落ちこぼれ魔女・火花の魔法改革!〜孤独なマーメイドと海の秘宝〜
海の王国アトランティカ

第6話


 地図に示された海の周辺に到着した私たちは、一旦海の真上でほうきを止めた。
「うーん……地図によるとこの辺かなぁ?」
 ドロシーが手元に広げた地図を見ながら言った。
「なーんにもないねぇ」
 辺りは一面青い海。
 当たり前だけど、青い大海原には目印もなにもない。
「……ねぇ火花ちゃん、本当に行くの? 海の中だよ? 私泳げないし、息継ぎとか……」
 ドロシーの指摘にハッとする。
「あ。たしかに、水の中って息できないんだっけ」
 しかも、泳ぎもあんまり得意じゃないな。
 陸で生活する私たちは、水の中じゃもちろん息ができないし、ひれもないから早く泳ぐこともできない。
 うーん、そうなると、この姿で海の中の星の原石を探すのは難しいかな……。
「えっ!? 嘘でしょ、忘れてたの!?」
「あはは」
 とりあえず、笑って誤魔化してみる。と、ドロシーは呆れたようにため息をついた。
「それなのに海の中探そうとしてたの……?」
 えへへ、と頭を掻きながら、なにかいい方法はないかなと考えた。
「…………あ」
 ぴこん、とひらめいた。
「大丈夫! 私に任せて!」
 私はドロシーと目が合うと、ぱちっとウインクをひとつして、制服の内ポケットからステッキを取り出す。
「え、なにするの?」
「まぁ見ててって!」
 さっと振りながら、魔法の呪文を唱える。
「マジカル・ロジカル! マーメイドにな~ぁれっ!」
 ステッキからほとばしった星の欠片が、私とドロシーを優しく包み込む。
 きらきらきらきら、視界が星のきらめきであふれて、次第になにも見えなくなる。
 しばらくして光のシャワーが止むと、私たちは可愛らしい二尾のマーメイドに変身していた。
「わぁっ!」
 私はピンク色のドレープ感たっぷりのふわふわなキャミソールを着たマーメイド姿に、ドロシーは薄緑色のニットキャミソールを着たマーメイド姿になった。
 どぼん、と海面が爽やかに跳ねる。
 ドロシーは自分のおひれを見ると、きらきらと目を輝かせた。
「火花ちゃんすごい! 私たち、ホンモノのマーメイドになってるよ! 可愛いっ!」
 ドロシーは海の中を泳いだり水面をぴょんっと飛んだりしてはしゃいでいる。
「これなら海の中でも息できるし、早くも泳げる! それに魚類語が分からなくてもマーメイドになればお魚とも会話することができるでしょ?」
「そっか! さすが火花ちゃんっ!」
 えっへん。
 私だってやるときはやるんだから。いつもおっちょこちょいなわけじゃないのよ。
「一瞬バカだとか思っちゃってごめんねっ!」
 ……え?
 動きが止まる。
「バカ?」
 え、ドロシー今、バカって言った?
 呆気にとられていると、どぼん、と海面が跳ねた。イルカの群れが通り過ぎていったみたいだ。
「火花ちゃん! 早く行こう!」
「あっ、うん!」
 私たちは駆け足……じゃなかった。駆けひれ? をして、イルカの群れを追いかけた。


 ***


 海の中は、青色だけじゃなく、様々な色が混ざったとってもカラフルな世界だった。
 赤やオレンジや黄色のサンゴ礁に、緑や金色をした魚たち。
 透明なクラゲはふわふわわたあめみたいで、とっても神秘的。
 小さな魚の大群が流れ星のようにきらきらと太陽の光に反射しながらそばを通り過ぎていく。
「わぁ~! 海の中ってこんな感じなんだ! あっ、火花ちゃん、見てみてあそこ、イルカがいるよ! さっき通り過ぎていった子たちかな? こっちには亀も! きれーい!」
「ちょっと、ドロシー待ってよ~」
 ドロシーはよっぽど海が気に入ったのか、普段よりもテンションが高い。
 いつも落ち着いているドロシーが、こんなにはしゃぐなんて。
 私は苦笑しつつ、ドロシーを見失わないように追いかけた。
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