夜空に咲く恋

第五十話 夢

「颯太? もう一つの嬉しいニュースって一体何があったの?」

「うん、それだよ! 凄いんだよ! 聞いて驚いてよ。なんとっ!! 花火製作所の見学と取材をできる事になったんだよ!! 九月二週目の木曜日で授業終わってから! 地域社会部と映像写真部の合同取材!」

 颯太が嬉しそうに報告する。朱美、蒼、玲奈は颯太が花火を好きな事を知っており、テンションを上げて嬉しそうに報告する颯太の態度に納得しながらその喜びを分かち合う。

「わお! やったじゃん颯太! 良かったね!」
「良かったね颯太君! 大好きな花火の製造現場を見られるなんて貴重な体験だね!」
「おめでとう坂本君」

「皆、ありがとう! 俺、本当に嬉しいよ。花火製造している所を実際に見る事は夢の一つだったからもう本当に嬉しくて! ……で、取材前に花火に関する知識をしっかり増やして準備しておこうと思って、図書館で花火に関する本を借りてきちゃった」

 颯太は鞄の中に入っている花火に関する数冊の書籍を皆に見せる。

「そういう事前の準備をちゃんとする所、颯太は真面目だよね」
「うんうん。でも颯太君? 取材の当日はどうやって行くの? バスとか?」

「うん、地域社会部の顧問と映像写真部の顧問の先生が車を出してくれて、学校から花火製作所まで車で移動。因みに、取材する花火製作所は学校の文化祭フィナーレで打ち上げ花火を上げてくれる業者さんだよ。運が良ければ、文化祭フィナーレで花火の打上げ作業してる所もすぐ側で取材させて貰えるかもっ!!」

「へえー。地域社会部も映像写真部も面白い活動してるね。それに花火の打上げ作業をすぐ側で取材できたら凄い事じゃん! 良かったね、颯太!」
「颯太君の嬉しそうな笑顔と高いテンションが全てを物語ってるね!」
「坂本君、取材頑張ってね」

「皆、ありがとう! じゃあ俺、早速帰って今日借りてきた花火に関する本を読むから。じゃあね!」
「はーい。またね、颯太」

 颯太は軽い足取りで店を出る。颯太の後ろ姿からは夢が一つ叶ったという喜びをはっきりと見て取る事ができる。嬉しそうな颯太の雰囲気につられて、蒼達のテンションも上がる。

「颯太君、本当に嬉しそうだったね。あんなに喜ばれると、話を聞いてるこっちも嬉しくなっちゃう」

「颯太は昔から花火が大好きだったからねー。やっぱり嬉しいんだと思うよ。うんうん、私も颯太が喜ぶ姿は見てて嬉しくなっちゃう」

「坂本君は何かにつけて真面目だものね。いつも真面目な坂本君に神様からの嬉しいプレゼントって所かしら。でも……」

 玲奈は、言葉の最後で表情を曇らせる。

「……でも? 玲奈ちゃん、どうかした?」
「今の坂本君の様子だと……九月の取材から十月半ばの文化祭フィナーレ打ち上げ花火まで、坂本君は部活と花火の事で頭がいっぱいになってしまわないかしら?」

「颯太の事だから……きっとそうなっちゃうよね。玲奈ちゃん、それが何か問題あるの?」
「村上さん、忘れたの? 蒼の告白」
「あっ……」

 朱美と玲奈が蒼に視線を向ける。告白という言葉が出た直後に二人から凝視された蒼は顔を熱くする。

「ちょ、ちょっと二人とも! そんな目で見ないでよ! 今の嬉しそうな坂本君の様子を見たら……何だか『告白!』とか『私と付き合ってください!』みたいな感じじゃないのは分かってるよ!」
「蒼、本当にそれで良いの?」

 玲奈の確認に蒼はうつむき、手で頭を抱えながら答える。

「うーん……良くはないけどっ。良くはないんだけどっ! ……でも! タイミングって大事じゃん!? 変なタイミングで告白して断られちゃうのは嫌だし! でもずっと何もできないのも辛いし! ああっもう! 私、どうしたら良いのっ!?」

(蒼ちゃん……)
(蒼……)

 三人は答えを簡単には出せない。蒼が颯太の事を想っているのは事実であり、颯太の状況に関係なくすぐに素直な自分の気持ちを伝えて告白する……事も選択肢の一つである。しかし、「大好きな花火を取材する颯太の邪魔になってしまうのでは?」また「颯太の気持ちが恋愛ではなく大好きな花火の事に向いていたら告白をしても良い答えが貰いないのでは?」と考えて暫くの間は告白をしない……事もまた選択肢の一つである。

 蒼、朱美、玲奈の三人は考え込み……颯太に告白する最適なタイミングを模索する。そして幾つかの意見を出し合った後、今の三人にとって最適と思われる答えに辿り着く。

「蒼ちゃん? やっぱり……文化祭のフィナーレで、打ち上げ花火が終わった後に告白する! っていうのはどうかな?」

「私も村上さんの意見に賛成よ。坂本君が花火に関する一連の取材を終えて、奇麗な打ち上げ花火も間近で見て、その充実感に浸っている瞬間を狙って坂本君を撃ち落とすのよ」

「ちょっと玲奈、その言い方っ! 『撃ち落とす』って……狩りじゃないんだからっ」

「ふふっ。確かに告白は狩りではないけれど……でもそれ位の強い意気込みで考えても良いんじゃない? だって蒼? 人生で初めての告白でしょ?」

「そ、それは……確かにそうなんだけど……」

 玲奈の言葉で蒼が顔を赤くする。

「そうだよ蒼ちゃん! もし他に良いタイミングがあって、『今だ!』とか『颯太と二人きりになった!』……みたいな時が偶然来たらその時は告白をすれば良いと思うけど......でもはっきり『文化祭フィナーレの後』! って決まっていてれば心の準備もできるし良いんじゃない?」

「朱美ちゃん……」

 蒼は玲奈と朱美の言葉を深く受け止め、二人の熱い眼差しに応える様に真剣に考える。

(玲奈、朱美ちゃん……二人とも、私の事をこんなに真剣に考えてくれて……私、本当に嬉しいよ。うん、私は幸せ者だな……でも、告白のタイミングは確かに二人が言う通りだよね。私もそう思うし……)

 蒼の目に強さが生まれる。蒼はバンッ! とテーブルを叩いて立ち上がる。そして自分の恋を真剣に応援してくれる玲奈と朱美に感謝を込めて宣言する。

「決めた! 私……颯太君に告白する! 文化祭のフィナーレが終わったら!! 打ち上げ花火が終わったら!! 颯太君を呼び出して告白する!! 勿論、その前に良いタイミングがあったら告白するけどっ! でも、目標はっ……文化祭のフィナーレ!!」

「おおっ!! 蒼ちゃん!!」
「蒼っ!!」

 決断を下した勇気を称えるように朱美と玲奈が蒼の手を握る。この日、蒼は告白の目標をはっきりと定め、その決意を確固たるものにした。
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