『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
「そんな! 私、欲しいなんて一言も言ったことありません!」
「わかっている。佳奈がそんなことをする女性ではないと思っていたのに、君から別れようとメッセージが届いた僕は、愚かにも思ってしまったんだ。本当に、すまない」
 礼二は佳奈に向かい頭を深く下げた。まさか、彼の母がそんな嘘を言っているとは思わなかった。そしてその嘘を、彼が信じていたことも。驚きつつも佳奈は「いいから、もう頭を上げて」と声をかけた。礼二がそのことを後悔しているのであれば、もう少し話を聞きたい。
「それでも、君を忘れることできなかった。冷静になると、母の言うことにも無理がある。おかしいと思った僕は、ようやく日本勤務になったから君に会いたいと探したけれど、もう東京にはいなかった」
「真奈を産むために、田舎に戻っていたの」
「あぁ、トニーに教えて貰った。佳奈は実家の田舎に帰っていると。だから」
「……」
 礼二の力を使えば、実家の住所などすぐにわかったに違いない。真奈のことも、調査をすればすぐに判明したのだろう。佳奈は隣ですやすやと眠る真奈に目を落とすと、釣られるように礼二も真奈を見つめた。
「この子を産んでくれて、ありがとう。大変だったよね、佳奈」
「礼二さん、真奈のことを喜んでくれるの?」
「もちろんだよ。今まで知らずにいて、本当に申し訳ないと思っている」 
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