夜空に咲く恋
第五十一話~第六十話
第五十一話 【幕間】女子高生の夏休み 一
夏休み終盤となったある日の午後、朱美、蒼、玲奈の三人は岡崎市内で有数の買い物スポットであるイオンモールに来ている。学生から家族連れまで一般市民全ての需要を余す事なく満たしてくれる、言わずと知れた大型商業施設である。
今日三人がイオンモールにやってきた目的は二つある。目的の一つは、先日朱美が蒼に伝えた「ファッションの事を教えて欲しい」という要望に応える為のウインドウショッピングである。勿論、予算に合うお気に入りの商品が見つかれば購入も視野に入れる。
そしてもう一つの目的は颯太である。どういう事かというと……二日前に朱美は颯太の妹、莉子と次の様なメッセージをやりとりしていた。
「莉子ちゃん、聞いてー。明後日の午後、友達とイオンに行く事になったよ。可愛い蒼ちゃんにファッションの事をいろいろ伝授してもらおうと思って」
「蒼さんって、前に勉強会で家に来たあの奇麗な人だよね!? わあー、良いなあー! 朱美ちゃん、お洒落の秘訣をしっかり伝授してもらってきてね!」
莉子から嬉しそうなメッセージと同時に、グッド! と指を立てるスタンプが送られる。
「そうそう朱美ちゃん? 偶然なんだけどその日、私とお兄ちゃんもイオンに行くよ。午後から夜にかけて」
「えっ、そうなの? 何で?」
「お父さんとお母さんが仕事で夜遅くまで居ないから『イオンで晩ご飯食べてきたら?』って。お兄ちゃんも観たい映画があるみたいだし、私はのんびり雑貨屋さん巡りも良いかなーって」
「莉子ちゃん、それ! ナイス情報! ありがとう!!」
今度は朱美からグッド! と指を立てるスタンプが送られる。この時、朱美、莉子がそれぞれ心の中で思った事は……
(蒼ちゃんが「夏休みは颯太君と全然会えなくて寂しい!」って言ってたし。蒼ちゃんにこの情報を伝えてあげたらきっと喜ぶだろうなぁ)
(朱美ちゃんがファッションの事をあの奇麗な蒼さんに教えて貰ったら……きっと可愛い服を選ぶよね! お兄ちゃんに朱美ちゃんの可愛い私服姿を見せてあげられるかも!)
朱美と莉子は携帯の画面を見ながらそれぞれの思いを巡らせる。そして朱美はこの翌日、敬礼のポーズをとりながら冗談交じりで蒼に話を伝えた。
「蒼ちゃん、極秘情報をゲットしました!」
「極秘情報?」
「何と! 明日の午後から夜! 坂本颯太がイオンモールに現れます!」
「ええっ!? 本当にっ!?」
「昨日、妹の莉子ちゃんから聞いたので間違いない情報であります!」
「凄―い! 流石、幼馴染の情報網! 明日、颯太君に会えるんだね! やったぁー!! 朱美ちゃん、ありがとう!!」
至福の喜びで興奮した蒼は礼を言いながら、朱美の肩を最大の力でバシバシと叩きまくった。
(蒼ちゃん!? 喜んでもらえるのは嬉しいけどっ! 叩く力が強過ぎっ!)
