最強風紀委員長は、死亡フラグを回避しない
 頭を下げて謝った後、恐る恐る理事長の方を窺ってみると、どこか呆れたように浅い息を吐かれてしまった。

「――では、質問を変えよう。お前は入学する半年前まで、地下から出たことがなかったと聞いた。来たばかり頃、一人で散策して草や虫や土の一つ一つを、よく物珍しげに覗きこんでいたのを見掛けた。何か思うところはあったか?」
「えぇと、その、知らないことが沢山あるなぁ、と思う時があります。初めて見るものだとか、その全部がキラキラして見えて……理事長はそういう事ありますか?」

 もしかしたら、目を引くその答えが分かるかもしれない。

 そう思って尋ねてみたら、理事長が静かに目を閉じた。それから、ゆっくりと開いてこちらを見据え直す。

「――さぁな。それはどういう感じなのだ?」
「えぇと、色鮮やかに目に焼き付いたように頭から離れなくて、ふとした拍子に思い出す、みたいな感じです。初めて見た林檎の赤だったり、廊下に差し込む夕日の色だったり。空の青さを見て『今日も晴れて良かったなぁ』とか、そういうことを考えます」
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