真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
家柄や性格、素行などが関係して、結婚相手選びは難しい。


プリムローズ家にとっては、せっかく苦労して結婚させた娘が、すっかり歳を重ねてから離婚などという外聞の悪い状況になっている。

ましてや陛下にご迷惑をお掛けしているわけで、さぞ心重く感じるだろうと心配していた生家は、本を通してプリムローズという名前が知れ渡ったことを喜んでくれた。


ありがたいことに、家庭をうまく切り盛りできなかった至らなさを、家族や親類の誰からも責められはしなかった。


わたしのお給金から家を支援していることもあるのだろうけれど、女王陛下に認められたという事実が、確かにわたしを守ってくれた。

離婚後即叙爵とあっては、離婚のあれこれなどにかかずらわっている暇がないもの。


十代の頃からわたしにつけられた、重たい枷のようだった指輪は外したけれど、ジュディス・プリムローズという名乗りは変わらない。

わたしは薔薇。落ちてもなお赤くあらんとし、元々、夫の姓ではなく、生家の家名を高らかに名乗っていたから。


わたしは、女王の薔薇(プリムローズ)、女王の真珠でありさえすれば、なんでも構わなかった。


こちらの名乗りが変わらなくても、指先があいたのは見れば分かる。ましてや一代限りとはいえ爵位持ち、庶民出身であれば御し易いと思われる。


女王の心配の通り、周囲が放っておかず、見合いと誘いは引きも切らない。そのすべてを、身につけた女王の真珠と薔薇を理由に断る。


襟元の紋章は生半な相手を遠ざけ、それでも近づく不埒な者は、今までどおり、陛下に贈られた真珠と薔薇が遠ざけてくれた。
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