火炎
エピローグ
エピローグ

 「真子、結婚しよう」付き合って5年の記念日に、雪人くんは言った。あれから流れで、あたしたちは付き合うことになり、あたしは2年事務の仕事をし、雪人くんは1年公務員をしたところだった。同棲して半年になる。
「雪人くん、あたしはそれでもいいけど、結婚式はしない。家も買うつもりはないわ」
「え、何で?」
「世の中は冷たい。神も仏もない。身を救うのは警察とお金だけ。式だの家だの車だの。結婚してもこの家賃の安いアパートで暮らすべきよ。それにあたしが白い装束とか、どうなの?」
「え、何でそう思うの?」
「覚えてる?5年前……」そうしてあたしは、5年前の警察沙汰のストーリーを話し始めた。あたしは、世の中が冷たいと言う教訓話を始めたつもりだったのに、なぜだか雪人くんが久しぶりに優しくとろとろした目であたしを見るので、あたしも変な気分になった。
「真子、懐かしいね。俺は子供だった」
「あたしはひどい女だったわ」
「うん」
 すると、レンジが喋った。
「オーブンのお料理が焼き上がりました」あたしは唯一、料理のためにお金を使っていた。
「5回目だ」雪人くんは言った。
「そうだね」あたしはそう言って立ち上がり、慎重にオーブンからパンプキンパイを出した。そう、パンプキンパイを焼くのは5回目だった。記念日に焼くお菓子と決めていた。
「ねえ」
「どうしたの?」
「銀杏ってね、食べれるよね」あたしは、野菜室から銀杏を取り出して、フライパンで銀杏を炒り出した。
「なんのこと?」雪人さんは言った。あたしは全部覚えてる。5年前から、彼に言われたことは全て。でも、彼の方は、あんまり覚えていないみたい。でも、だからこそ、よかった。あたしは言った。

「結婚しよう」




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