夜空に咲く恋
第四十七話 運に身を任せる
蒼の運命を決めるジャンケンが始まった。蒼、朱美、玲奈の女子三人が狙うのは颯太と蒼の二人がジャンケンに負け、留守番班として颯太と蒼を二人きりにする……という結果だ。五人の中から希望の二人が選ばれる確率は僅か十パーセント。分の悪い勝負に蒼達は運だけで挑む。
「ジャンケンポンッ!!」
(あっ!)
(えっ?)
(あああっっーー!!)
ジャンケンは一回で勝負を決した。結果は……蒼、朱美、川口颯太の三人がパーで勝ち買い出し班、颯太と玲奈の二人がグーで負けて留守番班となった。確率十パーセントの壁は高かった。意に反した結果に女子三人はがっくりと肩を落とし、朱美と玲奈は申し訳なさそうに蒼を見る。
(蒼……ごめんなさい。私が坂本君と二人で残ってしまうなんて……)
(蒼ちゃん……ごめん。私がチョキを出してればまだチャンスがあったのに……)
「えっと、三浦さん、村上さん……行きますか?」
「そうだね、川口君……よろしく」
三人が颯太と玲奈を残して去ってゆく。夏の花火大会で浴衣を着る女子高生というものは、謳歌する青春でキラキラと眩しく輝いて見えるものだが、今だけは可愛い蒼の後ろ姿も輝きと生気を失った廃人に見えてしまう。
一方、留守番をする颯太は持参した駄菓子を広げる玲奈と雑談を始める。
「森田さんって駄菓子好きだよね」
「ええ、祖母が駄菓子屋をやっていて家に駄菓子が沢山あるから。いつの間にか食べるのが癖になってしまったわ」
「それは羨ましいなあ」
「坂本君も好きな駄菓子食べていいわよ」
「うん、ありがとう」
颯太は駄菓子を一つ手に取り、口に運びながら雑談を続ける。
「ところで森田さんは毎年花火大会を見に来てるの?」
「ええ、私も生まれた時から岡崎市民だから。子供の頃は毎年親と観に来ていたし、中学になってからは友達……蒼達と一緒に観に来てるわ」
「岡崎市民の夏と言えば花火大会だもんね。俺も子供の頃からずっと見に来てるよ。小さい頃は朱美の家族と一緒に観てたなあ」
「村上さんと坂本君は生まれた時からずっと一緒だものね。でも……そこまでずっと一緒に過ごしてきた幼馴染っていうのも何だか不思議な関係よね」
「うん、友達とか同級生っていうより、何だかもう家族みたいな感じだよ」
雑談をしていると時刻は夜七時を回った。花火大会の開始を告げる大きな赤い打ち上げ花火が夜空に大輪を咲かせる。
……ドーンッ!!
「あっ、始まった!」
「ええ、奇麗ね」
最初に打ち上げられた赤い大きな花火を颯太は真剣な眼差しで見つめる。玲奈は颯太が花火を好きな事は知っているが、ただ花火が好きなだけ……とは思えないその真剣な眼差しに疑問を感じる。
「坂本君、どうかした? 何だか凄く真剣に見ていたけど……」
玲奈の質問に颯太は少し間を置くと、ポリポリ……と頭を掻いて照れながら答える。
「ごめんね。あの……ちょっと照れくさい話になるけど……」
「あら、何かしら?」
ただの雑談ではなく深い話が始まりそうな雰囲気に、玲奈は人差し指で眼鏡の位置を整えながら真剣に耳を傾ける。
「俺さ、小さい頃から朱美と一緒に花火を見に来ていたんだけど……」
「ええ、ずっと家族ぐるみの付き合いをしてる幼馴染だものね」
「うん。それでね……七歳の時、朱美と一つ約束をしたんだ」
「約束?」
ここで颯太は、七歳の時に朱美と交わした約束を回想しながら話す。
――朱美と颯太、七歳の花火大会にて――
「花火、奇麗だね、朱美ちゃん!」
「うん、颯太君!」
「花火って沢山の色があるよね。朱美ちゃんは何色が好き?」
「私は赤! 朱美の名前と同じ赤色が好き!」
「朱美ちゃんの名前って赤い色の事だよね。花火と一緒だ」
「うん! 可愛くて奇麗な赤色!! ねぇ颯太君? 大きくなったら、私の為に大っきな花火を打ち上げてよっ」
「ええっ、無理だよ。花火なんてどうやって打ち上げるの分からないし」
「良いじゃん、大人になってからで良いから! ねっ? 赤い大きな花火! 私の為にドーン! って打ちあげてよ!」
「じゃあ大人になってからね。うん、良いよー! 約束!」
「やったー! ありがとう、颯太君! 約束ねっ!」
この日に交わした約束と朱美が見せた笑顔は、颯太にとって忘れられない思い出となっている。
――現在の話に戻る――
「とまあ、こんな約束を朱美としちゃってさ」
「凄く素敵な話ね。七歳の約束か……」
こうして颯太は玲奈との何気ない雑談から、七歳の時に朱美と交わした忘れられない思い出の約束について話をした。
「ジャンケンポンッ!!」
(あっ!)
(えっ?)
(あああっっーー!!)
ジャンケンは一回で勝負を決した。結果は……蒼、朱美、川口颯太の三人がパーで勝ち買い出し班、颯太と玲奈の二人がグーで負けて留守番班となった。確率十パーセントの壁は高かった。意に反した結果に女子三人はがっくりと肩を落とし、朱美と玲奈は申し訳なさそうに蒼を見る。
(蒼……ごめんなさい。私が坂本君と二人で残ってしまうなんて……)
(蒼ちゃん……ごめん。私がチョキを出してればまだチャンスがあったのに……)
「えっと、三浦さん、村上さん……行きますか?」
「そうだね、川口君……よろしく」
三人が颯太と玲奈を残して去ってゆく。夏の花火大会で浴衣を着る女子高生というものは、謳歌する青春でキラキラと眩しく輝いて見えるものだが、今だけは可愛い蒼の後ろ姿も輝きと生気を失った廃人に見えてしまう。
一方、留守番をする颯太は持参した駄菓子を広げる玲奈と雑談を始める。
「森田さんって駄菓子好きだよね」
「ええ、祖母が駄菓子屋をやっていて家に駄菓子が沢山あるから。いつの間にか食べるのが癖になってしまったわ」
「それは羨ましいなあ」
「坂本君も好きな駄菓子食べていいわよ」
「うん、ありがとう」
颯太は駄菓子を一つ手に取り、口に運びながら雑談を続ける。
「ところで森田さんは毎年花火大会を見に来てるの?」
「ええ、私も生まれた時から岡崎市民だから。子供の頃は毎年親と観に来ていたし、中学になってからは友達……蒼達と一緒に観に来てるわ」
「岡崎市民の夏と言えば花火大会だもんね。俺も子供の頃からずっと見に来てるよ。小さい頃は朱美の家族と一緒に観てたなあ」
「村上さんと坂本君は生まれた時からずっと一緒だものね。でも……そこまでずっと一緒に過ごしてきた幼馴染っていうのも何だか不思議な関係よね」
「うん、友達とか同級生っていうより、何だかもう家族みたいな感じだよ」
雑談をしていると時刻は夜七時を回った。花火大会の開始を告げる大きな赤い打ち上げ花火が夜空に大輪を咲かせる。
……ドーンッ!!
「あっ、始まった!」
「ええ、奇麗ね」
最初に打ち上げられた赤い大きな花火を颯太は真剣な眼差しで見つめる。玲奈は颯太が花火を好きな事は知っているが、ただ花火が好きなだけ……とは思えないその真剣な眼差しに疑問を感じる。
「坂本君、どうかした? 何だか凄く真剣に見ていたけど……」
玲奈の質問に颯太は少し間を置くと、ポリポリ……と頭を掻いて照れながら答える。
「ごめんね。あの……ちょっと照れくさい話になるけど……」
「あら、何かしら?」
ただの雑談ではなく深い話が始まりそうな雰囲気に、玲奈は人差し指で眼鏡の位置を整えながら真剣に耳を傾ける。
「俺さ、小さい頃から朱美と一緒に花火を見に来ていたんだけど……」
「ええ、ずっと家族ぐるみの付き合いをしてる幼馴染だものね」
「うん。それでね……七歳の時、朱美と一つ約束をしたんだ」
「約束?」
ここで颯太は、七歳の時に朱美と交わした約束を回想しながら話す。
――朱美と颯太、七歳の花火大会にて――
「花火、奇麗だね、朱美ちゃん!」
「うん、颯太君!」
「花火って沢山の色があるよね。朱美ちゃんは何色が好き?」
「私は赤! 朱美の名前と同じ赤色が好き!」
「朱美ちゃんの名前って赤い色の事だよね。花火と一緒だ」
「うん! 可愛くて奇麗な赤色!! ねぇ颯太君? 大きくなったら、私の為に大っきな花火を打ち上げてよっ」
「ええっ、無理だよ。花火なんてどうやって打ち上げるの分からないし」
「良いじゃん、大人になってからで良いから! ねっ? 赤い大きな花火! 私の為にドーン! って打ちあげてよ!」
「じゃあ大人になってからね。うん、良いよー! 約束!」
「やったー! ありがとう、颯太君! 約束ねっ!」
この日に交わした約束と朱美が見せた笑顔は、颯太にとって忘れられない思い出となっている。
――現在の話に戻る――
「とまあ、こんな約束を朱美としちゃってさ」
「凄く素敵な話ね。七歳の約束か……」
こうして颯太は玲奈との何気ない雑談から、七歳の時に朱美と交わした忘れられない思い出の約束について話をした。