『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
「このまま送りますが、歩けますか?」
「はい、大丈夫です」
 そう言いつつも膝に力が入らない。「ちょっと待っていて」と言ってその場を離れた礼二は、タクシーを捕まえて佳奈と一緒に乗り込んだ。
「佳奈先生、今は僕に甘えてください」
「もう、何から何まで……ありがとうございます」
「いいですよ、今日のお礼を考えておきますから」
 努めて明るく振る舞う礼二に、佳奈は嬉しさが胸に込み上げてくる。タクシーを降りる時に、部屋に入って落ち着いたら知らせて欲しい、と言われて彼と連絡先を交換した。
(連絡先も、交換しちゃった……)
 部屋に戻った佳奈は遠慮がちにお礼を打つと、礼二からもすぐに返事が届く。短い文面だけれど、佳奈のことを心配している様子が伺える。そして、メッセージの最後の言葉に佳奈は思わず目を見開いた。
『佳奈先生、今度の休みに映画でも見に行きませんか?』
 新しい恋の予感がして——佳奈は返事を打つ手が震えてしまう。答えは一つしかなかった。

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