『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
(本当は車が欲しいけど、維持費がかかるしね)
 祖母が一人暮らしをしていた時は、時折やってくるスーパーの出張車で買い物をしていたようだ。でも、真奈もいるため宅配サービスを駆使して生活用品を購入している。スーパーに行くときは自転車で三十分も走らなくてはいけない。
(真奈が大きくなったら、都会に行かなきゃな)
 ある程度の都会であれば、仕事も見つかるだろう。真奈の教育環境を考えても、その方がいいだろう。でも、最近は足腰も弱まってきた祖母と離れるのも心配だ。はぁ、とため息ばかりが出てしまう。
 保育園に近づくと、通りの向こう側に田舎では見かけないような黒い高級車が止まっていた。ふと、嫌な予感がするけれど、礼二と別れた後は彼からの連絡も途絶えている。更に、佳奈が彼の子どもを身ごもったことは知られていないはずだ。
(まさか……ね)
 礼二の母親が言っていたとおり、彼が名家のご令嬢と結婚したのかわからない。結局、礼二とはあの夜を最後に顔を合わせていない。メッセージで「別れて欲しい」と伝えてから、彼の前から姿を消すようにして連絡を絶った。東京を離れる時に、全てをリセットしようと携帯電話も解約している。かつて働いていた英会話教室には、引っ越し先の住所は伝えていない。
 あの時は思い至ることができなかったが、真奈の父親を奪ったことになる。けれど、父親のいない分の愛情をいっぱい注ぎたい。
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