夜空に咲く恋

第十三話 失恋製造マシーン

(やっとお昼! 颯太君の事、聞くなら今しかない!!)
(今度こそ! 昨日の事を蒼ちゃんに聞かないと!)

 蒼と朱美、決意を秘めたランチタイムが始まった。

「えっと、あのね、朱美ちゃん……昨日の事なんだけど」

(蒼ちゃんからも来た!? 蒼ちゃんも昨日の事……やっぱり気にしてたんだ!)

「うん……」

 漸く二人の会話が始まった時だった。購買部から戻った玲奈が興奮を露《あらわ》に、ドンッ! っと戦利品を机に置く。

「二人とも見て! ついに買えたわよ! 数量限定『ごろごろ三河ポークのカレーパン』! 購買部までどんなにダッシュしても売り切れで間に合わなかったのに、今日初めてゲットできたわ! 私達の商業高校と地元製パン業者とのコラボ商品! 衣に使われてるのがパン粉じゃなくて荒く砕いたコーンフレークっていう発想が高校生っぽくて良いわよね!」

「へぇ、そうなんだ。うちの商業高校、地元企業といろいろコラボしてるもんね」
「美味しそうだね、玲奈ちゃん。今度私も買えたら買ってみよ」

「ええ、売り切れ必死だから、見かけたときは是非購入をお勧めするわ……ところで、二人は何か話の途中だった? 私が話の腰を折ってしまっていたらごめんなさい」

「あ、うん……そうだった。朱美ちゃん、あのね……」

 蒼が深く深呼吸をして話の本題に入る。

「えっと、あのっ、そのっ! 朱美ちゃんは坂本颯太君とどういう関係なんですかっ!?」
「ええっ!?」

ゲホッ、ゲホッ!!

 予想のはるか上を行く蒼の唐突な発言に、朱美は食事を喉に詰まらせる。

「ゲホッ……ええっ!? 蒼ちゃん!? ど、どういう事!? 私と颯太はそのっ、ただの幼馴染だよ。生まれた時から家が向かいで、高校まで一緒なのは偶然なんだけど……」

「そ、そっか! やっぱりそうなんだね! あ、でも朱美ちゃんと坂本君が幼馴染なのは昨日聞いてるから、いきなりこんな事を聞いたら驚くよね! あ、あははっ!」

「う、うん……」
「じゃ、じゃあさ、その! い、一応確認するんだけど……えっと! 朱美ちゃんと坂本君はお付き合いとかしてる訳じゃないんだよねっ!?」

「ええっ!? ないないっ! そんな訳ない! 私と颯太は全然そんなのじゃないよっ!」

「そ、そう……なんだね。うん、分かった。ありがとう朱美ちゃん。何か……変な事を聞いてごめんね」

(蒼ちゃん……今日は何だかずっと様子が変だったけど、颯太の事、やっぱり気になってたんだ……)

 朱美は蒼をじっと見つめてしまう。一方、興奮する蒼の隣で冷静に限定カレーパンを頬ばっていた玲奈は、朱美に対して気を遣って発言をする。

「こらこら蒼、食事中なんだから落ち着いてよ。せっかくの限定カレーパンが不味くなるじゃない」

(あはは。玲奈ちゃんはいつも冷静だなぁ)

……と、感心する朱美に向けて玲奈から鋭い鉄槌が撃ち込まれた。

「ところで村上さん? あなたも蒼に聞きたい事があるんでしょ?」
「えっ!? 玲奈ちゃん、何で!?」

「そんなの、今日一日あなたを見てたら分かるわよ。ほら、早く蒼に聞いちゃって。私は穏やかな雰囲気で美味しくこの限定カレーパンを食べたいの。こんなお通夜みたいな重苦しい雰囲気の中で食べるのは嫌だわ」

(玲奈……諭し方が独特っ! 玲奈らしいと言えば玲奈らしいんだけど!)

 苦笑いを見せる蒼の横で、玲奈が朱美をチラリと一瞥してから限定カレーパンを口に運ぶ。

……サクッ。

 香ばしく揚げられたコーンフレークの衣を噛む音が朱美を動かす合図となる。

「あのね、蒼ちゃん。私も昨日の電話を隣で聞いていて不思議だったんだけど……」
「えっ?」

「蒼ちゃん、颯太とは中学の時に塾で一緒だっただけなんだよね? でも隣で蒼ちゃんの話を聞いてて、その……何て言うか、変な感じって言うか……蒼ちゃんは颯太の事、何か特別に思ってたりするのかなって……」

(……っ!?)

