赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
「なにか飲む?」
「いらん」
 将周は即答し、千枝華は首をふった。
 大和は首を竦めて冷蔵庫を閉め、ソファに座った。
 千枝華と将周はその正面に二人で座った。
「ゲームオーバー、君たちの勝ちだ」
 千枝華は首をかしげて将周を見た。将周は首を振った。
「お前は何者なんだ」
「別れさせ屋」
 大和は笑顔のまま答える。
「大サービスで彼女を見張っとけって言ったのに。彼女じゃなくて俺を見張るんだもんなあ、まいっちゃう」
「毎度尾行を撒いて消えるという報告は受けていたが」
「そういうの得意なんだよね」
 楽しそうに大和は答えた。
「どうして正体を明かした?」
「あ、信じるんだ?」
 くすくすと大和は笑う。
 千枝華は戸惑った。さきほど、写真や病気のことで騙されたばかりだ。
 とにかく、千枝華への愛を語ったこともなにもかもが嘘だったのだとは理解した。よくもあんなに真剣に嘘を吐けるものだ、と半ばあきれて半ば感心した。簡単に騙された自分が情けなくもあったが。
 千枝華を守るように肩を抱き、将周は続ける。
「いまのところ、俺を呼び出した以外は別れさせ屋という発言と行動に矛盾はない。近付くために社長の肩書を手に入れたんだろう。天王寺大和は偽名だな?」
「なんで正体を明かしたかってことだけど」
 大和はまたくすくすと笑う。
「まず、君たちを気に入ったってのが一つ。依頼者が支払いを渋るくせに期限を切ってせっついてきて腹立ったのが一つ」
 指を立てて、それから大和はそれを眺める。
「うーん、二つしかなかった」
 将周は眉根を寄せて大和を睨む。
「どこまでもふざけた男だな」
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