――という経緯を経て今日に至っている。朱美にとっては「蒼にファッションを教えてもらう事」も目的の一つであったが、蒼にとってその目的はもはや忘れ去られた些事である。蒼の目的は「颯太に会う事」でしかない。
莉子からの事前情報で、颯太が映画を観終えるのは午後四時過ぎだと判明している。その時間を狙って朱美が莉子に連絡を取り、偶然を装って合流する手はずである。
朱美、蒼、玲奈の三人は午前中の部活を終えてそのまま制服姿でイオンモールへやってきた。まずはスガキヤ(※)のラーメンと五目ご飯で食欲を満たす。人気商品のクリームぜんざいにも手を出そうとしたが、イオンモール内に数多くある魅力的なスイーツを思うと、今日は断腸の思いで断念した。
(※スガキヤ……愛知県内に二百店舗以上展開する手頃な価格のラーメンチェーン店。愛知県民のソウルフードとも言われている)
スガキヤで昼食を後えて朱美達は蒼の先導で衣料品店を見て回る。ファッションに詳しい蒼の説明を聞きながら朱美は「あれでもない、これでもない」……と沢山の衣服を身体に当てられた。朱美は蒼のチョイスで様々な可愛らしい服を身体に当てられ、鏡に映る普段とは違う自分の姿を見て女子心が舞い上がった。
可愛らしい服、カッコいいセンスの良い服、上品な服、カジュアルな服……と女子高生の楽しいショッピングはあっと言う間に時間が過ぎ午後四時を迎えた。イオンモール内のカフェでくつろぐ朱美が莉子に偶然を装って電話する。
「莉子ちゃん、今、私達は正面入り口近くのカフェで休憩してるよ。颯太はもう映画観終わった?」
「うん。今、お兄ちゃんと一緒に居るよ」
莉子が話す隣で颯太は、チラチラと自分を見ながら「お兄ちゃん」という言葉を出して話をする莉子に違和感を感じる。
「莉子が話してる相手って朱美か?」
「うん、そうだよ。はい、お兄ちゃん」
「えっ?」
突然携帯を渡された颯太は戸惑いながら応対する。
「もしもし、颯太だけど……朱美?」
「うん、そうだよ」
「そっか。じゃ……またな」
「って、こら! 電話を切ろうとするな!」
「いや、だって……突然莉子から電話渡されても話す事無いし」
「もう、颯太はつれないなあ。ところで颯太? 今、私がどこにいると思う?」
「えっ? どこと言われても……家?」
「残念、外れー。実は颯太と同じイオンモールに居まーす! 蒼ちゃんと玲奈ちゃんも一緒だよ」
「なっ……」
颯太は恨めしそうに莉子を見るが、莉子はベーッと舌を出して可愛く振る舞う。
(これは......妹と幼馴染にまんまとしてやられたな……)
「はぁー」
颯太は莉子の挙動を見て、自分が二人の計略にはまっていた事に気付くと軽いため息をついた。
今日三人がイオンモールにやってきた目的は二つある。目的の一つは、先日朱美が蒼に伝えた「ファッションの事を教えて欲しい」という要望に応える為のウインドウショッピングである。勿論、予算に合うお気に入りの商品が見つかれば購入も視野に入れる。
そしてもう一つの目的は颯太である。どういう事かというと……二日前に朱美は颯太の妹、莉子と次の様なメッセージをやりとりしていた。
「莉子ちゃん、聞いてー。明後日の午後、友達とイオンに行く事になったよ。可愛い蒼ちゃんにファッションの事をいろいろ伝授してもらおうと思って」
「蒼さんって、前に勉強会で家に来たあの奇麗な人だよね!? わあー、良いなあー! 朱美ちゃん、お洒落の秘訣をしっかり伝授してもらってきてね!」
莉子から嬉しそうなメッセージと同時に、グッド! と指を立てるスタンプが送られる。
「そうそう朱美ちゃん? 偶然なんだけどその日、私とお兄ちゃんもイオンに行くよ。午後から夜にかけて」
「えっ、そうなの? 何で?」
「お父さんとお母さんが仕事で夜遅くまで居ないから『イオンで晩ご飯食べてきたら?』って。お兄ちゃんも観たい映画があるみたいだし、私はのんびり雑貨屋さん巡りも良いかなーって」
「莉子ちゃん、それ! ナイス情報! ありがとう!!」
今度は朱美からグッド! と指を立てるスタンプが送られる。この時、朱美、莉子がそれぞれ心の中で思った事は……
(蒼ちゃんが「夏休みは颯太君と全然会えなくて寂しい!」って言ってたし。蒼ちゃんにこの情報を伝えてあげたらきっと喜ぶだろうなぁ)
(朱美ちゃんがファッションの事をあの奇麗な蒼さんに教えて貰ったら……きっと可愛い服を選ぶよね! お兄ちゃんに朱美ちゃんの可愛い私服姿を見せてあげられるかも!)
