夜空に咲く恋

第三十四話 相手を想う気持ち

 颯太は手に持っていた大きな紙袋から三枚のコルクボードを取り出し、朱美、蒼、玲奈に渡した。

「はい、これ皆にプレゼント。どうぞっ」

 三人が渡されたA四サイズより少し大きめのコルクボードには、球技大会で朱美、蒼、玲奈がそれぞれ活躍した瞬間を収めた数枚の写真と、試合後に皆で撮った写真がピンで止められ、その周囲には手作りの飾りがあしらわれている。映像写真部の颯太による手作りのコルクボードフォトアルバムだ。颯太は三人にコルクボードを渡しながら説明を付け加える。

「三人の思い出の試合を撮らせてもらえたから、写真にしてボードにまとめてみたんだ。朱美はドリブルで部長を抜いた時、森田さんはスリーポイント打った時、三浦さんはシュート決めた時とかの写真と、試合後の三人の写真を貼ってみた。飾りは……俺、男だからちょっと可愛さに欠けるかもしれないけど」

 颯太から思いがけないプレゼントを受け取った三人はテンションが上がる。

「わあ! ありがとう、颯太!! 三人の思い出をこんな風に手作りでまとめてくれるなんて! うんうん、これは良き品じゃ! 褒めてつかわすぞよ、颯太殿!」
「ぷっ、何だよそれ。どっかの姫様か!」

「でも、颯太ってこういう所が本当にマメだよね。生真面目っていうか何て言うかさ」

「まあな。球技大会の後、百均ショップでコルクボードと光沢紙を買って来て作ったんだ。コルクボードなら写真を入替えて三人の思い出を更新して飾っていけるし。三人はずっと仲良くして思い出の写真も増えそうだから、これなら喜んで貰えるかな? と思ってさ」

「手作りの飾りでアルバムとか……坂本君ってこんな女の子みたいな事もするのね。でも嬉しいわ。ありがとう坂本君!」

「どういたしまして、森田さん。まあ、こういう事をするのは親の影響もあるかもだけどね」

「え? 坂本君、どういう事?」

 颯太の意外な言葉に玲奈が首をかしげる。

「えっと森田さん? 俺の親が税理士の仕事をしているのは前に話したよね?」
「ええ、聞いたわ」

「俺、親から仕事の話を時々聞くんだけどさ。税理士の仕事って、ただ書類をまとめて帳簿の管理をするだけじゃなくて、契約してくれてるお客さんの要望に応える為に色んな仕事をするらしいんだ。俺の親が特別なのかもしれないけど、お客さんの職場に行って現地を確認しながら相談受けたりアドバイスしたり。お客さんが新しい仕事始める時とかも財務の面から他の事まで色々協力する時もあるみたいで」

「そうなのね。税理士さんの仕事ってイメージ湧かないけど大変そうね」

「うん、それで親から良く聞くんだよ。お客さんからお金を頂くって事は契約してる帳簿の仕事だけしてれば良いって訳じゃなくて、どれだけお客さんの立場になって親身に対応できるか? どうしたらお客さんが喜んでくれるか? お客さんの事をどれだけ想ってあげられるか? ……を考える事が大切なんだって」

「颯太のお父さん、いつも忙しそうにしてるもんね。週二日しっかり家でゴロゴロしてる私のお父さんとは大違いだよ」

「まあまあ、朱美のお父さんもちゃんと働いてる訳だから。で、話を戻すけど、こういうプレゼントを思いつくのはきっと親の影響だと思う。今みたいな話をよく聞いてるから、結局俺も『相手の為に何ができるか?』って考える性格になっちゃってるんだよ。あと、持ち帰り用の紙袋も三人分あるから渡しておくね。はい、どうぞ」

「とっても素敵な話ね。しかも、持ち帰り用に紙袋まで用意してくれてるなんて流石ね。私、今の話を聞いて坂本君の株が上がったわ」

「どういたしまして。でも、そんなに褒められるとちょっと照れるけどっ」

 颯太は直球で褒めてくれた玲奈から照れで視線を外す。すると先ほどから蒼がずっと黙っている事に気付いた。

「あれ、三浦さん? どうかした? プレゼント……もしかして好みに合わなかった?」
「……」

(颯太君! こんなプレゼント嬉しすぎだよっ!! 颯太君が撮ってくれた写真! しかも朱美ちゃんと玲奈と頑張った時の大切な思い出を手作りでまとめてくれるなんて! ああっ、颯太君! ありがとう!! それに颯太君のお父さんの話も素敵! 颯太君って本当に真面目で優しくて……相手の事を気遣う事ができる人なんだねっ! ああっ、颯太君! 颯太君って良い! 凄く良いっ! ……私、やっぱり颯太君の事が好き!!)

 黙り込む蒼の心は喜びで舞い上がっている。また、父親の話から始まった颯太の相手を思いやる性格についても感動しており、周囲の声が聞こえない程の興奮で胸が高鳴っている。しかし、先ほどから黙り込んでいる蒼に返事を貰えない颯太は不安を覚える。一方、玲奈は黙り込む蒼の心境を察しているが、放置できない状況なので軽くフォローを入れる。

「あの、三浦さん? 大丈夫? 何かまずい事でもあった?」
「ちょっと蒼? せっかく坂本君が手作りのプレゼントをくれたのだから、黙ってないでお礼を言ったら?」

(あっ! そうだ、私っ!! プレゼントが嬉しすぎて黙っちゃってた!? 颯太君にお礼を言わないとっ!)

 玲奈のひと言で我に返った蒼は慌てて颯太に礼を言おうとした……が、ここで大事件が起きた。
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