夜空に咲く恋
第十二話 微妙な朝
「おはよう」
「おはよっす」
「おはようございまーす」
朝の教室でクラスメイト達の挨拶が飛び交う。朱美は昨日の颯太と蒼の会話が頭から離れず、もやもやとした朝を迎えていた。
(蒼ちゃんが来たら、昨日の事をちゃんと聞いてみなきゃ……)
しばらくして蒼が登校する。蒼の方も、朱美と颯太が幼馴染であるという事について話を聞きたい為、朱美と同様もやもやとした朝を迎えていた。
(朱美ちゃんに坂本君の事、ちゃんと聞いてみないと!)
朱美と蒼、二人の視線が合い挨拶を交わす。
「おはよう、蒼ちゃん」
「おはよ、朱美ちゃん」
「……」
「……」
挨拶の後に起きる微妙な間。
(ど、どうしよう……昨日の事、蒼ちゃんに聞きたいんだけど、何て切り出したら良いか……)
(朝からいきなり坂本君の事を聞くのって、何か気まずい……)
二人の女子高生が苦笑いで見つめ合う。
「……」
「……」
再び起きる微妙な間。朱美と蒼……二人とも性格は明るく活発な方であるが、いざという時や人付き合いに関しては奥手で慎重な方である。
(ああっ、もう、気まずいよ! ……私、こういう雰囲気苦手!)
本題を切り出せない蒼は、とりあえずどうでもよい会話を始める。
「えっと、朱美ちゃん? ……今日はその、良い天気だね」
(えっ!? 天気の話!?)
朱美は少し驚きながら、ぎこちない返答をする。
「そ、そうだね。春だもんね。ぽかぽかして眠くなりそう。あはは」
「分かる分かるー。もう、春は眠くって大変! 私なんか、昨日の夜はすぐに寝ちゃったよ。八時間位寝ちゃってるかも!」
……蒼の発言は嘘である。
蒼は昨夜、颯太と高校で再会できた事、そして颯太と朱美が幼馴染であった事に興奮で想像が爆発し、深夜まで眠りにつく事ができなかった。枕をギュッと抱きかかえ、歓喜の声を上げながらベッドの中をゴロゴロと激しく左右に動き回った。その激しさのあまり、壁に頭を二回ぶつけたしベッドから落ちそうにもなった。
「そ、そうなんだ……それなら今日の蒼ちゃんは元気もりもりだね。私は何だかあまり眠れなくって。寝たのは一時か二時かも」
「そ、そうなんだ? そういう日も……たまにはあるよね。あはは」
……朱美の発言は事実である。
朱美は興奮で眠れなかった蒼とは対照的に、ベッドで横になりながら両手を後頭部に回し、不思議な感覚で天井を眺めていた。電話での颯太に対する蒼の反応は……所謂「女子の反応」であった。蒼は颯太の事を意識しているのか? 異性として見ているのか? ……と考えていたら眠る事ができなかった。後頭部に回した両手は痺れて感覚がなくなり、血が通い出すまで暫く動かせなくなってしまった程だ。
「……」
「……」
またも二人を襲う微妙な間。
(ああっもう! 朱美ちゃんに坂本君の事を聞きたいのに!)
(ああっもう! 蒼ちゃんに颯太の事を聞きたいのに!)
昨夜の行動は対照的でも、今の感情は蒼も朱美も共通している。二人は再び苦笑いで向かい合い固まってしまった。するとそこに、玲奈がやってきた。
「おはよ、蒼、村上さん」
特殊な呪文で封印を解かれたかの様に、固まっていた二人が息を取り戻す。
「あ、おはよ、玲奈」
「玲奈ちゃん、おはよう」
会話の場を取り持ってくれそうな玲奈の登場に安堵する蒼と朱美であったが、玲奈はここで二人にとって意外な発言をした。
「今日の一限目、英語の宿題……私やってないんだけど、見せてくれない?」
「えっ?」
「あっ!」
「……」
「……」
「……」
今度は微妙な間が三人を襲う。
「ああっ! ごめん玲奈! 私、忘れてた!」
「ええっ!? 何やってるのよ蒼!? 英語が得意な蒼は英語、数学が好きな私は数学の宿題をやってお互いに見せ合う同盟を結んだでしょ!?」
(なっ!? 蒼ちゃんと玲奈ちゃん、そんな同盟結んでたの!?)