 朱美の指摘に蒼はハッと驚いて目を見開く。しかしその隣では玲奈は動じず限定カレーパンを食べ続けている。

……サクッ、サクッ。

「ええっ!? 朱美ちゃん!? わ、私っ、そんな変な感じだった!?」
「うん、ちょっと……普通の蒼ちゃんの感じではなかったから」

「蒼、気付いてなかったの? ……でも村上さんの疑問は妥当だわ。丁度良い機会だから話を進めちゃいなさいよ。村上さんにお願いしたい事があるんでしょ?」

 玲奈の言葉で蒼の顔が熱くなる。朱美はその変化を見逃さず、続けて蒼に疑問をぶつける。

「ええっ!? ていうか、な、何でそうなるの!? だって……いや、ごめん。想像で話を進めるのは良くないよね。えっと、まず蒼ちゃん……どうぞ」

 朱美と玲奈から送られる視線が蒼の顔を更に熱くする。

「えっとね、朱美ちゃん。私、その……坂本君の事、ちょっと良いなって思ってて」

(……っ!? やっぱりそうだったんだ!?)

 蒼から打明けられた衝撃の事実に朱美は思わず大声を出してしまう。

「で、でもちょっと待って! 颯太だよ! あの坂本颯太だよ! 特に背が高い訳でもないし、サッカーとか野球とかが得意な訳でもないし、別にカッコイイ訳でもないし……何の変哲もないあの颯太だよ!? ザ・ノーマル代表! みたいな只の颯太だよ!? 蒼ちゃんは背も高くて、美人で可愛くて性格も明るくて凄いモテそうなのに……何で颯太なんかを!?」

「村上さん、ちょっと待って。少し落ち着きましょ」

 玲奈の冷静な一言が上昇する朱美と蒼の熱を下げる。

「あっ、うん、ごめん玲奈ちゃん……私、ちょっとびっくりしちゃって」
「いいのよ、村上さん。じゃあ蒼、続けて」
「うん、ありがと玲奈」

 玲奈が一つ間を取ってくれた事に、蒼は机の下で玲奈の足をスカート越しに軽くさすって感謝を伝えながら話を続ける。

「あのね、朱美ちゃん。私、坂本君の事をまだよく知らないから……今凄く好き! とか、告白する! 付き合いたい! ……っていう訳でもないの」

「あ、うん……そうだよね」
「でも、坂本君の事を気になってるのは本当で……坂本君の事、もっとよく知りたい! って思ってるんだ」

「そっか……颯太の事を良く思ってくれてるのは幼馴染として私も嬉しいんだけど……でも一つ聞いていい? 蒼ちゃんは凄く可愛いし、スタイル良いし、性格も明るくて楽しいし……颯太なんかよりもっとカッコ良かったり魅力のある人と恋愛できるんじゃない? どうして敢えて颯太なの?」

「えっと、それはね……」
「村上さん、それについて蒼本人はちょっと言いにくいと思うから、私が代わりに説明するわ」
「玲奈……」

 ありがとう……の意味を込めて再び蒼が玲奈のスカートを手でさする。

「察しの通り、蒼は男子から凄くモテるのよ」
「ちょっと玲奈っ!」

「良いでしょ蒼? 事実なんだから。中学の頃はそうね……生徒会長の先輩、野球部のキャプテン、サッカー部のエース、バスケ部の後輩……何人に告白されたか私も数えきれないわ。いつの頃からかR中の『失恋製造マシーン』と言われる様になっていた程よ」

「ちょっと玲奈ストーーップ!! 恥ずかしいよぉ!!」

 玲奈から出た遠慮のない暴露に蒼は思わず両手を玲奈の口に当てる。

(ええっ!? 今、何か凄い事をサラリと言ったような気がっ!? 生徒会長にキャプテンにエース!?)

 玲奈は蒼の両手をサッと払いのけて淡々と続けようとしたがここで思い留まり、そのバトンを蒼に戻した。

「事実なのだから仕方ないでしょ? まぁ自分で一番話しづらい所は終わったから……じゃ、後は蒼本人からお願い」
「もう、玲奈ってばぁ」

 蒼、朱美、玲奈。女子高生三人のランチタイムで恋の話が続く……。
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