『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
第五章
 ——それから二年。
 良く晴れた日の午後、佳奈は洗濯物を取り込もうとして庭に降りた。
「あー、いい天気で良かった。明日は雨みたいだし、今日中に乾いてくれて助かった」
 佳奈は赤ちゃんに着せる子ども服を取り込みながら、青い空を見上げた。
(やっぱり、こっちに来て良かった)
 佳奈は妊娠が判明するとすぐに、田舎に戻っていた。祖母の一人暮らしが心配だからと本当の理由を告げず、年度末で仕事を辞めている。
「佳奈、ふかし芋ができたから真奈に食べさせてもいいかい?」
「あ、おばあちゃん! ちょっと待って」
 佳奈は取り込んだ衣類を籠に入れると、持ち上げて家の中に入っていく。一人きりで子どもを育てるのに不安があったため、祖母には事情があって結婚できない人との子どもだと伝えて真奈を産んだ。最初は呆れた様子だったけれど、祖母はたった一人の孫である佳奈を温かく迎え入れてくれた。
「よいしょっと」
 三人分の洗濯物は意外と重たくなっている。空気の美味しい田舎ぐらしもいいけれど、問題があった。
(仕事がないんだよねぇ)
 佳奈の僅かな蓄えは引っ越しで吹き飛んでしまった。真奈を産む時は、仕方なく礼二の母から送られていた大金に手をだしてしまう。僅かな年金で暮らしている祖母に生活費まで頼ることはできない。
 幸いなことに、保育園にはひとり親ということもあってすぐに預けることができた。本当は英語を教える仕事をしたいけれど、通えることころにはなく今はインターネットを使って自宅で教えているが収入は少ない。
 翌日は雨が降った。夕方になり、真奈を迎えに行くために傘をさして家を出る。普段は自転車で行く距離を、仕方がないから歩いていく。
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