夜空に咲く恋

第三十話 女子バスケ部三人組

 朱美、蒼、玲奈の三人は球技大会でバスケットボールのスリーオンスリーに参加している。

(三人制バスケにはスリーバイスリーという競技名で国際ルールが設けられているが、今回の球技大会では通常の五人制バスケに近いルールの方が初心者でも馴染みやすい……という配慮から通常のシュートはニポイント、スリーポイントラインの外から打つシュートは三ポイント。攻撃を開始したチームは二十四秒以内にシュートを打たなければ攻守交替……というルールで試合が行われている)

 生徒全員が参加する球技大会においてバスケ経験者三人のみで編成されたチームは強い。それに加え、三人が得意とするポジションは、朱美はガード、蒼は長身を活かしたセンター、玲奈はスリーポイントを狙えるガードでありポジションバランスとその連携も良い。

 三人は一回戦では余裕をもって勝利、二回戦は接戦ではあったが勝利を掴みベストエイトになるまで勝ち残った。三人の活躍にクラスメイト達は盛り上がる。また、朱美達当人も友人同士の三人で順調に勝ち進んでいるという結果に興奮を覚える。

「凄いね三人とも! 次は準々決勝だよ! このまま優勝目指して頑張ってね!」
「うん、できるところまで頑張るよ!」

(私と蒼ちゃん、玲奈ちゃん……本当に戦いやすいな。二人とも私が思う所にちゃんと居てくれる。もっともっとこの三人でバスケ楽しみたい! 次も頑張ろっ!!)

 ここで、一回戦で敗退し映像写真部の撮影要員として活動をする颯太が体育館にやってきた。腕には映像写真部の腕章をつけている。颯太が朱美達に声をかける。

「朱美、三浦さん、森田さんー! 頑張れーっ!! 俺、応援しながらしっかり撮ってるからーっ!」

(あっ!? 颯太君!?)

 颯太の登場に蒼のテンションが上がる。

「坂本君、ありがとう! 坂本君も撮影頑張ってねー!」

 笑顔で手を振る蒼の横で、朱美と玲奈は蒼の背中を手でさすりながら小声で軽くイジる。

「蒼ちゃん、良かったね。颯太が来てくれて」
「蒼? これはもう、沢山活躍するしかないわよ?」
「二人ともっ! わ、私は別にそんな……いつも通りだよっ」

 試合の準備が進み三回戦の準々決勝を迎える。対戦相手はバスケ部の部長、松井凛が率いる三年A組チームだ。松井部長のチームメイトはバレーボール部でアタッカーを務める長身の二枚看板、平野咲紀(さき)と藤田雪乃(ゆきの)である。

 長身の松井部長と、さらにその上をいく長身二人が揃う。平均的な身長の朱美と、小柄な玲奈にとっては大きな身長差が不利になる戦いが見込まれる。朱美達は相手チームの体格を見て作戦を相談する。

「次の相手は松井部長だね。ていうかあの二人、身長高っ!」

「蒼と松井部長は同じ位の身長だけど、私と村上さんはあのバレー部二人には高さで全く適わないわね」

「しかもあの二人、バレー部のレギュラーだよね。運動量も相当ありそう。朱美ちゃん、どうする?」

「私はガードメインで、玲奈ちゃんはスリーポイント狙いのガード、蒼ちゃんがセンターなのは今までと一緒だけど、高さで負ける分、やっぱり玲奈ちゃんが外からスリーポイント狙うのが良いんじゃない?」

「私も賛成。スリーポイントも打つし、フェイントできたら中に切り込むわ。一人抜ければ数の優位でゴール下でも連携で得点狙えると思うし」

「そうだね。私もリバウンド頑張るよ。玲奈、スリーポイントどんどん打って! 中に来たらフォローもする」

「分かったわ」
「おっけ。じゃ、今度も頑張ろう!」

……パンッ!

 三人が互いに手を重ねる。一方、松井部長のチームも朱美達を見て作戦の相談をしていた。

「平野、藤田、良い? 今度の相手は一年だけど三人ともバスケ部よ。油断できない相手だわ。で、一番大きな子のポジションはセンター。ゴール下がメインになるから、平野、あなたがマークして」

「分かったわ、一番大きな子ね。でもセンターってどんなだっけ? ねえ松井? 漫画の『スラム〇ンク』で言うと誰のポジション?」

「『スラム〇ンク』って……あんたバレー部でしょ? 何読んでるのよ? ……まあ良いわ。『湘北の赤木』よ」

「成程ね、理解したわ。ああっ、何か私……『湘北の赤木』って聞いたらテンション上がってきちゃった。ねえ松井? あの子に向かって『さあ来い赤木―! 最後の決着をつけてやるっ!!』って叫んで良い?」

「ごめん、恥ずかしいからやめて。あんたは『綾南の魚住』じゃないから。えっと……説明を続けるわよ。藤田はあの眼鏡の小さい子をマークして。彼女はシューティングガード。フリーにさせない様に気を付けて。スリーポイント打ってきたら藤田の高さでブロックをお願い」

「私は眼鏡の小さい子ね、分かったわ。でも、シューティングガードか……えっと『黒〇のバスケ』だと誰になる?」

「『黒〇のバスケ』って……何であんたもバスケ漫画なのよ? ……まぁ良いわ。『誠凛の日向部長』よ」

「オッケー、了解! でも、『誠凛の日向部長』って聞いたら私……何だか身体が熱くなってきちゃった。松井? あの子に向かって『なめんな! やってやらあ! 出来なきゃ全裸で告るでもなんでもやってやるよ!!』って叫んでも良い?」

「ごめん、あんたそれ、公然わいせつで逮捕されるからやめて。ていうか! あんた達どんだけバスケ漫画に詳しいのよっ!?」

 松井部長の問いに、バレー部二人、平野と藤田の声が揃う。

「部室に全巻『スラム〇ンク』揃ってるから!」
「部室に全巻『黒〇のバスケ』揃ってるから!」

(……なっ!?)

「あんた達バレー部でしょ!? 部室に何置いてるのよっ!? せめて『ハ〇キュー!!』置きなさいよ!!」

 松井部長のツッコミにバレー部二人、平野と藤田の声が再び揃う。

「もちろん置いてあるわよ!」
「全巻カバー付きでねっ!!」

……ピピーッ!

 審判役が試合開始を告げる笛を鳴らし、三年生の松井部長、平野、藤田、一年生の朱美、蒼、玲奈が整列して礼をする。

「松井部長、よろしくお願いします!」

「一年のバスケ部三人チームが勝ち上がってくれるなんて嬉しいわ。でも、勝負は手加減しないわよ。さあ、かかってきなさい!」

 朱美、蒼、玲奈のスリーオンスリー、準々決勝が始まった。
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