帝国支配目前の財閥御曹司が「君を落とす」と言って、敵方の私を手放してくれません
二人は敵同士?!

御曹司の試練~大我side~

知らせを受けすぐさま、父の入院する総合病院に駆け付けた。
到着時は正午を過ぎていたので、父はベッドの上で食事をとっていた。

「食べられるのか、親父」

俺が胸をなでおろすと、父は顔をしかめた。

「いや食えん。どれもこれも味がない」

「血圧が高く、今は安静が必要です。食事も当分は減塩食になります」

説明に来た担当医が言った。

父は箸を置くと俺をベッドわきの椅子に座るよう手で招いた。


「大我、そろそろ独り立ちの覚悟のときだ。まずはお前の手で美丘駅前の計画を成功させてみろ。いままで俺の言うことを訊かず生意気ばかり言ってきたお前が、どこまでやれるかお手並み拝見だ」

「俺はやる。親父にはできないやり方で」

父は冷ややかに一瞥をくれた後、再び箸を持った。

「言うことはそれだけだ。帰れ」

*

その夜、オフィスに戻った俺は、美丘駅再開発「リボーン」のプランを見直していた。

新規の住人を誘引するために、住みやすい街をアピールする公民連携事業。最新鋭のおしゃれで便利な設備を整えれば、若い世代が転入し、美丘は賑わいを取り戻すだろう。

どんな街にも世代交代は必要だ。新陳代謝こそが街の活性化につながるものなのだ。

けれども…俺はどうしてもこの計画が、気に入らない。
俺は計画書を睨んだ。

「“親父にはできないやり方で”とはまた、ずいぶんな大口を」

オフィスに現れた八神は、半ばあきれ顔で俺を見ている。

「大我さんのやり方とは、どんな?」

「それはこれから考えるんだ」

そこに急に荒っぽくドアが開いて、俺は咄嗟にその先に視線をやった。

髪を乱して踏み込んできたのは芙優だった。デニム姿で、紙袋をさげている。

「大我さん、あなたが美丘駅周辺再開発計画を行う鳳条グループの御曹司だったんですね。『金に物を言わせる』という有名な。
どうすれば君を落とせる、ってあれは、どうすれば立ち退かくかってことだったんですね。私、その誘いには乗りません。これ、靴の代金と靴、お返しします。お世話になりました」

芙優は一気にまくしたて、肩で息をしながら紙袋をデスクに置き、深く頭を下げると、再び出て行った。

立ち上がって追いかけようとするが、八神に止められる。

「このあと神楽坂で取引先との会合ですので」




駐車場に移動する途中、八神は呟いた。

「やっぱり、敵同士の恋愛は難しいのでは?」

「おれは彼女を諦めたくない。再開発も成功させる」
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