離婚記念日
「早瀬さん」

婦人科の診察室から呼ばれた。
フラフラとしながら私は立ち上がると中に入った。
案内されるままに初めての内診台に何をされるのかわからず体が硬くなる。
エコーが入れられると頭上にあるモニターに映し出された。よくわからないが白っぽい画面の中央に丸い黒いものが写っていた。角度を変え、しばらく確認すると診察室へ戻るよう声をかけられた。支度を整え、隣の部屋へ移動すると医師は私に向かい合うように立居を整えた。

「残念ですが赤ちゃんの袋は育っているのですが、赤ちゃんは確認できませんでした」

「どういう意味ですか?」

医師の説明が分からず、震える手を押さえながら聞き直した。

「稽留流産です」

「稽留流産……?」

「出血など、流産の兆候はないですが赤ちゃんの発育自体止まってしまっている状態です」

赤ちゃんはいないの?
育っていないって?
何も返せない私に、隣に立っていた看護師が背中をささってくれた。
気が付かなかったが、私の目から涙がこぼれ落ちていた。

「早瀬さん、最後の生理から2ヶ月を超えていますね。そうなるともし赤ちゃんがいるのなら先ほどのエコーで写っていなければならないんです。残念ですが赤ちゃんの成長が確認できないとなると手術が必要となります」

「流産ですか……」

私の問いに医師は頷いた。
そのまま看護師に別室へ連れてこられ、手術の段取りを決めた。
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