真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
女性初の叙爵に周囲の方が張り切っているくらいで、わたしはいまだ実感がわかない。


試作品を納品されて、うつくしく、静かで確かな心地よい手触りに、何だか目眩がした。


陛下のお足下では、空に限りがないのと同じように、わたしにも等しく、どこまでも自由が続いている。


えもいわれぬ感慨が喉奥に迫り上がってきて、深い息を吐く。


手仕事が増えるのは歓迎よ。日々の糊口(ここう)をしのぐために喘ぐ女性向きの仕事は、少しでも多い方がよいもの。


紙に刺繍をすると、手触りも見た目も異素材で楽しい。

印刷よりも刺繍の方が雰囲気が出る。質のよい紙や糸、腕のよいお針子でなければ破れてしまうから、品質の証明や控えめな宣伝にもなる。


女王の取り組みとしては、女性に活躍の場をという狙い、叙爵に際して発注するのにちょうどよい。

ただしこれは、それほど使う機会は多くないだろうから、少量生産ゆえに可能だったことだわ。


文官は武官に比べて少し給金が下がる。殉職が珍しいから仕方がないことなのだけれど、爵位や役職に応じた手当があれば、自由にできることが増える。

今後また必要になったら、爵位に付随する給金から出せる範囲で発注してくださったのもありがたいわ。
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