夜空に咲く恋
第三十一話~第四十話

第三十一話 準々決勝

 朱美、蒼、玲奈が参加する球技大会スリーオンスリー、準々決勝が始まった。対戦相手はバスケ部の松井部長率いる三年生チームだ。先攻で朱美がボールを持つ。

(まずは作戦通りに! 玲奈ちゃんのスリーポイントでっ!)

「玲奈ちゃん!」

……ダンッ!

 スリーポイントラインの外にいた玲奈へバウンドパスを送り、キャッチした玲奈が自分をマークする長身のバレー部員、藤田との距離を確認する。

(このマーク距離なら打てる! いくわよっ!)

 玲奈は素早いモーションでスリーポイントを放った……が、次の瞬間!

「甘ーーいっ!!」

……バーーーンッ!!!

 玲奈が放ったスリーポイントシュートを藤田がバレーボールのアタックさながらの激しいブロックで叩き落とし、ボールは玲奈の足元をかすめて高く弾んでゆく。

「きゃぁっ! ……何て高さなのっ!? 最高到達点までの時間も速い!? こんなの……バスケの動きじゃない!?」

 玲奈はシュートを打つ前に相手との距離を確認して、この距離であればシュートはブロックされないと判断した。しかし、バスケの常識を超えたバレー部員の動きと高さに玲奈は呆然としてしまう。そして、激しいブロックを決めた藤田が玲奈に真っすぐ指をさして言う。

「そこの小さい一年! そんなシュートでバレー部員の上を抜こうなんて十年早いわよ!!」
「くっ……やりますね、先輩。今のは正直驚きました」

 玲奈は悔しがりながらも、自分自身を落ち着かせる為に人差し指で眼鏡の位置を修正する。一方、こぼれ球となったボールは松井部長がキャッチし、攻守交代となる。ボールを持つ攻撃の松井と守備の朱美が向かい合う。

「村上さん、勝負で相手の弱点を突くのは常套手段よ」
「はい、分かってます!」

 松井部長は朱美よりも身長が高い。身長差を少しでも埋めるべく朱美もハンズアップ(手を上げて)ディフェンスをするが、ジャンプをした松井部長からゴール下の藤田へ繋がるパスは簡単に朱美の上を抜けてしまう。

「藤田!」
「あっ!?」
「ナイス松井!」

……シュパッ!

 藤田の前でディフェンスをする玲奈もやはり身長差で不利となり、藤田のシュートがネットを揺らす。試合開始後のワンプレーは朱美達がオフェンス失敗、その後に三年生チームが得点を決めた。想定内ではあったが、やはり身長差が不利に働いた結果に朱美達は声を掛け合う。

「ドンマイ! 玲奈ちゃん、蒼ちゃん! 次、ちゃんと決めて行こっ!」

「うん! 玲奈、バレー部のブロック、あれは要注意だよっ!」

「わかってるわ蒼。あの高さと速さ、気を付けるわ」

 朱美のボールから試合再開。朱美はボールを突きながら周囲を確認する。

(蒼ちゃんはゴール近くで待ってくれてる。玲奈ちゃんはやや外気味の位置。私が松井部長をドリブルで抜ければ話は簡単だけど……ちょっと試してみるか)

……ダンッ、ダンッ!!

 朱美は一度、得意のドリブルとフェイントで松井部長を抜きにかかるが、松井部長は余裕の表情で朱美についてくる。

「村上さん? ナメてもらっては困るわ。そんなドリブルで私は抜けないわよ!」

(やっぱり、部長に勝負するのはリスクが大きい!? まずは玲奈ちゃんにパスが良さそう)

……ダンッ! パシッ!

 朱美から玲奈へパスが通る。スリーポイントラインの外でボールを受け取った蒼は、フーっと息を整える。膝を曲げ、ボールを頭の上に持ち上げて先程と同様、スリーポイントシュートのモーションに入った。一方、玲奈の動きを見たゴール下の蒼は数歩動いて蒼をマークする平野から少し離れる。

「だから、甘いって言ってるのよ!!」
「あっ、ダメ! 藤田!!」

 玲奈のシュートを再度ブロックしようと叫びながらジャンプする藤田と松井部長の声がコートに飛ぶ。

「ふっ」
「えっ!?」

 高く飛び上がる藤田の眼下で、玲奈はボールを持ったまま止まっている。玲奈のフェイントだ。玲奈は飛び上がった藤田の横をドリブルで抜けてゴールに向かう。そして、ゴール下で蒼のマークについていた平野はゴールに向かってくる玲奈に寄っていきディフェンスを行おうとする……が、次の瞬間。

……ダンッ!

「あっ!!」

 玲奈から放たれるバウンドパスは平野の横を弾み、フリーとなった蒼にパスが通る。

……シュパッ!

 蒼のシュートがネットを揺らす。

「ナイスシュート、蒼!」
「ナイスパス、玲奈!」
「二人ともナイスだよっ!」

 二人のハイタッチがパンッと音を鳴らし、朱美も二人の見事な連携を称賛する。

(凄い! 玲奈ちゃんと蒼ちゃん! 本当に息ぴったり! 玲奈ちゃんがシュートモーションに入った時から、蒼ちゃんはフェイントだって分かって動いてた!)

 一方、見事にフェイントで騙されてしまった藤田とゴールを許してしまった平野に松井部長が声を掛ける。

「藤田、やられたわね。でも今のは基本に忠実でお手本みたいなフェイントよ」
「うん、見事に騙されたわ。あの小さい一年、やってくれるじゃない!」

「その元気があれば大丈夫ね。あなたの高さと速さなら相手がシュートを打ってから飛んでも大丈夫な位だから、落ち着いて相手をよく見て動いて。そこはバレーも同じでしょ」

「そうね。バレーも同じって聞くとちょっと分かってきた。次はやられないわ」
「よし、気を取り直してオフェンスいくわよ」
「ええ、了解! ありがと、松井!」

「平野も今のは仕方ないわ。ゴール下でバスケ部にニ対一攻められたら誰も防げないから。逆にもしあの状況で決めてなかったら、私が一年二人を説教してるわ」

「うん、ありがと松井。私は落ち込んでないよ、大丈夫。むしろ、三年をフェイントで堂々と騙してくるあの一年を称賛したいわ」

「そうね、私もバスケ部の未来が楽しみだわ。じゃ、オフェンス! 次も取るよ、平野!」
「ええ、やろう松井!」

 試合慣れしている運動部員は自身の経験から声かけの重要性を知っている。気持ちの切り替えも上手い。藤田、平野は落ち込む事なく、松井部長のボールで試合が再開した。
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