夜空に咲く恋

第六十五話 蒼と玲奈の二週間

 蒼が颯太に告白してから二週間が経過した。学園祭までは残り一週間となり、生徒達は放課後の準備に精を出す。颯太達が通う私立岡崎中央商業高校の学園祭は木曜日から土曜日の三日間で開催される。初日は体育祭、二日目と三日目は文化祭である。そして文化祭のフィナーレで打ち上げ花火が上げられる。

 蒼の告白から二週間……蒼、朱美、玲奈、颯太の四人は、顔を合わせば表面上は何事もなかった様に普通に接していたが、それぞれの悩みと葛藤と向き合いながら複雑な心境で過ごしていた。

蒼の二週間は――

 蒼は颯太に告白した後、朱美が突然自分の前から尋常ではない様子で走り去ってしまった。その話を聞いて朱美を心配した玲奈が探しに行き、そして一人だけで教室に戻って来た玲奈から話を聞こうとした。

「玲奈っ!? 朱美ちゃんは見つかった!?」
「ええ、村上さんと話をしてきたわ。今日は村上さんはもう家に帰ったわよ」

「見つかって良かった! で、朱美ちゃんの様子はどうだった!? 大丈夫だった!? まさか私っ……何か朱美ちゃんを傷つける様な事をしちゃってたのかなあっ!?」

 蒼は玲奈の両肩を持ってブンブンと揺らす。

「ちょっと落ち着いて蒼! そうね……ここじゃなんだから、ちょっと屋上に行きましょ」
「あっ、うん……そうだね」

 蒼が告白をした後の話は……当然ながら込み入った話になる。「蒼が誰かに告白をした」という話は誰にも聞かれたくない。二人は屋上に場所を変えて話をした。

「蒼、落ち着いて聞いてね」
「うん……」

「村上さんはずっと一緒に過ごしてきた家族みたいな坂本君がね、突然女の子……蒼に告白されてしまった事に本当にびっくりして驚いて……ちょっと受け入れられなくなってしまったみたいなの」
「えっ……」

 玲奈の言葉に蒼の表情が曇る。

「ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染って不思議なものね。私もちゃんとは分からないけど……村上さんには蒼の告白が本当に衝撃的だったみたいで。でも安心して。村上さんは落ち着いてくれたから。明日から普通に接してくれると思う」
「そっか……」

(でも玲奈……口調がいつもと違う……)

 玲奈は朱美と話して打ち合わせた内容の通りに伝えた。朱美と颯太が七歳の時に交わした赤い花火の約束については蒼に伝えなかった。その約束を伝えた所で、蒼が告白した内容に苦しむだけだと分かっているからである。

 ただ、蒼は玲奈と長年の親友である。玲奈が何かを隠している事は簡単に察しが付く。そしてこの後、親友である玲奈とずっと自分の恋を応援してくれた朱美が、少し違和感があっても二人揃って同じ説明をするのであればそれはきっと「二人が自分の為に何かしらの気を遣ってくれているのだろう」……とも容易に想像できた。

 突然の告白という大事件の直後である。何が起きていても不思議ではない。蒼は二人の気遣いと優しさを無駄にしない為にも……この件について玲奈と朱美には文化祭が終わるまで何も聞かない事にした。

 告白の日から二週間、蒼は悩みと葛藤に苛まれた。

 颯太の「花火の製作体験をできる事になった」という嬉しい報告から勢い任せに人生初の大告白をした。そして自分らしく「告白の返事がOKなら青い花火を作って欲しい!」と颯太に願った。ずっと想いを寄せてきた颯太に告白できた事、告白の返事がOKなら自分の名前と同じ色の青い花火が夜空に咲くというドラマチックな結末である事に蒼はとても満足していた。

 ただ、颯太の返事は文化祭が終わるまで分からない。自分の告白がOKなのか? ごめんなさいなのか? 女子の葛藤にはずっと苛まれた。颯太の返事がOKだった場合を想像すれば胸が張り裂けそうな程に嬉しくなり、ごめんなさいだった場合を想像すればこれもまた胸が張り裂けそうな程に悲しくなった。毎日毎日……OKか? ごめんなさいか? の想像に一喜一憂して過ごした。


玲奈の二週間は――

 颯太と朱美が七歳の時にした「赤い花火の約束」を覚えていた事を、玲奈はそれぞれ本人から聞いている。また蒼が颯太にした告白で「青い花火を希望した」事も聞いている。颯太と朱美の約束が、蒼がした告白の返事と相容れないものになってしまった事を知っている。また、朱美にとって颯太は只の幼馴染ではなく、それ以上の大切な存在である事も知ってしまった。

全ての情報を知る玲奈は苦悩した。

(幼馴染の二人が七歳の時にした約束をずっと忘れずに覚えていたなんて素敵な話だわ。村上さんも坂本君の事を「颯太はただの幼馴染だから!」なんて言いながら本当は心の奥でずっと大切に想っていたのも素敵な話……。

それに蒼は蒼で「告白の返事に青い花火が良い!」なんて言っちゃう所も素敵。本当に真っすぐな性格なんだから。ふふっ……やっぱり蒼と一緒に居ると楽しいわね。

でも、村上さんと坂本君がした「赤い花火の約束」と、蒼がお願いした「青い花火の返事」はどちらか一つしか叶わない……。

ああっもうっ! 何でこんな事になっちゃったのよ! 皆が素敵で優しくて一生懸命で……自分の気持ちと向き合っただけなのに! 一生懸命に自分の希望を叶えたいだけなのにっ! ああっ……村上さんっ……蒼っ……私に何ができる!? 私っ……どうしたら良いの!?)

 皆の真っすぐな思いが重なっただけ。誰も何も悪くない。それなのに自分にとって大切な誰かが悲しい結末を迎えなければならない。玲奈はこの状況を思うと苦悩し、涙を流した。大切な親友である蒼と朱美の為にも……また高校に入学して以来ずっと親しくしてきた颯太の為にも……「自分にできる事は何かないのか?」と苦悩して過ごした。
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