「もう仕方ないわね。村上さん、悪いけど見せてもらえないかしら?」
「あっ、ごめんなさい玲奈ちゃん……私も忘れちゃって」
昨日、颯太と蒼の事を考えていた朱美は宿題の事などすっかり忘れていた。
「そうなの!? もう、村上さんもだらしないわね。何してるのよっ」
(いやっ、『何してるのよっ』はこっちのセリフでもあるんだけど!)
宿題同盟……という賢いシステムにも玲奈の無茶苦茶な態度にも戸惑う朱美であったが、その隣では英語が得意な蒼が教科書を開いてバババッ……と素早く宿題の内容を確認していた。
「玲奈、朱美ちゃん、聞いて。宿題の範囲はココからココまでの翻訳! 私は前半の半分やるから、残りの後半を二人で分けてやって! 授業始まるまであと十五分! 十分で自分のノルマ終わらせて、ラスト五分は皆で見せ合おう!」
「分かったわ、蒼」
「うん、やろう! 蒼ちゃん、玲奈ちゃん!」
共通の目標ができるとチームワークが生まれ、個人個人で戦う以上の力を発揮できるのは体育会系運動部員の長所である。その後、三人は朝のホームルーム中も宿題を続け、無事に英語の授業を乗り切る事に成功した。
英語の授業を終え、授業の合間となる。
「次は体育だね。着替えて運動場に行かないとっ」
「うん、行こう」
(ああっ、この時間もまた朱美ちゃんに坂本君の事を聞けない!)
(朝も蒼ちゃんに昨日の事を聞けなかったけど……よりによって今日の午前は教室移動ばっかり! ゆっくり話せるのはお昼だし!)
……キーンコーンカーンコーン。
午前の授業が終了するチャイムが校内に鳴り響く。朱美は母が作った弁当を広げ、朱美の前に着席している蒼は後ろ向きに座り、通学途中にあるパン屋で買ってきた総菜パンを広げる。玲奈はチャイムと同時に購買部へダッシュを開始していた為、今は教室に居ない。
(やっとお昼! 坂本君の事、聞くなら今しかない!!)
(今度こそ! 昨日の事を蒼ちゃんに聞かないと!)
長い葛藤が続いた午前を終えた蒼と朱美は、漸く落ち着いて話ができるランチタイムを迎えた。
「おはよっす」
「おはようございまーす」
朝の教室でクラスメイト達の挨拶が飛び交う。朱美は昨日の颯太と蒼の会話が頭から離れず、もやもやとした朝を迎えていた。
(蒼ちゃんが来たら、昨日の事をちゃんと聞いてみなきゃ……)
しばらくして蒼が登校する。蒼の方も、朱美と颯太が幼馴染であるという事について話を聞きたい為、朱美と同様もやもやとした朝を迎えていた。
(朱美ちゃんに坂本君の事、ちゃんと聞いてみないと!)
朱美と蒼、二人の視線が合い挨拶を交わす。
「おはよう、蒼ちゃん」
「おはよ、朱美ちゃん」
「……」
「……」
挨拶の後に起きる微妙な間。
(ど、どうしよう……昨日の事、蒼ちゃんに聞きたいんだけど、何て切り出したら良いか……)
(朝からいきなり坂本君の事を聞くのって、何か気まずい……)
二人の女子高生が苦笑いで見つめ合う。
「……」
「……」
再び起きる微妙な間。朱美と蒼……二人とも性格は明るく活発な方であるが、いざという時や人付き合いに関しては奥手で慎重な方である。
(ああっ、もう、気まずいよ! ……私、こういう雰囲気苦手!)
本題を切り出せない蒼は、とりあえずどうでもよい会話を始める。
「えっと、朱美ちゃん? ……今日はその、良い天気だね」
(えっ!? 天気の話!?)
