方が――」


早口で言いながら咄嗟に顔を背けると、彼が私の手を掴んで体を引き寄せた。
必然的に倒れ込んだ私は、ソファに寝転んでいる樹くんの上に乗せられてしまう。


「っ……!」


刹那、唇を塞がれた。
強引にくちづけられたかと思うと、舌が差し込まれる。一瞬で私の舌を捕らえた彼は、右手で私の後頭部をグッと押さえつけた。

< 79 / 143 >

この作品をシェア

pagetop