イケメン過ぎる後輩くんは、可愛い先輩を甘やかしたい。
 廊下にはまだたくさんの生徒が行き交っているけど、洟を啜って早歩きする私のことなんか、空気のように誰も気に留めない。

 本当は、今でもまだ信じられない。

 依澄くんが言ってた〝好き〟が嘘だったなんて。

 でも、真実がどうであれ、これでよかったと思う。

 私と依澄くんたちとでは、住む世界が違う。

 依澄くんとララちゃん、うまくいくといいな。


「彩美!」

 廊下の角を曲がって人気のない渡り廊下に来た時、追いかけてきたトモちゃんが息を切らして私の肩を引いた。

 きっとトモちゃんは、こないだの噂話のことを気にしてるんだろう。

「……トモちゃん、こないだはごめんね。 ほんとにトモちゃんが言ってたこととは関係ないから、気にしないでね」

「違うの」

「……?」

「私、思い出したの……文化祭の時のこと」

「え?」

「茶道部の手伝いしてる時、彩美、一回眼鏡なくしたことあったよね。そのとき一人、男の子来てなかった?中学生の、黒縁眼鏡の男の子」

「……!」


 そして私は、静かな茶室の座布団の上、あぐらをかいてうなだれていた男の子の姿を思い出した。




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