離婚記念日
2日後、私は通子さんに付き添ってもらい病院を訪れた。
再度確認のためエコーをしてもらったが、相変わらず画面に写る袋の中は何も見えなかった。
予定通り、静脈麻酔をかけられ私は流産の手術をした。
目が覚めるとベッドサイドには通子さんが座っていた。

「気がついた?」

頷くとナースコールで看護師を呼んでくれる。
体調の確認をされ、点滴の針を抜かれると帰ってもいいと言われた。あっけないものだった。
いなかったはずの赤ちゃんだったが、急にお腹が冷たくなった気がした。
通子さんに支えられ、タクシーでアパートに戻った。

「通子さん、今日はありがとうございました」

頭を下げると、何度も無言で首を横に振っていた。

「いいのよ。気にしないで。莉美ちゃんも頑張ったわね」

声にならない声がもれてしまう。

「しばらくお休みでいいからね。体調が良くなったらまた仕事に来てね。何かあればいつでも来るから遠慮なく電話してね」

私は深く頷くと涙をハンカチで押さえながら部屋へ入った。
引っ越して1ヶ月ちょっと。ベッドさえない私の部屋は閑散としており生活感がない。
テレビの前に置かれた小さな机と本を入れたカラーボックス、クローゼットの中にある衣装ケースが唯一の家財だ。
私は大きめなクッションの上に座ると膝を抱えた。
これで太一くんとの繋がりは本当に何も無くなってしまった……。
ううん、離婚しているんだからもう繋がりはなかった。でも繋がっていたのだと改めて感じさせられる存在がすでに消え去ってしまった。
もう私には何もない。
せめて赤ちゃんがいてくれたら救われたのかもしれない。でもそんな考えの私のお腹には留まっていてくれなかった。むしろ未練を残すなと赤ちゃんは去ってしまったのかもしれない。
ごめんなさい……。
でもやっぱり産んであげたかった。
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