帝国支配目前の財閥御曹司が「君を落とす」と言って、敵方の私を手放してくれません

鯛焼き屋の危機~芙優side~

翌朝私は、仏壇の前に座って祖母の写真を見つめていた。

忘れられない男性が、まさかの敵だなんて。弄ばれた悔しさで、体の中が煮えたぎるけど、気持ちを新たに自分の本分を果たさなくちゃ。
あの人に負けたくない。再開発は絶対阻止する。仏壇に手を合わせる。
私、がんばるね。おばあちゃん。

そこに、焦げ臭いにおいとともに、叫び声が聞こえた。咄嗟に裏口から商店街に飛び出すと、きな臭い匂いが通りを拭き抜けた。吹き抜ける風が熱い。

「火事だ」

隣の窓からモクモクと煙が出ているのを見て、私は慌てて鳥壱の裏口に回った。

「会長、レイナさん、大丈夫?」

煙の中から、創業から継ぎ足している秘伝のたれの壺を抱いたレイナさんと、彼女を抱くようにした会長が、倒れ込むように外に出てきた。

「ああ…炭火に油がついて、あっというまに」

会長の顔は真っ黒だ。なんとか火を消し止めようとしたのだろう。

「とにかく無事でよかった」

店の奥を振り返ると黒い煙の切れ目にトロフィーが見えた。
五年前、焼き鳥グランプリで優勝したトロフィー。会長もレイナさんも、泣いて喜んだ優勝記念だ。煙を手でかき分けて進み、トロフィーを掴んで出口に戻ろうとした。背後に急に火の手が上がったのが、音と赤い光でわかった。背中が熱い。

走り出て振り返ると、自分の家にも火の手が移っているのに気付いた。

「だめ!やめて!」

子供たちが集まる場所。祖母が残してくれた忘れ形見。私の唯一の居場所。

商店街の人たちが消火器や水で応戦するも、一気に火の手が店を包み込んだ。

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