秘密
 半年がすぎて、理世が父親位の年齢の男と歩いているのを見た。つま先から死んでいくような感覚に囚われた。ぎこちないくらいの距離で、よそよそしい。途中で笑って会話しているが親しい様子は見られない。

 俺は不安になって、着いていく。理世らが入ったのはイタリアンのファミレスだった。できるだけ近づいて、会話が聞こえるような距離に座った。二人は気付かず、店員を呼んで注文すると再会を歓迎するように男が話す。

「改めて大人になったな、理世」
「…もう成人だから」
 その声は固く沈んでいる。対称的に男性の声は明るい。
「元気にしてたか?」
「まあ、それなりに。…和子さんは?」
「…元気だよ。なあ、理世…」
 男のすり寄る甘えた声に理世はきっぱりと言いつけた。
「しない」
 断られると思ってなかったのか男の顔が一瞬歪んで、また戻る。
 内々の話のせいか全く何のことかわからない。わかることは理世はお願いされている立場で、乗り気でないということだった。
「何度も言っているけど訊けない願いだよ」
「……理世」
「お父さんが私のせいで不安になっているのもわかるけど、本人が言わない秘密は言うべきじゃない」
 男は理世のお父さんだった。それにしては二人を包む空気は重い。
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