最強風紀委員長は、死亡フラグを回避しない
「そうか」

 理事長がゆっくりと瞬きをし、珈琲カップへと目を落とした。

 彼がまとっている空気から、もうこれで話は仕舞いらしいと感じた。結局のところ、呼び出された用件については、推薦の話が上がっているという情報共有だったようだ。

 そう思いながら、サードは立ち上がった。扉に向かって歩き出した時、理事長室の奥にある部屋から小さな物音が聞こえたような気がして足を止めた。

「どうした」

 思わず振り返ったら、そう理事長に問い掛けられた。

「いや、なんか音がしたような……?」
「気のせいだろう。ここには、私とお前しかいないのだから」
「まぁ、そうですよね…………」

 サードは少しだけ首を傾げた後、再び足を動かせて出入り口に向かった。

 扉の取っ手に触れた時、背中の向こうから「一つだけ、いいか」と理事長の声が聞こえてきた。肩越しにそちらへと視線を向けると、ソファで足を組んで彼がこちらを見ている。

「なんでしょうか?」
「どうやら私は、全面的にお前の味方にはなれないようだ」

 今日の理事長は、まるで掴みどころがない物言いをする。

 半悪魔である存在を受け入れられない、ということを言われているのだろうか。そう自分なりに解釈したサードは、ふっと柔かな苦笑をこぼして頷いて見せた。

「しょうがないです。自分がどれだけ嫌われている存在であるかは、俺自身がよく知っていますから」

 でも、理事長(あなた)が悪いわけではない。自分は、ただの対悪魔兵器だ――サードは軽く笑いかけて、理事長室を後にした。
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