『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
 彼がどの程度余裕があるのかわからないけど、いつも遠慮ばかりするのも良くない。戸惑う佳奈の背中を押すように、礼二は前を颯爽と歩いていく。少し強引な気もするけれど、こうして引っ張られていくことも心地いい。佳奈は遅れないようにと足を速めた。
 礼二は事前に予約をしていたのか、レストランに入った途端に「お待ちしていました、黒澤様」と挨拶を受けた。案内されたのは夜景が広がり、目の前で料理人が調理をするカウンター席だった。
「こんな、凄い夜景を見ながら食事をするなんて」
「喜んでくれたら何よりだよ。仕事で時々使うところだけど、カウンターは初めてだ」
「お仕事でも来ることがあるんですね」
 溜息のように息を一つ吐きながらイスに座ると、礼二は「今日は僕にお任せでもいいかな」と提案される。こんなお店で何を頼めばいいのかわからないから、むしろ決めて貰った方が安心する。
「はい、お願いします」
「では、シェフのお任せコースにしようか。お酒は飲める?」
「はい、食前酒位なら」
 細長いグラスに弾ける泡が詰まったシャンパンが届けられると、礼二はそれを持つと軽く上げた。
「クリュッグだからちょっと辛口だけど、どうかな?」
「あ、美味しい」
 口をつけるとスッと爽やかな香りが鼻を抜けていく。思っていたよりも炭酸はきつくなく、すっきりとしたのど越しだった。普段お酒を飲まない佳奈でも、十分に楽しめる。
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