『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
 横髪を耳にかけて、長いまつ毛を震わせながら真剣になって選んでいる。彼女が欲しいと思うものは全て買ってあげたいけれど、そんなことをすればきっと顔を真っ赤にして怒るだろう。そんな顔もみたいけれど、今日はただ彼女を幸せだと思う気持ちでいっぱいにしたい。白いリバーコートにキャメルのショートブーツを履いた佳奈は、普段よりも一段と可愛く見えた。
「佳奈はヨーロッパに行った事はある?」
「海外はアメリカだけです。他の国にも行ってみたいけど、余裕もなくて」
 佳奈はツリーに飾り付けるオーナメントを眺めていたかと思うと、雪の結晶のキーホルダーを見つけて手に取った。
「これ、かわいい!」
 佳奈は嬉しそうに微笑んでいる。その笑顔が眩しくて、魔法がかかったように心臓がトクリと跳ねた。
 ——参ったな、もう、佳奈を手放せないな。
「さぁ、イルミネーションを見に行こうか」
 佳奈の手をとった礼二はけやき坂を下がると、街路樹には白と青の電飾が輝き、幻想的な雰囲気を醸し出している。イルミネーションを見ながら、礼二は繋いでいる手に力を入れた。
「寒くなってきたね」
「ほんと、こんなにも空気が冷たくなるなんて」
「佳奈、ちょっとここに立って」
 人気のいない建物の壁を背にした佳奈を前にして、礼二はポケットの中を探ると小さな箱を取り出した。
「これ、クリスマスプレゼントに」
「えっ、礼二さん」
「開けてみて」
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