秘密
 お待たせしましたー、と明るい店員にジョッキをどんとテーブルに置かれる。
 彼は受け取って、また一気に三分の一くらいまで喉にビールを流し込んだ。ジョッキを両手で包むように持つ。

「……でも俺は心配するに値しない人間だから」

 そういって理世から目線を逸らし、そのジョッキを見つめる。昏く澱んだ底にいるような、ジョッキの中身に吸い込まれていきそうな儚さを感じた。私は漸く彼の心を触れているかもしれない。今、私は彼の秘密を知り得なくて、だからこそ何が彼の心を壊してしまうのかわからない。私は慎重に、それでいて無難な言葉を投げ掛けた。

「目の前に大切な人がいたら心配したくなるよ」
 彼はいつものように冗談を言うみたいに笑おうとした。
「俺が童貞だったら勘違いするよ」
 また私の前に壁を組み立てていこうとしていくので、私は覚悟を決めた。
 阻む様に強い口調で
「勘違いじゃなかったら?」

 喉元から飛び出した声は微かに震えていた。彼はおそるおそる目を合わせてきた。
 ばつの悪そうな、逃げ場を失った顔をしていた。

「…………」

 からからと喉が乾く。この沈黙は胸がひりついて、耐えれない。
 我慢ならず、彼を責める。
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