離婚記念日
雑誌が発売される1週間前、カフェに見本が送られてきた。
そういえばなんの雑誌なのか聞いていなかったが、このエリアのおすすめスポットがいくつも掲載されている感じで、見開き1ページでカフェは特集されていた。
町田さん夫妻の写真も食事も見栄えがいい。内容も綺麗にまとめられ、興味を惹かれるものだった。

「莉美ちゃんの写真すごくいいわね! 看板娘って感じじゃない?」

自分の写真が掲載されるなんて恥ずかしい。だからあえて触れなかったのに通子さんに肩を叩かれる。
旦那さんも、うんうん、と頷いてくれる。

「ヤダ。なんだか恥ずかしいです。あれよあれよと撮ってしまったけど、断ればよかったと思ってたんです」

「どうして? こんなに可愛く撮れてるじゃない」

通子さんに褒められるとなんだか照れてしまう。
顔が火照るのを感じ、手で仰いだ。するとパラパラとページがめくられてしまう。あっ、と手を伸ばすとそのページに目が釘付けになってしまった。

太一くん……?

紺のスーツに見覚えのあるネクタイを締めていた。顔つきだけはどこか険しくなったというか、精悍になったというべきなのか、以前のような柔らかさはない。年月がそうさせたのかもしれない。けれど、以前よりも少しだけ長めの髪型が彼の格好良さを引き立たせている。
パッと見ると海外とのエネルギーや鉱物資源について書いてあったが、それに付随する環境問題に力を入れていると載っていた。その部門のリーダーとなり動いているのが未来の後継者だと大きく書いてあった。
太一くんはやはり稼業を継ぐことになったんだ。友永さんの話していたのは本当だったのだと実感した。若きエース、未来の後継者と見出しの文字を読むだけで心が震えた。重責から顔つきも変わってしまったのだろうか。もしかしてあのあと友永さんの言っていた人たちと結婚した? 今まで絶対に考えたくないと思いながらも頭の片隅から離れなかった疑問。これだけ大きな会社だもの。ネットで検索したら出てくるのかもしれない。でも怖くて出来なかった。
ぶるぶると震える手をぎゅっと握りしめていると、

「莉美ちゃん?」

つい雑誌を食い入るように見ていた私に通子さんが不思議そうな顔をしていた。

「あ、ごめんなさい」

「いいのよ、イケメンだものね」

通子さんがクスッと笑う。
私はなんとか苦笑いを返すと雑誌を通子さんに返した。
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