『遠慮しないで』と甘く囁かれて ~誠実な御曹司の懐妊溺愛~
第七章
「佳奈、後片付けが終わったら少し話せるかな」
「ええ、もう大丈夫よ」
 真奈は食事をするとコテンと寝てしまった。さすがに見知らぬ場所に来たことで、赤ちゃんとはいえ緊張したのだろう。リビングにあるソファーに寝かせたまま、佳奈は隣に座る。礼二は向かい合う席に座ると話し始めた。
「まず、誤解を解きたいと思う。母の言ったことについて誤りがある。僕には決まった婚約者などいないし、かつてもいなかった。名家の令嬢というのは、母の勝手な言い分で僕は認めるどころか、反対して家を出ていた」
「でも、お母様は」
「母は黒澤家の格がどうとか言ったかもしれないが、僕はそんなのに囚われたくはない。僕が結婚したいと思った人と結婚すると、父からも了解を得ている」
 礼二はきっぱりと言うと、まっすぐに佳奈の目をみつめた。
「あの頃、僕はアメリカで仕事に忙殺されてしまい、確かに君へ連絡することが少なかった。そのことは申し訳ないと思っている。黒澤の家のことを伝えなかったことも、悪いと思っている。実は、過去に僕は女性からアプローチされることが多かった。皆、僕が黒澤家の者だから近づいているに過ぎなかった。……それが、苦手だった」
「礼二さん」
 悲痛な顔をした礼二は、悔いるようにして唇を噛んだ。
「だから君に伝えるのが怖かったんだ。君が、あの女性たちのように金の亡者となってしまったらどうしよう、と」
「そんなこと」
「あぁ、あるわけないよね。現に君はこれまで、黒澤家のことを知りながらも頼ることはなかった」
 膝の上で拳をつくり、礼二はぎゅっと強く握りしめている。
「なのに、僕は母から君が別れるから慰謝料が欲しいと言いに来たという説明を、鵜吞みにしてしまった」
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