朱美と莉子は携帯の画面を見ながらそれぞれの思いを巡らせる。そして朱美はこの翌日、敬礼のポーズをとりながら冗談交じりで蒼に話を伝えた。
「蒼ちゃん、極秘情報をゲットしました!」
「極秘情報?」
「何と! 明日の午後から夜! 坂本颯太がイオンモールに現れます!」
「ええっ!? 本当にっ!?」
「昨日、妹の莉子ちゃんから聞いたので間違いない情報であります!」
「凄―い! 流石、幼馴染の情報網! 明日、颯太君に会えるんだね! やったぁー!! 朱美ちゃん、ありがとう!!」
至福の喜びで興奮した蒼は礼を言いながら、朱美の肩を最大の力でバシバシと叩きまくった。
(蒼ちゃん!? 喜んでもらえるのは嬉しいけどっ! 叩く力が強過ぎっ!)
――という経緯を経て今日に至っている。朱美にとっては「蒼にファッションを教えてもらう事」も目的の一つであったが、蒼にとってその目的はもはや忘れ去られた些事である。蒼の目的は「颯太に会う事」でしかない。
莉子からの事前情報で、颯太が映画を観終えるのは午後四時過ぎだと判明している。その時間を狙って朱美が莉子に連絡を取り、偶然を装って合流する手はずである。
朱美、蒼、玲奈の三人は午前中の部活を終えてそのまま制服姿でイオンモールへやってきた。まずはスガキヤ(※)のラーメンと五目ご飯で食欲を満たす。人気商品のクリームぜんざいにも手を出そうとしたが、イオンモール内に数多くある魅力的なスイーツを思うと、今日は断腸の思いで断念した。
(※スガキヤ……愛知県内に二百店舗以上展開する手頃な価格のラーメンチェーン店。愛知県民のソウルフードとも言われている)
スガキヤで昼食を後えて朱美達は蒼の先導で衣料品店を見て回る。ファッションに詳しい蒼の説明を聞きながら朱美は「あれでもない、これでもない」……と沢山の衣服を身体に当てられた。朱美は蒼のチョイスで様々な可愛らしい服を身体に当てられ、鏡に映る普段とは違う自分の姿を見て女子心が舞い上がった。
可愛らしい服、カッコいいセンスの良い服、上品な服、カジュアルな服……と女子高生の楽しいショッピングはあっと言う間に時間が過ぎ午後四時を迎えた。イオンモール内のカフェでくつろぐ朱美が莉子に偶然を装って電話する。
「莉子ちゃん、今、私達は正面入り口近くのカフェで休憩してるよ。颯太はもう映画観終わった?」
「うん。今、お兄ちゃんと一緒に居るよ」
莉子が話す隣で颯太は、チラチラと自分を見ながら「お兄ちゃん」という言葉を出して話をする莉子に違和感を感じる。
「莉子が話してる相手って朱美か?」
「うん、そうだよ。はい、お兄ちゃん」
「えっ?」
突然携帯を渡された颯太は戸惑いながら応対する。
「もしもし、颯太だけど……朱美?」
「うん、そうだよ」
「そっか。じゃ……またな」
「って、こら! 電話を切ろうとするな!」
「いや、だって……突然莉子から電話渡されても話す事無いし」
「もう、颯太はつれないなあ。ところで颯太? 今、私がどこにいると思う?」
「えっ? どこと言われても……家?」
「残念、外れー。実は颯太と同じイオンモールに居まーす! 蒼ちゃんと玲奈ちゃんも一緒だよ」
「なっ……」
颯太は恨めしそうに莉子を見るが、莉子はベーッと舌を出して可愛く振る舞う。
(これは......妹と幼馴染にまんまとしてやられたな……)
「はぁー」
颯太は莉子の挙動を見て、自分が二人の計略にはまっていた事に気付くと軽いため息をついた。