夜空に咲く恋

二十八話 中間考査を終えて

 ゴールデンウィークから数日が経過して五月末となった。朱美達にとって初めての試験となる中間考査を終え、生徒達は学習の重圧から解放される。そしてその数日後に答案が返却されたのだが、颯太、蒼、玲奈、朱美の結果報告とリアクションは次の通りだ。

 まずは颯太。得意な理科・数学科目は八十点から九十点。その他の科目はほぼ平均点。補講と追試の対象となる赤点とは無縁の好成績だ。

「まあ、大体狙い通りの結果かな。苦手な英語が平均点くらいだったのはラッキーだったけど」
「颯太、結構良い点だったね。羨ましいなぁ」

 次に蒼。得意な英語は九十点を超えた。その他はほぼ平均点。蒼も無難に中間考査を乗り切った。

「初めてのテスト、ドキドキだったけど勉強した分だけはちゃんと点になって良かったよ」
「蒼ちゃん、英語の得点凄いね! 英語できる女子って何だかカッコイイ!」

「パパが昔から『英語だけはしっかり勉強しなさい!』ってうるさいから。朱美ちゃんはどうだった?」
「えっと、私は……あはは」

 朱美は蒼の質問を笑ってごまかす。続いて玲奈。全ての科目で八十点から九十点。四人の中で一番優秀な成績だ。

「学校のテストなんて勉強っていうより、問題の予想と読みが大切なのよ。授業中の先生の様子をしっかりチェックしてれば、どこが問題に出るかなんて察しがつくでしょ?」
「玲奈ちゃん、凄い……」

 得点の取り方が策士な玲奈である。最後に朱美。国語と社会、理科の科目はほぼ平均点だったが、苦手な英語と数学の科目で幾つか赤点となってしまった。

「みんな酷いよ! 仲間だと思ってたのに! 何で私一人だけ赤点ばっかりなのーっ!?」
「朱美、はっきり言うぞ。それはお前が勉強しないからだ」

「えっと、朱美ちゃん? 普通に勉強してればそんなに難しくなかったと思うけど……」
「村上さん? あなたの為に敢えてはっきりと言わせてもらうわ。努力不足よ」

 朱美達が通う私立岡崎中央商業高校は進学校ではない。卒業後は就職希望の生徒が半数近く集まるこの学校では、定期的な考査の難易度はそれなりに配慮されており、しっかりと勉強をしていれば赤点を取る事はないレベルで試験問題が作成されている。しかし、今回の中間考査では朱美は惨敗の結果に終わってしまった。

「ううっ……皆、何で正しい事を言うの? 慰めてよ! 優しくしてよー!」
「朱美、それは逆ギレだぞ」

「まあまあ朱美ちゃん。これから二週間、授業後の補講と追試、頑張ってね」

「村上さん、学生の本業は勉強よ。進む道を見誤ってはいけないわ。じゃ、私と蒼は部活行くから」
「あ、俺も部活。じゃあな、朱美」

 いつもより心なしか大きく見える三人の背中が朱美を残して去ってゆく。

「あーん! 皆酷いよーっ! 裏切り者―っ! 私を置いていかないでー!! 私も部活やりたいー!! ……もう! 七月の期末考査は絶対頑張ってやる! 次は赤点なんて取らないからーっ!!」

 それから数日が経過し、中間考査の後に行われた補講と追試の期間を終えて六月中旬となる。朱美は補講と追試を乗り切りホッとしたのも束の間、学校は一学期最大のイベントである球技大会を目前にしていた。

 この学校の球技大会では各クラスから選出されたメンバーが種目毎に学年の垣根を越えて競う。また、種目によっては教師チームも参加する。

 例えば、普段は大人しい印象で淡々と古文の授業を行う熟年教師が卓球で現役の生徒を圧倒したり……と、意外な大活躍をする場面があれば大きな盛り上がりを見せる事になり、毎年、生徒も教師も楽しみにしているイベントである。

