夜空に咲く恋

第五十九話 朱美と蒼の気持ち

「私っ、私っ……颯太君の事が好きっ!! 大好きですっ!!」

(……蒼ちゃん!?)
(えっ……ええっ!!??)

 蒼は高まる感情に任せて颯太に告白をした。颯太と朱美は突然の告白に驚きを隠せないが、蒼は感情のままに颯太への思いをぶつける。

「颯太君! 私……多分、ずっと颯太君の事が好きだったと思う! きっと中学の時から! 塾で隣に座って何度も何度も颯太君を見てる自分に気付いて……それからずっと! 颯太君の事を想ってたの!! それで……あの時は受験生だったし諦めた恋だったけど……でも! 高校で颯太君と出会ってやっぱり諦められなくなったんだ! だから……好きです! ずっと好きでした!!」

(ええっ!? 蒼ちゃん!! 言った! 颯太に告白……しちゃった!?)

「えっ……あっ……いや、その……あの……」

 朱美は蒼が颯太に告白する機会を狙っている事は知っていたが、まさか自分の目の前で颯太に告白をするとは全く想像もしておらず、ただただ驚くばかりであった。また、颯太も突然の告白にどう答えて良いか分からず困惑してしまう。

(いっ……言っちゃった!? 私っ、颯太君に告白しちゃった!? でも、これだけで終わったらダメ! そうよ! 最後まで……「私と付き合ってください!」って言わないとっ!!)

 蒼の告白は計画的なものではない。颯太の「花火の製作体験をできる事になった」という発言をきっかけにした衝動的な感情任せの告白である。事前に用意した台本などはなく、蒼は勢いのまま……思いつくままに言葉を繋げて、颯太への告白を完結させようとする。

「颯太君、突然こんな事を言って困らせてごめんね。でも……やっぱり私はこの気持ちを颯太君に伝えたくて! だから……私とっ! もし良かったら私とっ! ……私と付き合って下さいっ!!」

 蒼は頭を下げて最後まで言い切った。隣で蒼の告白を隣で聞いていた朱美はただただ驚きで固まってしまい、蒼の告白を見守る事しかできなかった。一方、颯太も思いがけない突然の告白にただただ驚いて固まってしまい、上手く言葉を返す事ができない。

「えっと……その……何て言うか、まずはありがとう……ございます」

 女子からの告白という慣れない状況に、生真面目な颯太は無意識に敬語が出てしまう。蒼は困り果てた顔をしながら何とか喋ろうとする颯太に、告白の返事についても勢いのまま……思いつくままに続ける。

「えっと……返事は……って、ああっ! そうだ!! 颯太君!!」
「えっ……蒼さん!?」

 蒼は困惑する颯太の両手をとり、告白の勢いのまま颯太に告げた。

「颯太君!! 青っ! 青が良いっ!! 文化祭のフィナーレで打ち上げ花火を作るんだよね!? もし告白の返事がOKだったら! 私の為に……蒼の為に青い花火を空にドーンっ! って打ち上げて!!」

「えっ?」

(……っ!? 蒼ちゃんっ!?)

 蒼の唐突な提案に颯太も朱美も再び固まってしまう。蒼は颯太と朱美が七歳の時に交わした約束を知らない。颯太と朱美にとって「赤い花火を打ち上げる事」の重要さと、それが意味するものを知らない。蒼は興奮する感情のまま、更に言葉を続ける。

「だって素敵じゃないっ!? 颯太君がね! 私の為に……蒼の為に青い花火を打ち上げてくれるのっ! そうして告白のOKをしてくれるのっ! 誰にも分からない……颯太君から私にだけに伝えてくれる……夜空に咲く私の為だけのメッセージだよ! 『蒼さん! 僕と付き合ってください! お願いします!!』って! ドーンって青い花火で返事をくれるのっ!!」

(あっ……蒼ちゃん……そんなっ、そんなっ!!)

「あ、蒼さん……」

「じゃっ! そういう事でっ!!」

……ダッ!

 蒼は思いつく全ての事を言い終えると、颯太の言葉を待たずにその場を走り去ろうとした……が、数歩走った所で振り返って戻って来ると、パッと朱美の手を取って強引に連れ去った。

「朱美ちゃん!」
「えっ? 蒼ちゃん!?」

 取り残された颯太は、今起きた一連の出来事が信じられずにひたすら戸惑い続けた。

(俺……蒼さんに……告白されたっ!?)

 颯太は暫くの間、足を動かす事ができずに呆然と立ち尽くした……。

 一方、蒼に手を引かれる朱美は抵抗できず、角を曲がって颯太から見えない所まで連れ去られた。そして蒼は足を止めると朱美に強く抱き着き、涙ながらに言った。

「朱美ちゃんっ……私っ……私っ! 言っちゃった! 颯太君に!! 告白しちゃったよっ!!」
「う、うん……」

 蒼は興奮のままに朱美を強く抱きしめるが、朱美は蒼の身体を抱き返えせずに腕をダラン……と脱力した状態となる。朱美を脱力させた原因は蒼が告白をした行為そのものではなく、告白の中身にある。

(蒼ちゃんが颯太に告白しちゃった……青って……青い花火って……告白の返事が青い花火って……)

 朱美の脳裏に颯太と七歳の時に交わした約束の場景が蘇る。颯太は赤い花火を上げてくれると最高の笑顔で約束してくれた。颯太の笑顔が……自分の大切な思い出が……真っ青に塗りつぶされて……全て無くなってしまう様な感覚に襲われる。

(ああっ……颯太……私と約束……したよね? 二人の約束……叶えてくれるんだよね? 蒼ちゃんと付き合うなら青い花火って……颯太……蒼ちゃん……赤い花火……青い花火……ああっ……あああっっ!!!!)

 朱美の感情が壊れる。目から涙が溢れ出る。

 朱美は蒼の恋をずっと応援してきた。颯太と蒼が付き合う事を望んできた。しかし蒼がした告白の返事が、自分と颯太との大切な思い出を奪ってしまう……と思うと朱美は涙が止まらなくなった。

「ああっ……ああっ……私、私っ」

(えっ? 朱美ちゃん!?)

 蒼は抱きしめている朱美が涙を流している事に気付く。そしてそれは、朱美が自分の為に友情で流してくれている涙だと勘違いをし、更に強く朱美を抱きしめる。

「朱美ちゃん!? 私の為に……泣いてくれるんだね!? ありがとう! ありがとう! 私っ……朱美ちゃんと知り合えて良かったよ! 朱美ちゃんと友達になれて良かったよ! ……本当に! 本当にありがとう!!」

 蒼は、ずっと自分の恋を応援してくれた朱美が自分の為に友情の涙を流してくれている……と思うと感激で涙が溢れ出てくる。

「ああっ! 朱美ちゃん!! 颯太君に告白できたのは朱美ちゃんのおかげだよっ! ありがとうーーっ!!」

「蒼ちゃん……私っ……ああっ」

 街の路地裏で二人の女子高生が涙を流して抱き合う。異なる意味ですれ違いの涙を流す蒼と朱美。蒼は感激と喜びで朱美の身体を強く抱きしめたが、朱美は蒼の身体を抱き返す事ができなかった。
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