火炎
第1章
第1章

「別れましょう」あたしは燃えるような瞳で、彼氏の慧(あきら)さんをまっすぐに見詰めた。灼熱の真夏日が、あたしの羞恥の為にカーテンの取り払われた窓から焼き付けていた。ベッドには鎖が取り付けられ、あたしの手には手錠がかかっていた。
 あたしは、毎日大学が終わると必ず、電車で40分かかるこの慧さんのアパートへ行き、まずは手錠で拘束されることになっていた。大学が終わると、とは言ったが、大学などきちんと行けていなかった。大学生の仕事は勉強であると思っていたが、私の仕事は、慧さんの肉欲の相手だった。
 テーブルには汚らしい洗われていないコップやゴミ、タバコの吸い殻の入った灰皿があり、チューハイの空き缶がいくつも放られている。
 慧さんは、不安定な表情になり、あたしを抱きしめた。
 「真子、そんなこと言わないで?つらくなるから俺、真子がいないとどうやって生きていけばいいかわからないから。ほらいつもみたいなのして?」そういうと、慧さんはあたしを怪物のようによじれるほど強く抱きしめた。肩に痛みがはしる。
 慧さんはそのまま、あたしの耳を齧った。あたしが耳が弱いことを知っているのだ。
「あっ……」あたしは不快な快楽に声をあげ、それをいいことに、慧さんはあたしを持ち上げて両手、そして両足をベッドに固定した。
 そうしてあたしを野獣のように襲った。痛くて苦しくて、あたしはこういう時、それが終わるまでひたすら力を抜いた。苦しみをかかえないように、それを願うのだ。
 それは永遠に長かった。実際にそれは、夜から明け方まで続いた。慧さんは、スタミナ化け物で、疲れることもなければ何時間も起きても平気であった。
 「もう朝だね」慧さんが嬉しそうに言った。
「慧さん、今日は、大学の新入生歓迎会だから、少し寝かせてくださいませんか?」
「んー?××させてくれたらいいよ」あたしは、絶望と、全人生のあきらめに、体を死体のようにし、力を抜いた。慧さんは、あたしをまた好きなようにさせ始めた。
< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop