初夜で妻に「君を愛することはない」と言った私は、どうやら妻のことをめちゃくちゃ愛していたらしい


「やはりそうか、私を赦すなんて、君からしたら考えたくもないことなんだな」
「えっ、いえ、それは違」
「いいんだ、君の反応は当然だ。相手を愛していればいるほど、私の言ったことはきっと鋭く心に刺さっただろうからな。君は愛情深い女だ、ここであっさり赦すほど、君の私への愛は軽いものではないはずだ」

 頷きながら彼女への理解を示す私に、彼女は感動したのか、涙目で震えている。
 「赦しちゃダメなの?」「どうしてこうなったの?」と小さく呟く彼女に、ドブネズミこと私は怪訝に思って彼女を見る。

「……ん? すまないステフ、よく聞こえなかったんだが、まさか私を赦すつもりで」
「そ、そそそんな訳ありませんわ!?」
「…………そう……だよな。すまない、君に赦してもらいたい一心で私ときたら! この都合の良い耳を引きちぎってしまいたい!」
「や、やめてくださいまし! それはわたくしがペロペロする大事なお耳……!」
「ん?」
「はっ――げふんげふん!」

 どうやら幻聴だったようだ。
 本当に、私の耳は都合が良すぎて困ったものだ。ステファニーといえども、こんな場面で私の耳をペロペロだなんて言うはずがないのにな。ははっ。
 
「それにだ、誇り高い侯爵令嬢、美しい大輪の薔薇に喩えられたあのステファニー=スマイル侯爵令嬢が、こんな簡単に絆されるチョロい女な訳はないものな」
「そ、そうですわ! わたくし、とても傷つきましたし、誇り高い女ですのよ……で、でもですね」
「うん、君なら当然のことだ。君のような価値ある女性が、私のようなクズ男を直ぐに赦すなんてありえない」
「ありえ……なくなくなくもありませんけれど!?」
「なのに、私ときたら……君の情けに縋ろうなどと、情けない男だ……!」

 落ち込みつつも、私は改めてステファニーの右手を両手で握りしめながら、彼女と向き合う。

「こんな不甲斐ない男で本当に申し訳ないが、やりなおすチャンスが欲しいんだ。どうか家に戻ってきてもらえないだろうか」
「……わ、わたくし……」
「君の、自分が本当に愛されていないなどという誤解を覆して見せる。誠実な夫に生まれ変わった私を見てほしい」

 目も口も大きく開けっぱなしにしているステファニーを、私は至極真面目な顔をして必死に見つめる。

(キマッた! さすが私! 2日前から考えていた決め台詞を最高の流れで言うことができたぞ!!)

 私にできることはやりきった。
 もう手札はない。ここで断られたら、あとは見るも無惨に追い縋るただのダメ男にジョブチェンジするしかないのだ。 

(さて、どう出る、ステファニー!?)

 運命の女神は、私に微笑んでくれるのか――!?


「……わ、わたくし、帰ってみてもよろしくて、よ……」


 ――勝利だ(Victory)――!!

 私はドヤ顔で歓喜の声をあげそうになる自分を必死に抑える。
 だめだ、ここで油断したら全て元の木阿弥だ。勝利の後が一番油断しやすく危険なのだ。家に帰るまでが遠征、ここが気合いの入れどきだ!

「ありがとう、ステファニー。私はなんとしても、君の気持ちを再(・)燃(・)させてみせるよ」

 私は、いい笑顔でステファニーと向き合う。
 そして、必死にキメ顔を作っている私には、「ですから、それは無理ですわ……」と呟くステファニーの声は聞こえていないのだった。


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