 今年の種目は、男子はサッカーと卓球、女子はバスケのスリーオンスリー、バレーボール、卓球で、生徒全員が一度は競技に参加する事が全体のルールである。

 朱美、蒼、玲奈は一年C組の名物女子バスケ部三人組である。本人達の希望も他のクラスメイトからの推薦も満場一致でバスケのスリーオンスリーのチームとして選出された。全クラス対抗の球技大会において部活経験者のみでチームが編成されるという状況に、周囲のクラスメイト達は期待で大いに盛り上がる。

「三人とも頑張ってね! てゆうか、経験者で三人揃ったらバスケ優勝できるんじゃない!?」
「三浦さん! 頑張ってね! 俺達、男子全員で応援するから!!」

「一年チームがスリーオンスリーで先輩達をなぎ倒して優勝! 明後日の構内SNSはこの話題で持ち切りだね!!」

 高まるクラスメイトの期待に、朱美は気圧されてしまう。

「いやっ、皆、落ち着いて! 先輩とかバスケ上手い人沢山いるから! バスケ部じゃなくても運動神経良い人も沢山いるからっ! 優勝確定―! みたいなノリやめてっ!」

(ああっ……蒼ちゃんと玲奈ちゃんと三人で試合できるのは嬉しいけど……何だか大変な事になっちゃってるっ!?)

 しかし、クラスの中心人物でもありムードメーカーでもある蒼は皆と一緒に盛り上がる。

「皆、ありがとーっ! 私達、優勝目指して頑張るからねっ! 応援よろしく!」
「おおぉぉっーー!!」

 蒼の可愛い笑顔と元気な声、嫌みの無い性格にクラス全員の心が撃ち抜かれる。

(蒼ちゃん! そんな事を言って大丈夫!? 盛り上げ上手なのは羨ましいけどっ!!)

 また、玲奈もこういう時は悪ノリを見せる。蒼の親友を長く続けてきたその内面性は伊達ではない。玲奈は蒼の様に大声を上げたりはしないが、左手の人差し指で眼鏡の位置を整えながら、右手は真っすぐに伸ばしてVサインを作り不適な笑みを浮かべる。

「ふっ。私達、皆に見られて恥ずかしい試合なんてするつもないから」
「おおっ! 森田さんがやる気になってる!?」

「森田さん、優勝宣言!? 何かカッコイイ!! 頑張ってね! 私達、応援してるよっ!」

(ええっ!? 玲奈ちゃんまで変なノリに乗っかってる!? ああっ! 私、どうなっても知らないからねーっ!!)

 キョドる朱美、ムードメーカーの蒼、静かに凄む玲奈……一年C組の名物女子バスケ部三人組は、良くも悪くも個性が絶妙なバランスだ。

 一方、一年F組の颯太はサッカーチームの予備要員だ。クラス全員が参加する球技大会では当然の事ながら運動が苦手な生徒も参加する。この様な状況では、運動が得意な生徒が集められた期待されるチームと、運動が苦手な生徒が残って寄せ集められた期待されないチームができてしまう。

 颯太のクラスの男子はスポーツの主戦力を卓球チームに集めた為、運動が苦手な颯太が入ったサッカーチームは後者の位置づけである。

 ただ、運動が苦手な者にとっては周囲にも運動が苦手な者が集まれば、自分のせいだけでチームが負ける事はない……という安心感も生まれる。また、颯太に限って言えば、一回戦で負ければすぐに映像写真部員として球技大会の撮影に回る事ができる……と言うのも利点である。

(まぁ、俺は運動苦手だし。消去法で集まったこのサッカーチームはきっと一回戦負けが濃厚だよな。試合が終わったら皆の応援と部活の撮影に行かせてもらおう……)

 各クラスでチーム編成も決まり、それぞれの立場と想いを胸に……球技大会が始まる。
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