『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
第三章

「メリークリスマス!」
「さきちゃん、また来てね!」
 クリスマス会の最後まで残っていた子どもを送り出す佳奈を見つめながら、礼二はロビーで待っていた。するとそこに佳奈が駆けつけてくる。
「礼二さん、お待たせしました。あとちょっと、後片付けがあるけど」
「大丈夫、待つのは得意だから」 大至急片付けますと言い、佳奈はパタパタと足音をたてるようにして階段を上っていく。ふわふわに巻いた髪が泳ぐように揺れていた。
「ははっ、あんなに慌てて。本当に可愛いな」
 佳奈には他の女性にはない魅力がある。穏やかなようでいて芯があり、裏表のない素直な性格をしている。よく見ると藍色をした瞳に、ぽてっとした唇。派手な美人というわけではないが、ふんわりと柔らかい雰囲気は男女を問わず人を惹きつける。一緒にいて、これほどまで気持ちの落ち着く女性は初めてだった。
 佳奈は恋愛事は初めてなのか、些細なことでも初心な反応が返って来る。少し眠そうな時の目も、今日のように子どもを相手にした時のはきはきとした姿も、全てが愛おしい。二人で過ごす初めてのクリスマスに向けて、少し奮発してプレゼントを用意してある。はにかんだ笑顔の佳奈を思い出し、礼二は気持ちを落ち着けながら外を見ると、寒さを映し出すように粉雪が舞っていた。

 六本木にあるショッピングエリアでは、毎年恒例のドイツ仕込みのクリスマス・マーケットが開店していた。可愛らしいサンタクロースの人形から、アドベント・カレンダーまで売られている。佳奈は売られている小物たちを熱心に見ている。
 ——可愛い。僕の彼女はとんでもなく可愛い。
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