朱美は少し驚きながら、ぎこちない返答をする。
「そ、そうだね。春だもんね。ぽかぽかして眠くなりそう。あはは」
「分かる分かるー。もう、春は眠くって大変! 私なんか、昨日の夜はすぐに寝ちゃったよ。八時間位寝ちゃってるかも!」
……蒼の発言は嘘である。
蒼は昨夜、颯太と高校で再会できた事、そして颯太と朱美が幼馴染であった事に興奮で想像が爆発し、深夜まで眠りにつく事ができなかった。枕をギュッと抱きかかえ、歓喜の声を上げながらベッドの中をゴロゴロと激しく左右に動き回った。その激しさのあまり、壁に頭を二回ぶつけたしベッドから落ちそうにもなった。
「そ、そうなんだ……それなら今日の蒼ちゃんは元気もりもりだね。私は何だかあまり眠れなくって。寝たのは一時か二時かも」
「そ、そうなんだ? そういう日も……たまにはあるよね。あはは」
……朱美の発言は事実である。
朱美は興奮で眠れなかった蒼とは対照的に、ベッドで横になりながら両手を後頭部に回し、不思議な感覚で天井を眺めていた。電話での颯太に対する蒼の反応は……所謂「女子の反応」であった。蒼は颯太の事を意識しているのか? 異性として見ているのか? ……と考えていたら眠る事ができなかった。後頭部に回した両手は痺れて感覚がなくなり、血が通い出すまで暫く動かせなくなってしまった程だ。
「……」
「……」
またも二人を襲う微妙な間。
(ああっもう! 朱美ちゃんに坂本君の事を聞きたいのに!)
(ああっもう! 蒼ちゃんに颯太の事を聞きたいのに!)
昨夜の行動は対照的でも、今の感情は蒼も朱美も共通している。二人は再び苦笑いで向かい合い固まってしまった。するとそこに、玲奈がやってきた。
「おはよ、蒼、村上さん」
特殊な呪文で封印を解かれたかの様に、固まっていた二人が息を取り戻す。
「あ、おはよ、玲奈」
「玲奈ちゃん、おはよう」
会話の場を取り持ってくれそうな玲奈の登場に安堵する蒼と朱美であったが、玲奈はここで二人にとって意外な発言をした。
「今日の一限目、英語の宿題……私やってないんだけど、見せてくれない?」
「えっ?」
「あっ!」
「……」
「……」
「……」
今度は微妙な間が三人を襲う。
「ああっ! ごめん玲奈! 私、忘れてた!」
「ええっ!? 何やってるのよ蒼!? 英語が得意な蒼は英語、数学が好きな私は数学の宿題をやってお互いに見せ合う同盟を結んだでしょ!?」
(なっ!? 蒼ちゃんと玲奈ちゃん、そんな同盟結んでたの!?)
「もう仕方ないわね。村上さん、悪いけど見せてもらえないかしら?」
「あっ、ごめんなさい玲奈ちゃん……私も忘れちゃって」
昨日、颯太と蒼の事を考えていた朱美は宿題の事などすっかり忘れていた。
「そうなの!? もう、村上さんもだらしないわね。何してるのよっ」
(いやっ、『何してるのよっ』はこっちのセリフでもあるんだけど!)
宿題同盟……という賢いシステムにも玲奈の無茶苦茶な態度にも戸惑う朱美であったが、その隣では英語が得意な蒼が教科書を開いてバババッ……と素早く宿題の内容を確認していた。
「玲奈、朱美ちゃん、聞いて。宿題の範囲はココからココまでの翻訳! 私は前半の半分やるから、残りの後半を二人で分けてやって! 授業始まるまであと十五分! 十分で自分のノルマ終わらせて、ラスト五分は皆で見せ合おう!」
「分かったわ、蒼」
「うん、やろう! 蒼ちゃん、玲奈ちゃん!」
共通の目標ができるとチームワークが生まれ、個人個人で戦う以上の力を発揮できるのは体育会系運動部員の長所である。その後、三人は朝のホームルーム中も宿題を続け、無事に英語の授業を乗り切る事に成功した。
英語の授業を終え、授業の合間となる。
「次は体育だね。着替えて運動場に行かないとっ」
「うん、行こう」
(ああっ、この時間もまた朱美ちゃんに坂本君の事を聞けない!)
(朝も蒼ちゃんに昨日の事を聞けなかったけど……よりによって今日の午前は教室移動ばっかり! ゆっくり話せるのはお昼だし!)
……キーンコーンカーンコーン。
午前の授業が終了するチャイムが校内に鳴り響く。朱美は母が作った弁当を広げ、朱美の前に着席している蒼は後ろ向きに座り、通学途中にあるパン屋で買ってきた総菜パンを広げる。玲奈はチャイムと同時に購買部へダッシュを開始していた為、今は教室に居ない。
(やっとお昼! 坂本君の事、聞くなら今しかない!!)
(今度こそ! 昨日の事を蒼ちゃんに聞かないと!)
長い葛藤が続いた午前を終えた蒼と朱美は、漸く落ち着いて話ができるランチタイムを迎えた。